リムルさんが無事に牙狼族を下し、夜は明けた。
ゴブリンの村には生き残った牙狼族とゴブリンが集まり、私とリムルさんはゴブリンの村長さんに連れられ村の中央にある切り株に腰掛けていた。
…牙狼族たち…ちょっと後でもふらせて欲しいかも……

村の中心に集まった集団はとても野性味ある所帯である。
リムルさんは何も言っていないけれどしばらくはここを拠点にするはずだ。
ならこの村の整備をしていきたいな、と思う。


『あの、そういえば皆さんお名前は…?』
「いえ、魔物は普通 名を持ちません」


魔物は名前がなくても意思の疎通ができてしまうらしい。
けれどここで暮らすのなら名前がないと不便な気がする。


「よし、お前達全員に名前をつけようと思うがいいか?」


リムルさんがそう言った瞬間場の空気が変わった。
熱烈な視線がリムルさんに降り注ぐ。


「よ、よろしいのですか?」
「お、おうじゃあまあ一列に並ばせてくれ」


恐ろしく魔物達が喜び出して思わずリムルさんと首をかしげる。
そんなに嬉しいのなら自分たちで名前をつければいいのに、と。
名前のセンスは正直私にはないと思うのでここはリムルさんに丸投げしよう…と一歩後ろに下がる。


「ええと村長とその息子は村一番の戦士だったリグルの身内だと言っていたな。
では父親の村長は”リグル・ド”だ。弟のお前は兄の名を継ぎ”リグル”を名乗れ」


空気に大きな揺らぎが見えた気がした。
正確に言えば何かがリムルさんから村長達二人…リグルドとリグルに流れていくような何かが。

その時に声をかければよかったのだ。
順調にゴブリンに名付け終わった後、牙狼族のボスだったこの息子であるという額に星の柄のある牙狼が前に進み出る。


「嵐の牙で”ランガ”お前の名はランガだ」


名付け、とは魔素を大きく消費する者らしい。
リムルさんから流れ出ていたものは魔素だったらしく…何で見えるんだ私。


〈くそ周りの状況がわからないネージュ!おい大賢者どうなってる!?〉
〈解。体内の魔素残量が一定値を割り込んだため、定位活動状態へと移行しました〉


頭の中でリムルさんと大賢者さんの声が会話する。
地面の上で溶けてしまったスライムボディの周りに心配でゴブリン達が駆け寄るのを止めて、溶けてしまったスライムを集めて丸く形を整えてみる。
大賢者さんによれば再び活動できるまで3日ほどかかってしまうらしい。


「…姫?」


抱き上げたリムルさんの体を見つめていると隣にいたハルナと名付けられた女の子に声をかけられ気付く。
どうしよう、守護者であるリムルさんが眠ってしまった今、今後の行動を促すようにゴブリンや牙狼族達の視線。


『とりあえずみんなでご飯にしますか…?』


あほみたいな言葉しか出てこなかった。
助けてリムルさん。





とりあえず私に食事は必要ないものの美味しいものは食べたい。
ゴブリン達に今までの食事はどうしていたのかと聞いてみると肉を焼くかそのまま生で食べるか程度の食生活。
うん。たぶんリムルさんもここはどうにかしたいとは思うだろう。あとは嵐がくればすぐに吹き飛んでしまいそうな藁の家。
食事は私の知識でどうにかなりそうではあるけれど家に関しては専門外すぎる。
藁よりはましだろう…と牙狼族達からのバリケードように作っていたものを一部崩させ、それで家を建ててみることにした。
結果は聞かないで欲しい。

そして3日後。

そろそろリムルさんも目を覚ますだろう。
ゴブリン達は成長して私の腰ほどだった身長も大きくなり見下ろされるようになってしまっていた。
今日のリムルさんの世話係はハルナだったと思う。あの子、私のお世話も焼いてくれるとてもいい子である。

リムルさんの眠る家にハルナとともに赴けばすでに意識を取り戻していたらしい。

「まあリムル様、お加減はもうよろしいのですか?」

食住もどうにかしたいけど衣服も問題なのよね。

「リグルド様を呼んで参りますね、姫様はここでリムル様とお待ちください」
『はい、ありがとうございますハルナ』

ゴブリン達は名付けにより進化。それに伴って身体能力も姿も大幅に変化している。
けれど衣服は以前のままなのである。つまり男女ともに際どすぎる。


「リムル様!お目覚めになられましたか!姫の言う通りでしたな!」
「おおリグルドさっきの女性は__」


うん。リムルさんが言葉を失った理由に苦笑いをこぼす。
リグルドさんが一番見た目変わった気がするもの。ヨボヨボのおじいちゃんがむきむきのおじさんに変わった感じ。


「さあお二人ともこちらへ、宴の準備ができております」
「お、おう…」


な、なあネージュ…と声を潜めてリムルさんが声をかけてくる


「…なんか皆でっかくなってないか…?」
『…うん、なんかリムルさんの名付けの影響で進化したらしいよ…?』


リグルドに連れられて家から出ればすぐにランガが駆けつけてきた。

「御快復心よりお慶び仕ります!!わが主よ!!」
『ランガ〜!』

「ら、ランガ!?」


親父よりもでかくなってないか?という心の声が聞こえてくる。リムルさん、念話繋がってます。
ランガはここ3日ほぼ私と一緒に村を回っていた。リムルさんがいない間の護衛だという。
よくもふらせてもらっているし、その時のランガの尻尾は嘘をつかない。大喜びなのだ。かわいい。
でもランガの尻尾で巻き起こる風にたまに飛ばされそうになって通りかかるリグルに助けてもらっている。

村の中心へと向かうと宴の準備が整っていたらしい。
大賢者さん曰く、雄ゴブリンはホブゴブリンに、雌ゴブリンはゴブリナへと進化したと。
人型により近くなったのだ。



 




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