1話
私には、双子の妹がいる。口下手で、ひねくれたことしか言えなくて、人見知りでちょっと素っ気ない態度をとってしまう子。それが全て周りにはカッコいいと誤解され、クールだなんだともてはやされてしまう子。私の大切な、妹の1人。
「ちょっと、通れないんだけど。」
今日も、登校途中で遭遇したカツアゲの現場に割って入っていったあむ。私は、そんなあむの少し後ろの方で様子を見ている。私の角度からは見えないけど、きっと澄ました顔で、相手を見ているんだろうな。内心怖いって思ってるだろうに。言わないけど、それは流石に。
初めは威勢の良かったカツアゲの人達も、相手があむだと分かった瞬間、顔が真っ青になって、冷や汗もどんどん流れていた。一方で、カツアゲの被害に遭っていたたぶん下級生の同じ学校の男の子は、とっても嬉しそうにあむのことを見ていた。学園中にあむのことは知れ渡っているんだな、と改めて思った。あの子のこと、私今日初めて見たから。
「桜小のサッカー部を1人で潰したって噂の、あの!」
「関東の小学校は全部顔パス!全校長が逆らえないっていうあの!」
「我が聖夜学園小きってのクール&スパイシー小学生、日奈森あむさんですか!?」
「ぶっ!」
すごいデタラメな噂を訂正することもなく、だったら何、と複雑そうな顔で言ったあむ。私はと言えば、根も葉もない噂を聞いて、あまりにもかけ離れすぎていて吹き出して、そのまま笑ってしまった。あむに視線で訴えられているような気もするけど、ごめん無理、耐えられない。声に出しているわけではないから許してと思って、1人静かに肩を震わせながら笑う。無理、面白すぎる。
私が葛藤しているあいだに、カツアゲをしていた人達は一目散に逃げていって、残ったのは私とあむ、そして被害に遭っていた男の子だった。男の子はお礼を言って、どこかに行くわけでもなく、どこにあったのか、色紙を取り出してあむにサインをねだっていた。その様子に再び笑いそうになった。何とかこらえたけど、あむにはバレているっぽい。ちらりと目線が向けられていたから。
「バカじゃん?通行の邪魔なのはあんたも一緒。次からは気をつけなよ。」
そしてお得意の照れ隠し、ではなくて、素直になれなくて、つっけんどんなことを言ってしまったあむ。一応フォローが必要かな、と思って男の子を見れば、目を輝かせてカッコいい!と言っていたから、大丈夫と判断して放置しておいた。
少し前を歩くあむを見れば、小さくため息をついていた。またさっきの事で悩んでそう、と思って、小走りで隣について、声をかけた。
「あむ。大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ…怖かったぁ…」
「変な噂に怖がってくれて良かったね。」
「全然良くないんだけど!っていうかあめ、さっき笑ってたでしょ!」
「ふふっ、ごめんごめん。だって、あまりにもかけ離れすぎていたから、逆に出来ちゃうのかも、って思ったら、おかしくなってきちゃったんだもん。」
「全然理由になってない!」
疲れた様子のあむに声をかければ、案の定、さっき笑っていたことについて言われ、怒られた。確かにさっき笑ってしまっていたけど、これでも一応、悪いな、とは思ってる。だから謝罪も本音ではある。理由も本音なんだけど、また怒らせちゃったし、言わないほうがよかったんだな。
また、ごめんね、と謝れば、しょうがないなぁと許してくれた。それに安心し、今日も仲良く2人で登校した。
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