エルザ | ナノ


▼ 15

ディオ・ブランドーは、一体何が起こっているのか理解することができなかった。

事は、少し時間を遡り、路地裏で捕まってからエルザと別の部屋へと連れて行かれたところから始まる。
ディオは手足を拘束された状態で暴行を受け続けていたが、隙を見て逃げ出すつもりで耐え忍んでいた。

「今頃ボスはあの女と遊んでんだろうなぁ…俺もあっち行きたかったぜ」
「おいやめろよぜんいんがそう思ってんだからよ。どうせ後で回ってくるって」
「ディオでも殴ってストレス発散しとけよ」
「もう殴るのも疲れたっての」
「じゃあ蹴っとけ」
「それも疲れた」
「おいお前ら静かにしろ!」

俺を転がしながら雑談していた男たちの一人が声を荒げた。その場にいた全員が音に注意を払う。もしかすると逃げる隙が見つかるかもしれない。

「おい、何だよ、どうした…」
「しっ…黙ってろ、何か聞こえる」

しん…と静まった部屋に聞こえてきたのは、女の鼻歌と、何かを引きずるような音だった。男達は顔を見合わせ、青ざめる。いや、まさか、そんなハズは…という声が聞こえてきそうなほどの、困惑を隠しきれていない表情を浮かべながらも、扉の方を見つめ、最大限の警戒を始めた。

「〜♪♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪」

ズル…ズル…という音と共に段々と近づいてくる女の鼻歌に、脚が震え始める男もいるなか、ついに音が扉の前で止まった。男達はコソコソと話し始める。

「おい、なあ、あの部屋にはボスもいたよな?まさかあのボスが負けるなんてないよな?」
「あんな小娘に負けるわけないだろ」
「じゃああの鼻歌歌ってるやつは誰なんだよ!」
「おい落ち着け、とりあえず万が一の時のために逃げられるようにしておけ…。こっちは数で勝ってる、負けるはずなんかないがな」

「ねーーえーもうお話し終わったかなー?」

男達はまた顔を見合わせる。エルザの声だ。だが口調が違う。いや、違いすぎる

「ねーーえー?返事はー?ノックしてもしも〜し」 

少し苛立ったような声の後、コンコンコンコン、ときっちり四回ノックをして扉が開かれた。その先にいたのは全員の想像通りの女だった。

「エルザ……」
「よーーおディオ君。どうした?床に這いつくばったりして、何か良いことでもあったわけ?それとも新しい友達かな?まあ何にせよ無様だなぁ。笑っちゃうぜ」
「なっ…お前」
「まあ、話は後だ。さて、」

エルザがドサッと置いたのは頭から血を流した男。辛うじて呼吸をしているのを見て、男達は息を呑む。エルザの雑に切り裂かれて膝が見えるほどの長さになったスカートから覗く脚よりも、その下にあるヒール部分にべったりと血が付いた靴に目が行ってしまい、目の前に転がされた仲間がどんな目にあったのか簡単に想像できた。

「このヒゲ男君は、路地裏でこの私を殴って、流血させた。だからこうなった。お前らのリーダー格っぽいやつも気絶してる。さて、お前たちはどうする?」


三度男達は顔を見合わせる。負けるはずはない、だが実際に仲間はやられてしまっている。もともとただのチンピラだったのだ、ここで命を懸ける義理もないのか、即座に諦めたようだ。

「ここで退けば命までは取らないと?」
「そうだなー。殺さないで下さいってんならまあ私は構わないけど」
「なら、俺達はもう手を退く」
「あら、随分あっさり退くんだな。つまんないけど、まあいいか……」

言い終わると男達は血まみれの仲間を抱えてさっさと逃げ出していった。

「逃げ足はっやーー」
「……おい」
「あ?忘れてたわ。縛られてたんだっけ、解いてやるよ」

エルザは服の中からナイフを取り出し、ディオを拘束していたロープを切る。ディオは顔をしかめて自由になった手足を振る。

「おーおー唯一の取り柄の顔がはれちゃってまぁ可哀想に」
「人の不幸を笑うとは随分な性格をしているんだな」
「はっは。まさかお前に性格云々言われるとは思ってなかったぜ。残念だったなー都合の良い貴族の娘だと思ってたんだろ?私が今まで付き合ってやってたのもお前を利用してたから、もう用済みになったから別れる機会をずーーっと待ってたんだ」
「よく喋る女だな」
「ああ、お喋り好きなんだ」
「ずっと演技していたのか」
「そうだぜ」
「女優にでもなったらどうだ」
「自分でもそう思った」
「もういい。で?どうやって帰るんだ」

テンポ良く続いていた会話に、しばらく間が空いた。

「え?」
「は?」
「え?お前土地勘ないの?」
「ここがどこかすら分からないのにどうしろと言うんだ」
「だったらアイツら逃がす前に言ってくれよ」
「無駄に自信満々だったらお前が知っているのかと思っていたんだ」
「あーあ。マジかー」
「一体どうするつもりだ」
「…ちょっと待ってろ」

何か思いついたように、エルザは部屋から出て行った。色々と問いただしたいことはあるが、今はとりあえず帰ることを優先しよう。このディオがなぜあんな女の演技を見抜けなかったんだ……とても貴族の令嬢とは思えない口調だったが、何故か違和感がなかった。あれが本来のアイツなのか…?先ほど血まみれの男が転がされていた場所に残る血だまりを見ながら考える。これからどうアイツに接触するか、偽りの恋人関係は終わった。良い友人にでもなるか?あんな性格の奴と親しくできるかは分からないが…。

「おーい!」

エルザの呼ぶ声が聞こえた。隣か?

「ディオー!」
「聞こえている。一体何な…ん…」

仕方なく声の聞こえるところへ行ってみると、エルザが、確かリーダー格のはずの男を踏みつけていた。

「お前は何をやっているんだ」
「アイツ等自分のリーダー忘れて逃げてったみたいでさ、ははは。笑っちゃうぜ。コイツに帰り道聞いたんだ」
「話したのか」
「まあね。で、歩きだけど良いよな?」
「馬車を拾えば良いだろう」
「拾えたら拾うさ。でも馬車嫌いなんだよなー。奇襲に弱そうで安心できない」
「徒歩の方が危険だろう。もう日が沈んでいる」
「なら今日はここで寝るか」
「は?」
「んじゃあまた明日出発な」
「おい、まて、コイツがいるんだぞ」

エルザの足元にいる男を指して言うと、目の前にいるこの女は不思議そうに言った。

「死んでるんだから動くわけないだろ?」

まるでどうしてそんなことを言うんだ、とでも言いたげだ。首まで傾げている。

「お前がやったのか?」
「そうだよ。でも捕まらない。証拠がないから」
「どういう意味だ」
「安心しろってことだ。あー今日は頑張ったから眠い。じゃあな。私下の階で寝るからお前も好きなところで寝ろよ」

ふわぁと欠伸をして、会話はもう終わった、とでもばかりに手を振って、エルザは部屋を出て行った。

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