「えーでは。皆の進化と戦さの終わりを祝ってかんぱーーーー」
地面に直置きのお皿に守られた焼かれたお肉。
コップに注がれたお水。スライムボディで掲げられたコップに倣って私も掲げてみるもゴブリン達は私たちを見つめてじっとしている。
「見つめてないでしろよ乾杯!!」
「リムル様”かんぱい”とは一体…」
「え?ああ、なんだ知らなかったのか」
まああちらの世界での文化というか習慣なのだし、そもそも魔物にはこういう文化はないのかもしれない。
羞恥心もないようだし。というかこちらも目のやり場に困る。
『リムルさんリムルさん』
「ん?」
『お料理は火の通し方とかでレパートリーは増やせたのだけれど、やっぱり色々足りなくて…』
住居も衣服も調味料も知識も足りないものだらけだ。
「うん、わかってる。…課題が山積みだな」
***
のちにリムルさんの丸投げによってリグルドさんはゴブリンロードに格付けされ。
ルールが3つ示される。
ひとつ、仲間内で争わない
ふたつ、進化して強くなったからといって他種族を見下さない
みっつ、人間を襲わない
「よろしいでしょうか」
リグルが手をあげる。
名付けによってリグルも大きく変わった気がする。気のいい青年風になっている。
「なぜ人間を襲ってはならないのでしょうか?」
「簡単な理由だ、俺が人間が好きだから、以上!」
「なるほど!理解しました!」
とても簡単に納得してしまった。
「いや、ええとな人間は集団で生活してるだろ?彼らだって襲われたら抵抗する。
数で押されたら敵わないだろ?」
その後、役割分担に移る。
警備担当、狩猟担当、村の整備担当に分けられる。
そしてやはりリムルさんは住居の問題が一際はひどく映ってしまったらしい。
そこから話は流れ技術を求めてドワーフの住む武装国家ドワルゴンへと向かうことになった。
お留守番しようとしていたら当たり前のようにリムルさんと同行することになっていた。
いや…国は気になるけれど、私が行く理由もメリットもない気がするのに。
「え?一緒に行くだろ?」
リムルさんのなかでは私は当たり前のように一緒に行くことになっていたらしい。
嬉しい気もするけれど、このままだとなんとなく…。
きっと悪くは思われていないとは思うんだけれど、それ以上を感じてしまうというか、
ていうかきっと私が魔物達の言葉がわかるのはリムルさんのスキルを共有しているからだと思っている。
それが、もし私の持つというユニークスキルのせいだとしたらとても怖い。というか…
と考えてから頭を振る。
ドワーフ国に行くには二ヶ月ほどかかるらしい。
けれど嵐牙狼族の足ならばもっと早く着くらしい。
というわけでリムルさんも乗せ、さらに私も乗せることのできるらしいランガと数名のゴブリンと牙狼族をお供にドワーフ国へと向かっていた。
時速およそ80km。落ちないようにリムルさんのスキル粘糸で体を固定してもらった。
私だけすごく巻かれた気がする。
落ちないとわかっていても谷を駆け下りられた時は流石に死ぬかと思った。リムルさんを巻き込んでランガに思いっきり抱きついてしまった。毛を引き抜いてしまっていたら申し訳ない…。
そして日が暮れてきてしまったので野宿。
持ってきていた食料を火をつけて簡単に調理してみた。
うん、お肉は焼いただけで食べれるからいいよね。
「ゴブタ、お前はドワーフ王国に物々交換に行ったことがあるんだよな?」
「は、はいぃぃ!」
「どんなところなんだ?」
串にお肉を刺して焚き火に当てるように焼いて頃合いになったものをリグルから手渡してもらう。
ゴブタによればドワーフ国、正式名を武装国家ドワルゴン。
天然の大洞窟を改造した美しい都らしい。ドワーフだけではなくエルフや人間もいるらしい。
人間もいるんだ…!
「会ってみたいな、でもネージュはともかく魔物の俺たちが入っても大丈夫なもんなのか?」
「心配はいりません。ドワルゴンは中立の自由貿易都市。王国内での争いは王の名において禁じられております」
なんでもドワーフ王率いる軍は1,000年もの間も不敗を誇っているらしい。
つまり無敵のドワーフ王の不興を買うようなバカは少ないってことなのね…。
『じゃあ自分から手を出さなければ大丈夫かしら』
「ええ、トラブルなんて起こりえませんよ」
そういうリグルの声の奥でゴブタの「自分が行った時は門の前で絡まれた」という声が聞こえてしまった。
フラグ建ちませんでしたか…。
話もそこそこにその日はもう休んだ。
地面に丸まるランガのそばに寄って暖を取って目を瞑る。
次の朝、目が覚めるとリムルさんを抱きしめていた。
どうやら寝ぼけて抱き枕のようにしてしまっていたらしい。
バッと距離をとって平謝りすれば簡単に笑い飛ばしてくれた。
「役得だったしな!」
役得…。
__ゴブリン村を出発してから丸3日。
眼前にそびえる大山脈。その麓に広がる牧草地。
武装国家ドワルゴン。
徒歩で二ヶ月かかる距離をわずか3日で走破した。