ゴーン、ゴーンと時計の鐘が鳴る。
午前2時。

リナリーに持ってきてもらった彼女の幼い頃に来ていたと言う服を貸してもらって着替えて戻って来た時。
うとうとと積み上げられた本にもたれかかって眠ってしまっているアレンが目に入った。必死に倒れかける本を抑えているティムも。


『アレン…!起きて!』


思ったよりもすごく高い小さい女の子の声が出た。
ぐらっと倒れてしまった本の山とアレン。ついでぼんと何かが爆発する音。


『あ…』
「わぁあああああ??」
「またやったか…」


起き上がったアレンの髪がものすごく長く伸びていた。ティムも…え、髪が。うそ。

「これは以前にバク支部長の誕生日に作った協力育毛剤だ。大丈夫これも時間が経てば元に戻るよ」
「4人目…」
「だから油断するなって言っただろ」

「科学班が変な薬作りすぎなんさッ!!」
「わしの髪が…ウサミミに…」
「てめえら実は仕事しねえで遊んでたんじゃねえのか…ッ」
「よかったまだマシなので…」

ラビと神田と私が小さくなってしまう薬。二人はブックマンの服を着ていて、今私はリナリーの幼少期のチャイナ服を借りて着替えて戻って来たところである。
そしてリナリーに髪を遊ばれている最中である。二つくくりにされた。
被害者があつまる場所にやって来たアレンを小さくなってしまった手で呼んで伸びた髪をリボンで一つにまとめてあげる。

「…アンジュのその姿なつかしいですね…」
『ちょっと違和感あるけど…』

かわいい…と疲れた顔でつぶやくアレンと低くなった目線と高くなった声に苦笑いをこぼす。
次いでかわいいでしょ、とリナリーに貸してもらったチャイナ服のスカートを握って笑って見せた。

…本部は今引越し作業に追われている。
本部移転の通達が出たのは2日前。ルル=ベルの襲撃で中央庁の議会は100年使って来たこの城の廃棄を決めたらしい。

目を伏せるアレンに伸びた髪を撫でながら、大丈夫?と声をかける。


「うん、少し思い出して…」
『……ああ、コムイさんたちと話したときの』


”奏者の資格”
そのことについてコムイさんと話したときのことだ。その場にはリーバーさんもリンクもいた。
新しい本部や任務に方舟の能力を利用しようとするにあたって、唄について詳しく話してほしいという内容。
…私も、まだ受け止めきれていないし気持ち悪い。きっとアレンなんてもっとそう思ってる。
ずっと信じて来たものが揺らいでどうしようもないはずなのに。
大丈夫なんて、言えない。けど

『…、アレン。私、ずっとそばにいるからね』
「…ふふ、小さい時もよくこうやってアンジュに撫でてもらったことあったな」
『……?』
「え?」



あったけ?と首をかしげるとアレンが不思議そうに首を傾げた。
…でもアレンがそう言うのならきっとあったんだろうな。思い出せないけれど。
うーん?と首をひねりながら思い出そうと目をぎゅっと瞑るから気づかなかった。アレンがこちらをじっと探るように見ていたことに。

___ボム


「げっ」
「またやった!!」


ハッと目を開ける。
今度は何が…!


「にゃ〜?」
「にゃーにゃー」
「わーーーー今度は猫語になったぞっ!!」
「誰が作った!!」
「じじいきもいさーーー!!!」


どうやらリナリーとブックマンが”猫語になる薬”なるものを被ってしまったらしい。
どうなってるんだろう科学班…。

「ヒイィイイイイごめんなさい!!私も猫になってお詫びを〜!」
「ダメダメダメ!おちつこうミランダさん」
「じじいはヤバイけどリナリーは許せるからいいんじゃね?」
「何言ってんだテメエは!!」


薬を自らかぶろうとするミランダをマリとアレンが慌てて抑えにかかる。
ゆるい発言をしたラビに神田がごっと殴りかかるのが見えた。私はというと小さくなった足をパタパタと動かしてリナリーの元へと向かう。


『リナリー…』
「ちっこれコムイにばれたらやべえぞ…」
「ニャー」
「問答無用っすよ殺される!」
「おいこれ作ったの誰だ!!」
「もうイヤだ科学班の引越し…」


なんかさっきからリーバーさんの挙動がおかしい。焦ったように作ったのは誰だと叫ぶ彼に、作ったのはリーバーさんなのでは…と思わず見上げてしまう。


「まさかもっとやばい劇薬とかあるんじゃないでしょーね」
「や、所詮俺らごときが作るもんだし。そんな常識外れなの作んないよ」
『…十分はずれてるんだけど…』


訝しげにリーバーを見上げるアレンにうんうんと頷く。

「コムイ室長みたいなヤバイのはさすがにね〜」
「あるの?」
「へ?いやっでも、ほんと危険なのはちゃんと室長から取り上げて倉庫に隠してあるから…」

_じじ、と電気が音を立てた。
ふっと暗くなってしまった部屋に思わずそばにいたアレンに体を寄せる。
身長が小さくなってしまったせいで無意識につかんだのは彼のズボンだった。

加えて、周囲に響き始めた不気味な笑い声。

「なんだ!?」
「おっおっおっおばけ…っ!?」
「「まさか」」
「コムイの悪ふざけだろ」
「まて!おかしいぞこの声どこからしているかわからない」

耳のいいマリが言う。
「ぜったい室長だ!!」「室長だ」「室長ーっ俺ら忙しいんですよ!!」
「仕事しろ巻き毛!!」

…なんていうかコムイさんこういうときの信用のなさすごいな…。
まあコムリンとかコムリンとかコムリンとか…前科がすごいものね。
騒がしくなった科学班にマリが「しっ」と声を出す。


「声とは別に何か音がする!近づいてくるぞ」


部屋の扉の先。
暗闇に慣れて来た目がギィと音を立てて開く扉を見た。


 


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