エルザ | ナノ


▼ 14

「埃臭い」
『目を覚まして第一声がそれかい?』
「禊さん。ここは」
『さあ?僕も君と同時に目覚めたからね。分からないけど、クルッと見てこようか?』
「お願いします」

目を覚ますと埃臭い見知らぬ部屋にいた。見張りはいない。ディオもいない。血が流れたせいかクラクラする。出血死していないだけ運が良いのだろうか。足首と太もも、手首が結ばれている。手は当然後ろ手に括られている。まあ多少は動けるし、怪我の痛みも堪えられない程ではない。血もどうやら止まっているようだ。これからどうしよう…ぼんやり血の足りない頭で考えていると、パッと名案が浮かんだ。ディオの目を気にしないで良いのだから、思い切り禊さんを使って脱出して、ピンチ(なはず)のディオを私がカッコ良く助けて、男としての面子を丸潰れにさせて、その上お前は今まで私に騙されてたんだぜーと本性をバアァーン!完璧だ!これ完璧だ!!

『エルザちゃんただいま。ちなみにその計画上手く行きそうだよ。今ディオ君ボコられてたから』
「マジか!」
『うん。どうやらここは廃屋みたいだね。一応周りに住宅はあったけど、助けを求められるかは分からない。ちなみに僕には見覚えのない街だったよ。二階建てで部屋数は三つ。あ、ここ含めてね。ディオ君がいるのが二つ隣の部屋だよ。下に降りる階段はディオ君のいる部屋のすぐ隣。他にもエルザちゃんなら出られそうな場所はいくつかあったから逃げるのは簡単だと思う。ただ、相手の人数が六人になったからそこは気をつけておいてね。ちなみに今から見張りが二人ここに来るよ』
「禊さん優秀すぎ。惚れるわー。脱出手伝って下さいね」
『当然さ』

話していると、足音が近づいてきた。乱雑に部屋に入ってきたのは、先程の屈強な男と、ヒゲ男だった。ヒゲ男が扉の前に立ち、屈強な方が私の前にしゃがみこんだ。

「よおお嬢ちゃん。気分はどうだ?」
「ディオは?」
「質問に質問で返すのは感心しねーな。お嬢ちゃんの恋人は今俺の部下に可愛がられてるぜ」
「そう」

表情をいっさい変えずにそう返すと、屈強そうな男(以降屈男とする)はつまらなさそうな顔をした。

「てっきりもっと喚くかと思ってたが、良い度胸だな。今から自分がどんな目にあうか分からねえほど世間知らずでもガキでもないだろ?」
「さあ?お前ごときが私をどうできるっていうのか、教えて頂ける?」
「ハッ。強がりもここまで来ればただの馬鹿だな」

屈男の無駄なドヤつきっぷりに腹がだったので、そろそろ反撃を始めることにする。

《禊さん紐なかったことにできます?》
『今すぐ?』
《おなしゃーす》
「良いこと教えてあげるわ、屈男」
「あ?」

屈強野郎にニコッと笑って自由になった脚で顔面を蹴り飛ばす。放った蹴りは、見事に屈男の顎に命中した。しゃがんだ状態から後ろへと倒れた屈男は床に後頭部を打ちつけ、そのまま動かなくなった。……まあ死んではないだろ。

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぜ、お馬鹿さん。…………さて、次はヒゲ男か」

チラッと扉前に突っ立っていたヒゲ男を見ると、呆然と倒れた屈男を見ていた。

「そ・う・い・え・ばぁーーー」

わざとゆっくりと、大きな声でそう言ってやると、ヒゲ男はビクリと身体を震わせてこちらを見た。ありえないものを見るような目だ。久々にあんな目で見られたなー懐かしい……じゃなくて

「ヒゲ男君さぁ、私のこと殴っただろ?頭から血が出ちゃうくらいにさぁ、殴っただろ?覚えてるよね?」
「あ……いや、それは…」
「んっんーー?聞こえないなー?もしかして言い訳とかしようとしてるんじゃあなぁい?そんな訳ないかーだってお前が殴ったんだもんねー?言い訳なんてするわけないよねー?」
「ひっ…」

青ざめたヒゲ男が逃げ出すよりも禊さんの方が早かった。ヒゲ男の足に螺子が刺さる。

「な、何だよこの螺子は!?」
「あ、見えるんだ」
『見えるみたいだね』
「ま、いいか。禊さんナイスプレー」
「だ、誰と話してるんだ…この螺子はなんだ、なあ、おい、お前…お前何なんだ」
「そんなに質問責めにするなよ、女の子に嫌われるぜ。全部お前が知る必要のないことだ。今からお前に必要な知識を一つ教えてあげよう」

足留めされているヒゲ男にニッコリと笑ってやると、私が可愛すぎたのか、ヒゲ男はビクリと震えて尻餅をついた。

『可哀想に、怖かったんだろうね』
「禊さん黙ってて。さてお前がこれから覚えることは、ハイヒールでも人は死ねるって話だ」

ヒゲ男は私の足元に視線を落とし、これからのことを察したのかさらに青ざめた、もはや青いを通り越して土色だ。可哀想に、と思いながら履いていた靴を脱ぎ、しっかりとつま先側を握って持つ。

「おいおい大丈夫か?ヒドい顔色だ、安心しろよ、殺しはしないから。ね?」
「た、頼む…助け…」

何か言われた気がしたが、もう勢いよく靴を振り下ろしたところだったのでよく聞き取れなかった。




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