標的8

ツナ達は日も暮れかけている空の下、絶望に打ちひしがれていた。発端はいつものようにリボーンで、以前ツナを入院させてしまった詫びをしようと思ったディーノの手助けとして場所の提供をしたのだが、それは町の外れにある山だった。ディーノは腹を割って話そうと思っていたのだが、リボーンは絶好の修業場所と思ったらしく、ツナを滝に打たせたりディーノの相棒でもあるスポンジスッポンのエンツィオを水に入れて巨大化させたりとやりたい放題だった。
エンツィオから逃げたツナ、獄寺、山本、ディーノは揺れで上手く進めない吊り橋で追い詰められてしまったところ、ディーノがなんとかしようとしたが、部下がいない状態ではへなちょこな為に振るった鞭は吊り橋の縄を斬り、そのまま全員崖下に落下してしまった。全員大きな怪我もなく無事であったが、落下した場所から下山するのは難しいということが判明し、言ってしまえば遭難してしまったのだ。
そこから野宿する為に見つけた洞窟から3日前から遭難していたビアンキに遭遇し、さらに山の中にあるケーキ屋に行こうとしていたハル、ランボ、イーピンも現れたが、全員帰り方が分からず途方に暮れていた。それから山本の提案で火を起こそうとなったのはいいが、獄寺とランボの暴走で山火事となり、消化するために水を大量に噴き出したはいいがまたもやエンツィオが巨大化してしまい、今はようやくエンツィオも元に戻り、一旦落ち着いた所だった。

「ど、どうしよう…」
「まーまー、何とかなるだろ!」
「ひとまず火は起こしたことだし、救助を待とうぜ。」

泣きそうになりながら言うツナに山本、ディーノが励ます。それにまだ不安は残るがホッと安堵したツナは、水を浴びて冷えた体を暖めるために焚き火に近づいた。焚き火の柔らかな暖かさが身体にじんわりと染み渡る。

「ツナさん、ハル達、ちゃんと帰れるんでしょうか…」
「な、なんとかなるって。」
「ったく…………?なんの音だ?」

半分泣きべそをかいてツナに縋り付くハルを呆れた様子で見ていた獄寺は、自身の優れた耳に聞こえてきた微かな音に気づいた。何か大きな物を引き摺るような、ズズ、ズズズ、という音が近づいてくる。
それはディーノや山本、ビアンキにも聞こえてきたようで、それぞれ武器を構え、辺りを伺っている。

「み、みんな…?」
「はひ?どうしたんですか?」
「気をつけてください10代目。」
「何か来るぞ…!」

気づいていないツナに獄寺、ディーノが注意を促す。えっ?えっ?と戸惑いながら周囲を見渡すツナの耳にも音が聞こえてきた。何この音!?と狼狽えるツナやハル、ランボ、イーピンを守るように獄寺、山本、ディーノ、ビアンキがツナ達の前に出る。そんな彼らに大きな影がかかる。

「岩ー!?」

ズズ、と近づいてきたのは巨大な岩だった。エンツィオが巨大化した時のような大きさの岩がひとりでに近づいていたが、ツナが声を上げたからか、それはピタリと止まった。どういうことかと思っていると、タン、と岩の上部から聞こえ、目線を上に上げた。

「綱吉?」
「四季!?」

そこにいたのはジャージ姿の四季で、驚くツナ達の前にスタッと降り立つと、どうしたの?こんな所でと首を傾げる。

「それはこっちのセリフだよ!何してんのこんな所で…!」

駆け寄ったツナに聞かれた四季は一瞬どう答えようか考え、散歩と答えた。しかしツナは当然納得せず、散歩でこんな山奥に来るわけないだろ!と疑う。そんなツナに、四季は困ったように微笑んだ。

「本当のことなのだけれど…」
「散歩にこんな岩必要ないだろ!」

ツナの指摘にどう答えようか考える。
そもそも四季は、物心ついて自力で歩けるようになってから、散歩と称してこの山に鍛錬に来ていた。岩を動かすのは前世での同僚でもある岩柱、悲鳴嶼行冥が柱稽古の時に隊士達に課したもので、方法、目的を知った四季はより強くなるために行っていた。それ以外にも前世で鍛えてくれた育手、鱗滝の修業内容は覚えている限り取り組んでいたが、それらを正直にツナに言う事は憚られた。
というのも、四季が自宅ではなく山まで赴いているのは山の地形を利用する為もあるが、自宅で家族にやめるよう言われたからだ。風呂場で息止めをしていた時、あまりにも長時間出てこなかったせいで父親に引きずり出され、母親に酷く心配され、弟に泣かれた。その事もあり、また泣かせてしまうのではと考えた四季は口を閉じた。

「四季。これはお前が運んできたのか?」

突然リボーンが岩を見ながら聞いたので、四季は目を丸くして、しかし小さく頷いた。四季の返答に「何処からだ?」とリボーンがまた聞くので、暫し悩み、ツナをちらりと見てから「隣町から」と答えた。正確に言えばこの山から隣町の山へ運び、また戻ってきたのだが、それを言えば少し厄介な事になりそうで、口を噤んだ。

「隣町から!?」
「はひ!?四季さんそんな華奢なのにどうやって運んだんですか!?」

驚くツナ、ハルに普通に押してと答えればまた驚かれた。ツナが泣いていないようで安堵した四季は暗くなる前に帰ろうとくるりと振り返り、歩き出す。

「帰り道分かるの!?」
「?ここを真っ直ぐ下りれば山の入口に着くよ。」

岩の後ろに続いている山道を指差した四季の言葉にツナ達はパアッと顔を明るくさせ、帰れる!と喜んだ。不思議そうにツナ達を見た四季は喜ぶツナ達によかったね、と分からないが微笑んだ。
こうしてツナ達は短くも長い遭難から無事解放され、山を下山することが出来た。


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