明かりが消えた暗闇の中、闇に慣れて来た瞳が音を立てて開いていく扉を捉える。


『「ふ、婦長?」』

私とアレンの声がかぶる。

「ふちょう?」
「あ、ホントだ」
「お前らこの暗闇でよく見えるね」

「あーー修行時代の節約生活で夜目がきくようになりまして」


まったく笑ってない目でそういったアレン。うん。私もそれにつられてそんな感じ。
クロス師匠の借金とかの関係でほんとうに…ね…。
そんなアレンの腕に婦長の手が伸びる。
そして

ガブ

「……はい?」

ガジガジ。
アレンの左腕、イノセンスを噛み続ける婦長を見上げる。


「どうしたんですか婦長!?」
「え、怒ってんの?婦長怒ってんの?」
「モヤシテメェまだ退院してなかったのか」
「バッチリ退院しましたよ…」


アレンに噛み付いた婦長を引き剥がし、リーバーがアレンの右腕を引いて二人を遠ざける。
婦長に噛み付かれていたアレンの左腕をとってイノセンスを発動させ治癒を施す。
…というかイノセンスに普通の人間であるはずの婦長が噛み付くなんて、そんなことあるんだろうか、
婦長の歯のほうが心配な気がしてしまった。

「ガルルルルッッ」
「まあすごい声、風邪じゃないですか婦長」

押さえつけられながら唸り続ける婦長にミランダが心配しながら近づく。

「わーーっ」
「婦長何をなさるの!」
「ガルルルル」

今度はミランダの首筋に容赦なく噛みつき、一人では押さえつけきれなくなった婦長を数人が束になって押さえつけにかかる。

『…ミランダ?』
「ミランダ?少し心音が、おか…」


少し様子のおかしいミランダに不審に思って声をかけるも反応がない。
近くにいたマリを振り返ったミランダが今度は不意に無防備なマリの首筋に噛み付いてしまう。
ぼっと身体中を赤くさせてしまったマリに、あら。なんて思いながら見ていると、今度はマリが近くにいた神田の手首を掴み、薬で小さくなってしまった彼の体をいとも簡単に持ち上げる。

「おい?なんのマネ…」

そこでようやく、今の状況のおかしさに気づいたのだった。
見えたマリの表情は、あまりにも理性のある人間には見えなかった。
その間にも婦長は周りにいた科学班のみんなに噛み付いていき、様子のおかしくなってしまう人はどんどんと増えていく。
…これなんのゾンビ映画だろう…なんて少し現実から目を背けていると、低かった目線が急に高くなる。


「…アンジュ、捕まってて」


今は小さくなってしまった体できっと思うように戦えない。
ぎゅ、とアレンの片腕に抱き上げられると、肩をぎゅ、とにぎって体制を保つ。

「扉の方をみてください」


誰にも噛み付かれていない無事な人員で固まっていると、リンクが小さく呟く。
開け放たれた扉から、ぞろぞろと、また正気を失っているようにみえる人たちが入ってくる。

「こいつら正気じゃねえぞ!!」

マリに掴み上げられた神田が彼の顎を容赦無く蹴り上げ高速から逃れると同時に、正気を失った人たちが一斉にこちらに襲いかかってきた。


「ごめんなさいっ」


各々イノセンスを発動させ、リナリーは神田とブックマンを抱えて黒い靴で襲いかかって着たみんなから距離を取るのをみた。
残った正気を保っている人たちをアレンのイノセンスのマントで…比較的丁寧に優しくなぎ払う。


「ご、ごめんなさいそんなに痛くないようにしたんですが」
『そっそれどころじゃないよアレン早く逃げないと!』



アレンの気をひくようにぺちぺちと頬を叩くとようやくその部屋から逃げ出す選択肢をとってくれた。
無事な人たちで固まって集まって一斉に部屋から飛び出す。
ついで正気を失った人たちが追いかけてくる。こわい。アレンに抱きかかえられているから後ろを見てしまったのを後悔した。あれは怖い。



「あいつらどうしちゃったんさ!?」
「うじゃじゃいやがる」
「足早ッ」
「まさかまた敵襲か!?」



部屋になだれ込み扉を塞ぎ、廊下を覗ける窓から、とりあえず追いかけてきていた集団を巻いたことを確認して息をはく。
敵襲か、と息を乱すリンクに、ちがうかも…と思っていると科学班とリナリーが顔色を悪くさせ、一人の巻き毛を思い浮かべる。


「噛まれると傷口から感染してああなっちゃうから気をつけて」
「感染だぁ〜?」
「なんでそんなことわかるんです…」


どん、と地面に座り込んだアレンから降りると、しれっとそのばにコムイさんが混じっていた。
あとなんか隣にコムイさんそっくりの何かがいた。

「ボクが作ったウイルスだから」

元々この部屋に隠れていたっぽいコムイさんに対して科学班のみんながブチギレて確保を試みたが、
とんでもない返り討ちにあっていた。リナリーはもちろん、リンクと私もその被害はまのがれたけれど。
コムイさんそっくりのなにかはコムリンEXと名付けられたロボットらしい。いつかの何かを思い出す。コーヒー飲まないですよねこれ。

そして今教団を襲っている脅威はコムイさんが以前作ったというコムビタンDというお薬らしい。
投与するればどんな疲れもたちまち吹っ飛び仕事ができる、強力すぎて理性まで吹っ飛ぶ残業用ゾンビウイルスらしい。
なんてもの作ってるんだこの人…!

「何がどうしてこうなったかはさておき、これじゃ全く引越しができない!
この感染は抗体があれば止められる。どこかに現役を摂取した感染源がいるはずだ。抗体はそれからしか作れない!」
「抗体つくってなかったんですか!!」

あのとんでもない集団から感染源を見つけれるのか…?という気持ちと、
あれ、そういえばアレン…っていう心配が頭を駆け巡って頭が痛くなった。


 


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