リボーン複数主 | ナノ


▼ 標的173

味方であるはずの了平によって拘束された由良は、無駄だと分かっていても何度も身動ぎした。その度に縄がぎちぎちと肌に食い込む感覚に歯を食いしばる。
先輩が、強いってことは、分かっているけど…!
先のバイシャナとの戦いで、ボンゴレの守護者たらしめる姿を見せた了平が負けるとは思っていない。しかし、少し前に見せたγの覚悟を決めたような瞳と表情に、頼りになる友人と離れ離れになったこの状況に、嫌な予感と不安が拭えなかった。

「極限(マキシマム)イングラム!」

由良の不安が解消されないまま、γと了平の戦いが始まった。バイシャナと戦った時のように了平は足にジェット機を装着し、宙に浮いた状態で上からコンテナの前にいたγに拳を打ちつけた。強い打撃を連続で繰り出す極限イングラムは、常人では避けられない了平のラッシュ攻撃だが、γはいとも簡単に避け、了平の拳はコンテナを打ちつけた。しかしコンテナは頑丈にできているようで、びくともしなかった。それは、了平の攻撃を避け、その背後に回ったγ本人が了平に向けて教えたことだった。

「俺の番だ。」

短く言ったγも了平と同じように宙に浮き、逆さになった状態で武器を構えた。

「ショットプラズマ!」
「!!」

γが使用する武器は剣や銃などではなく、ビリヤードだった。まるで盤上の球を全ての穴に落とすように、キューを手球に打ち込むと、周りに漂っていた球に当たり、その当たった球がまた別の球に当たり、と不規則な動きで軌道を変える球だが、その全ては雷の炎を帯びており、了平に向かっていく。その攻撃は一度獄寺が目にし、その身に受けたことのあるもので、あの技だ!とアタリをつけた。その技を初めて目にする了平、由良も目を見張るも獄寺や山本から聞いていたのですぐに分かり、了平は近くのコンテナの陰に隠れて身を潜め、対策を練った。

「おい、誰の入れ知恵か知らねえが、その避け方じゃ間に合わないぜ。」
「?」

しかしγの意味深な言葉の後、了平の周りをビリヤードの球が次々と浮かび、囲った。と思いきや、各球から雷の炎が放電するように放出され、了平を囲み閉じ込めた。

「エレクトリック・タワー!」
「な!?」
「芝生!」
「先輩!!」

γの言葉に不思議がる暇も無く、技名が静かに告げられたと思うと了平の周りを囲んでいた球が放出した雷が逃げ場を塞ぎ、了平を攻撃した。高い電圧の雷は熱光線のように熱く、鋭いレーザーとなり、逃げ場のない了平は攻撃をモロに喰らってしまい傷つき体の至る所から血が吹き出た。
ブシャッと吹き出された了平の血は、コンテナの陰で姿が見えなかった由良たちにも見えた。それはつまり、了平が受けた攻撃がそれ程強力なものだったと言外に証明していた。

「前に会った時の俺とは違うんだ。生憎な。」
「うぅ…」
「芝生頭!」
「笹川先輩!!」

傷一つなく余裕な素振りで声を発するγに対し、了平は先程の攻撃、エレクトリック・タワーによる雷撃を受け傷だらけで既に満身創痍となっており、獄寺と由良が了平を案じて声をかけても呻き声を出すだけで返すこともできなかった。その現状だけで、了平が窮地に陥っていると察するのには充分だった。
しかし敵であるγはそんな了平を見逃してくれるはずがなかった。

「中々しぶといな。今天国の扉見せてやるぜ。」
「!やめろ!」
「待ちやがれ!」
「ガアアアアアア!!」
「!?」

武器を構えとどめを刺そうとしたγに、縛られ動けないながらに止めようと声を上げた獄寺と由良。その2人の言葉に呼応するように、了平のアニマル匣である漢我流が踏み込み、宙に浮くγ目掛けて飛んでいくが、構えた姿勢のままγはくるりと振り返り、漢我流に向けキューを放ち、寸分違うことなく雷が漢我流に直撃した。

「ガアアア!」

避けることもできず、為す術なく電撃を喰らった漢我流は悲鳴を上げ、受け身も取れずに獄寺の近くに落ちた。獄寺や由良が安否を確かめるため「おい」「我流」と声を掛けるが漢我流は答えず、ぐったりとしていた。

「焼き加減はレアだ。」
「くっそぉ!てめー!!」
「ざっけんな…!」

シュゥゥと雷によって身を焼かれ、鎮火によって煙が出る漢我流の体を揶揄するようなγの言葉に、動くことも何もできない獄寺と由良が怒りと悔しさに叫ぶが、身動いでも縄が体に食い込むだけで事態は変わらなかった。その事実にただただ悔しく歯痒い思いをし、歯噛みする由良と違い、獄寺は拘束されながらも自身の手、もっといえば指に嵌めたリングの位置とベルトに装着していた匣の位置を把握し、思案していた。そして、徐に炎を灯し、開匣した。

「出てこい!瓜!」
「!獄寺の、猫…!?」

頼れるのはコイツしかいないという思いで開匣した獄寺の匣から出てきたのは斑点模様が特徴の猫だった。拘束されうつ伏せになっている獄寺の背中に座る瓜と呼ばれた猫は獄寺に縄を解くよう指示を受けるが我関せずといった様子で、のんびり獄寺の背中から降りることもせず、毛繕いをしていた。なんともマイペースな猫である。

「無視すんじゃねえ!!」
「飼い主に似たんだなあ…」
「んだと!?」
「ヤバッ」

獄寺の指示を聞こうとしない、もはや聞こえているのかすら定かではない瓜の様子に、匣基飼い主の獄寺に似てるとそのままぼやいた由良だが、耳がいい獄寺には聞こえていたようで突っかかられた。思わず視線を逸らしたが、2人がそんなやりとりをしている間、瓜が獄寺の言葉ではなくγから発される殺気を感じ取り、先程までののんびりとした様子はなりを潜め、毛を逆立てシャーッと威嚇した。瓜の声に気づいた2人が瓜を見遣るが、それに応えることなく獄寺の背をぴょんっと飛び降り、真っ直ぐ駆けて行くではないか。

「バカ!!殺されるぞ!」
「早く戻って!!」

瓜の行動に驚き、しかし無謀な行動と判断した獄寺と由良が戻るよう叫ぶが瓜には届いておらず、獄寺との距離が遠くなる。瓜の威嚇の声で存在に気づいていたγはゆったりとキューを構え、「お前はミディアムレアにしてやる」と狙いを定めた。同時に、瓜が後ろ脚で地面を蹴って大きく跳躍する。

「瓜ィ!!」
「っ!」

獄寺の悲痛な叫びが響き、それを聞きながら由良は縄を解こうと必死に動いた。早く早くと気持ちが逸るばかりで、何度も身動ぎ、縄が食い込んだせいか所々擦り傷が出来ていたが、縄は一向に解けない。

「下がっておれ!」
「!」

そんな中、ガキィッという音と共に聞こえた声にハッと顔を上げる。見れば瓜はニャッと悲鳴を上げ、何度か地面に打ち付けられながら漢我流と獄寺のまで飛んでいった。一体どういうことかと視線を瓜から頭上に向ければ、瓜に放たれるはずだったγの球を受け止める了平の後ろ姿があった。

「!!」
「笹川先輩!!」
「高速治癒全開!!」

思わず息を呑む獄寺と叫ぶ由良。晴の炎の特徴でもある”活性”により、己の細胞を活性化させ、γから受けた傷を自己治癒力を限界まで高め回復させ、雷の炎で強化された球を拳で、その体全身で受け止めていた。

「芝生!!」

しかしいくら炎の活性によって自身の傷を治したと言っても限度がある。
一時了平は、由良達の声に答えることすらできない程の重傷を負い、恐らく意識も失いかけていたはずだった。そんな彼が今再び立ち上がり、γの攻撃から皆を守っているのは彼の気力が成せるものであり、その必死な姿に、γは感心したように声を上げた。

「ほう…思ったより頑張るなあ、晴の守護者。だが諦めな。俺とお前では何かと差がありすぎる。リング一つとってもな。」
「ぐわ!!」
「先輩!!」

γの言葉に合わせるように、追い撃ちをかけるように了平に雷が直撃し、再び了平の体から血がブシャッと吹き出し、了平の悲鳴が上がる。咄嗟に由良が叫んだ。

「い…いいか、獄寺、神崎…俺が倒されれば、その縄は解ける…」
「!!」

γの攻撃に耐えながら、途切れ途切れだが、はっきりと聞こえた了平の言葉。
その言葉はまるで、自分がこの後倒されると言っているようなもので、2人は息を呑んだ。言葉がすぐに出てこず、動揺する由良を置いて、「獄寺」と了平は声をかけた。

「俺と同じですぐに頭に血を上らせるのがお前の悪い癖だ…」

まるで何かを伝えるような、了平らしくない、勿体ぶった物言いに、獄寺、そして由良は気づいた。一言も聞き漏らさないよう、全神経を耳に集中させる。

「慌てるなよ、2人とも」
「!」

血まみれになりながらも振り向いた了平の瞳は、言葉は、それだけではない確かな意志を持っていた。了平の言葉を信じれば、大丈夫、と思わせるような力強いものだった。

「召されな。」

了平の言葉と瞳に、息を呑むしかできなかった由良の耳にγの言葉が入ってきた。かと思えば、トドメの一発とばかりに球を打ち込む様子が見えた。
球は受け身の取れない了平を直撃し、激しい電撃が了平の体を襲う。

「芝生ーーー!!」
「先輩!!」

眩い光と、バリバリッという音があたりに響き、光がなくなった刹那、了平の体がスローモーションのようにゆっくり倒れていく様が視界に入る。
動けず見ているしかできない獄寺と由良の叫びは届いているのかどうかも、完全に意識を失った様子の了平からは窺い知ることはできなかった。

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