リボーン複数主番外編 | ナノ


▼ 上達するために

くるみは持ってきていた物を頻りに確認し、問題ないと分かるとホッと息を吐いた。進級してから来ていなかったこの場所にまた呼び出されるのも、こうして訪れるのも初めてだが、きっとこれからこんな事が続くんだろうなあと少し沈む。そんな気分を切り替えるように首を横に振ったくるみはよし!と意気込んでドアをガラリと開けた。

「遅い。」
「急に呼び出したのは恭弥くんの方でしょ!」

機嫌悪く言われた言葉に負けじと返し、半年程前まで定位置だったソファーに腰掛ける。既に積み上げられた書類の山に抗議の視線をヒバリに向けるが、華麗に無視してカリカリと鉛筆を動かしている。幼なじみの様子に溜め息を吐いて、くるみも同じように鉛筆を手に取り積み上げられた書類の1枚を取った。


暫く書類仕事をしていた2人がキリ良く終わったのはくるみが来てから既に2時間程経過しており、頭を使ったからか少し小腹が空いている。ヒバリの方を見れば彼も同じようで、机に置かれている緑茶を飲んでいるところだった。
そんなヒバリを見逃さなかったくるみはキラリと目を光らせ、恭弥くん!と大きな声で呼びかける。呼ばれたヒバリは嫌な予感がすると心底嫌だという顔をしながらくるみに目を向けた。

「お腹空いたでしょ!これ食べて!」
「………………何を入れたの。」
「毒なんて入れてないよ!?」

ニコニコとタッパーを差し出すくるみに疑いの目を向けるヒバリは決して受け取らない。否定するくるみの言葉を信用しないヒバリは早くしまうように言って作業を再開する。
もちろんそれを許すくるみではない。

「ほら!美味しそうでしょ!」

タッパーの蓋を開け、中身を見せてくるくるみ。見ればミートボールや唐揚げ、卵焼き、アスパラのベーコン巻きと言ったお弁当でよく入っている料理が詰め込まれていた。くるみが言うように美味しそうな見た目ではある。が、ヒバリは頑なに食べようとせず、じろりとくるみを睨めつける。
が、くるみは一向に引く気はなく、ニコニコと差し出している。

「味見はしたの。」
「もっちろん!美味しかったよ!」
「全部したの。」
「うん!」
「…………………。」
「…………………。」

無言で見つめ合うことしばらく、くるみの額から汗がたらりと伝う。心做しか、先程まで綺麗に上がっていた口角も片方ひくついている。
その変化を見逃さないヒバリはくるみと呼びかける。

「本当は。」
「ちょ、ちょっと甘かったり舌触りがおかしかったりするだけで、美味しくないわけじゃないんだけどね!?」
「不味いんでしょ。」
「そ、そんなはっきり言わなくてもいいじゃん!もしかしたら美味しいかもしれないんだし!」
「自分で不味いって言ってるようなものだろう。」
「うっ……」

ヒバリに論破され反論できず項垂れるくるみを見て、溜め息を吐いた。

思い出すのは幼い頃。己と同じように強くなり始めたくるみの実力を認め、漸く親の縛りから抜け出せた小学校高学年のある日。その日は両家の両親が不在だからとヒバリの親が手を回したようでくるみが送り込まれ、何故かそのまま家に宿泊することになった。
既に1人でなんでも出来ていたヒバリだが、せっかく泊めてもらうのだからとくるみが夕飯を作ると言い出し、好きにさせた。それがいけなかった。

「きゃっ…」
「……………何してるの。」

小さな悲鳴が聞こえ台所に行けば焦げ臭い匂いが充満し、更にはくるみの顔に煤のようなものが着いていた。理解出来ず聞けば、ハンバーグを作ろうとしたら火加減を間違えたらしい。
見れば、フライパンにあるのは黒い何か。きっとハンバーグになるはずだったのが可哀想なことに炭にされてしまったのだろう。
溜め息を吐いたヒバリはまだ無事だった残りのタネを別のフライパンで焼き、ぎこちない形に切られた野菜達を傍に散らして2人分の食事を用意した。その間くるみは焦げてしまったハンバーグとフライパンの処理をしており、気づけばヒバリが夕飯を用意していたのでなんでもできるんだと感心していた。

「いただきます!」
「……………!」

元気なくるみの挨拶を聞きながらハンバーグを一口食べ、近くにあった水で一気に流し込んだ。

「きょ、恭弥くん…?」

口を抑え、俯くヒバリに声をかけたくるみは美味しくなかったのか?と思いパクリと口にする。そして、ヒバリと同じように水で流し込んだ。
ヒバリと全く同じ行動をしたくるみに静かに声がかかる。

「何を入れたの。」
「レシピ通りに入れたよ!」
「それならこんなに味が濃いはずがないでしょ。分量間違えてるよ。」

怒気を含んだヒバリの問いに答えたくるみの言い分は決して間違っていない。が、ヒバリの言い分も間違いではない。現にくるみが作り上げたハンバーグは塩辛く、胡椒やナツメグといった香辛料の匂いもキツイ。
レシピ通りに作ったと言うくるみだが、ヒバリの指摘通り、分量を盛大に間違えた箇所がいくつかあった。塩、胡椒、ナツメグを入れる際に表記される「少々」という分量だ。これは味を整えるために必要な過程だが、前世の頃から料理をしてこなかった、更に言えば家庭科は習い始めたばかりのくるみにその分量は分からず、これくらいだろうかと入れた分量が多くなってしまったのだ。

幼い頃の出来事を思い出したヒバリは、今も尚でもでも!となんとかしてヒバリに食べさせようとするくるみに話しかける。

「また分量を間違えたの。」
「ちゃんと計ったもん…」
「出来ていたらそうはならないよ。」

ヒバリの指摘にこれ以上無理強いするのは無駄だと分かったくるみは肩を落とす。そしてのろのろとタッパーに蓋をして、持ってきていた袋にしまった。それを確認したヒバリは、早くやりなよと持っていた鉛筆の軸の先端部分で残っている書類を指す。そんなヒバリにくるみは恭弥くんと呼びかける。

「美味しく出来たら食べてくれる?」

まだ懲りてないのか。
くるみの様子に嘆息したヒバリは僕の満足のいくものならねと返した。ヒバリの答えを聞いたくるみはパアッと顔を明るくさせ、うん!と元気よく頷いた。
再び作業に戻ったくるみを見て、そういえばと思い出す。
初めてくるみがハンバーグを作って失敗した後、また泊まることがあった。そこで上達するべく猛特訓をしたのだと言って、もう一度ハンバーグを作ったのだ。その特訓は本物だったようで、次に食べたハンバーグはなかなか気に入っている。

「ねぇ、ハンバーグはないの。」
「リクエストされてないからないよ?」

なんだ、つまらない。
くるみの答えに不機嫌になる。が、思い出したら食べたくなってくるのは人間の性と言うべきだろう。

「ハンバーグを作ってくるなら食べてあげてもいいよ。」
「!ホント!?じゃあはい!」
「それじゃない。」

欲望のまま言えば、何を曲解したのか今日持ってきた失敗作を渡してくるので突き返した。手伝ってあげてるのに!と文句を垂れるくるみの声を右から左に流し、ヒバリは少し空腹を訴えているのを感じながら只管鉛筆を動かした。

fin.


はい!と、いうことでリクエスト頂きました雨主とヒバリさんのお料理のお話です!
リクエスト内容と掠ってる部分が少ししかないですね。すみません!
実際のリクエストは雨主がヒバリさんにご飯を振る舞うというものだったんですが、彼女のというか、夢主達の料理事情を書いていなかったこともあってこのような形で出すことになってしまって申し訳ないです。本当にすみません。
トンファー持つきっかけにした事もあって料理も、というのは確かに可愛いなぁと思ったんですが、元々の設定がそこまで得意ではないみたいにしていたので難しいなぁということで、少し変えました。すみません。
最後に少しリクエストに沿ったハンバーグ気に入ってる的な描写入れたので、許して下さい。()
一応memoの方に夢主達の料理事情を書いてますのでお読み頂ければと思います〜。
色々とごめんなさいばっかり書いていたんですが、楽しく書かせていただきました!ありがとうございます!
改めまして、れもねーど様、この度はリクエストありがとうございました!もしまた何かリクエストがありましたら、またして頂ければと思います!
本当にありがとうございました!これからもよろしくお願いします!

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