エルザ | ナノ


▼ 6

結論から言おう。ディオに取り入るのは簡単だった。
まあ、向こうも私を利用する気だし、私はそれに気がつかない振りをして利用させてもらう。という感じだ。向こうが私の思惑に気付いているかどうかは知らない。今のところ気付いてなさそうだなー。
さて、本題は、どうやったのか、という点だろう、正直精神的ダメージがハンパなかったので、思い出したくない。が、仕方ない。こんな感じだった。


エリナと出会ってしばらく。エリナやジョジョと遊びつつも、ジョースター邸に行ったり、逆にディオが屋敷に遊びに来たり、奴と会う機会は多い。その都度髪に触れてくるディオ。マジに私の髪質が気に入っているのか、私が止めなければいつまでも撫でることをやめようとしない。しかもディオに取り入らなければならないため、邪険にできるわけもなく、その上、ほぼ毎日撫でているからか、撫で方が上手くなっているのも腹が立つ。正直かなり気持ちいい。

「ディオ、いつも私の頭を撫でていて飽きないの?」
「飽きないさ、撫でても撫でても撫で足りない」
「そう」
「エルザが嫌なら止めるけど、いつも嫌がってる風には見えないから」
「嫌ではないのよ?会う度に撫で方が上達してて凄く落ち着いちゃうくらい」
「気に入ってもらえてるなら良かった」

それきり無言で撫でられ続ける。一体何なんだこの状況。私のお気に入りのソファに2人並んで腰掛けながら、会話をするでもなく、ただ淡々と頭を撫でられる。意味が分からない。これで何日目だ?私が何をしたと言うんだ。神なんて信じてはいないがいるとするならきっと私のことを相当嫌っているに違いない。ああ、イライラする。私何でこんなことしてるんだ……エリナの為か…そもそももっと違う方法あるんじゃあないのか?視野が狭まっていないか?やっぱりディオに近づくのはやめといた方が良いんじゃあないか?ぐるぐると自問自答を繰り返していると、頭を撫でていたディオの手が頬に降りてきた。思わずぎょっとしてディオを見ると、僅かに微笑みながら、スルスルと頬を撫で続けていた。なにこの人怖い。

「ディ、ディオ?…ちょっ」

どうしたのかと問おうとすると、顎の下やら首筋やらをくすぐるように撫でられたのでイヤイヤと首を振る。

「嫌だった?」
「嫌、というか、驚いたわ。だって今までこんなことなかったから」
「本当はずっとこうしたかったんだ。髪以外にも、もっとエルザに触れてみたかった」
「え、」

気持ち悪い。という言葉を飲み込んで、必死に気持ちを切り替える。ディオへの作戦を変えようかとも思っていたがどうやら引き返せるレベルではなかったようだ。向こうから先に来るとは、手間が省けたと喜ぶべきだろうか。全く喜べないんだが。引き返せないのなら全力でディオに話しを合わせて媚びを売るしかない!私はやるときはやるタイプだぜ!迷いはしたが腹はくくった!(今更だけど)

「え、と、それは、どういう意味か、聞いても良い?」
「僕はエルザが好きだよ。ってことさ」
「そ、そう」
「迷惑かな」
「迷惑なんかじゃあないわ!ただ、その、男の人にそんな風に言われたのって初めてで、どうしたら良いのかわからないの」
「驚かせてゴメン。でもエルザ、僕は心から君の恋人になりたいと思ってる」
「ほ、ホントに?私で良いの?私じゃあディオに釣り合わないと思うんだけれど」
「エルザが良いんだ。貧しい生まれの僕は確かにエルザには不釣り合いかもしれないけど、エルザを思う気持ちは誰にも負けない」
「ディオ、違うわ、私はあなたの生まれのことなんて気にしているんじゃあないの。あなたは格好良くて、頭も良くて、いつも多くのお友達に囲まれて過ごしている。私じゃあなくたって…」
「エルザ、分かってくれ、さっきも言ったけど、僕はエルザが良いんだ」

抱きしめられながら、そう言われ、(利用しやすいからという副音声が聞こえるが無視して)喜ぶフリをしながら、心の中で「なんだこの茶番」とツッコミっつつ、ディオの背中に手を伸ばし抱きしめ返す。

「嬉しい。私もいつか恋人ができたりするんだと思っていたけれど、まさかディオみたいな素敵な人が私を好きになってくれるなんて思ってもみなかったわ」
「エルザ、僕の恋人になってくれるのかい?」
「もちろんよ、断ったりなんてしないわ」
「そうか、嬉しいよ、大切にする。きっと幸せにするから」
「もう十分幸せよ。ああ、本当に嬉しいわ。私ずっとディオはエリナが好きなんだと思っていたから…」
「エリナって、ジョジョやエルザとよく遊んでいる女の子だろう?僕は会話したことすらないのにどうしてそう思ったんだい?」
「だって、私知ってるのよ?ディオがジョジョと遊んでいるエリナのことを見つめていたことを。それもただ見ていただけっていう風には見えなかったわ。」
「それは勘違いだよエルザ。確かに見ていたこともあるかもしれないけれど、彼女に対して特別な感情だとかそういうのは一切ないよ」
「そうだったのね。なら、安心だわ。ねえディオ?私達今日から恋人なのよね?私だけを見ていてくれるのよね?」

ディオの手を取り、ニッコリと微笑むと、

「ああ、もちろんだよ」

と、期待通りの返事を寄越したディオに、さらに笑みが濃くなる。グダグダと続けてきた茶番もそろそろ終わる。

「じゃあ、他の女の子には今後一切近づかないって、約束してくれる?」

言い終えた瞬間、ほんのちょっぴり、本当に一瞬、見間違いかとも思ってしまいそうなレベルで、ディオの表情が消えた。ここでディオが頷くか否かで私の今後の計画が変わってくる。正直めんどくさいので、頷いてもらわないと困る。さあ、どう出るディオ!!

「……。ふう。…エルザ、君がそこまで嫉妬深いとは知らなかったな。…分かったよ。今後女の子とは関わらない。君が一番心配していそうなエリナにもだ。約束する」

っしゃ!と心の中でガッツポーズを取る。チクショーもったいぶってタメやがって、OKならOKだってさっさと言えっつーの!無駄に心配したわ!
とにかくこれでエリナの唇がディオにズキュウウウンされる可能性は減ったわけだ。あとはエリナがインドに引っ越してしまうまで見守ればいい。

「絶対よ?私、約束を守らない人は嫌いなの」
「大丈夫、約束は守るよ。その代り、エルザにも守ってほしい約束があるんだ」
「なぁに?」

小首を傾げて聞き返しはしてみたが、次の言葉は分かりきっている。ディオ、次にお前は

「僕が今後他の女の子に近づかない代わりに、エルザにも他の男に近づかないでほしいんだ。もちろんジョジョにもね」

と言う!
はーい、予想通りのお言葉誠にありがとうございまぁす。その言葉に対する答えはとっくの昔に出ているんだぜ!

「もちろんよ、ディオ。私だけがあなたにお願いするのは不公平だものね。ディオが言ってくれなければ私から申し出るところだったわ。私も約束するわ、ディオ。他の男の子には近づかない。安心して、ジョジョにも近づかようにするわ」

うっとりとそう言い切ると、ディオは満足そうに笑った。ああ、長かった、あとは適当に恋人ごっこを続ければ良いだけだ。
こうして、晴れて恋人同士になった私たちは、その後も日が暮れるまで茶番を続けた。

「ああ、エルザ、名残惜しいけれどそろそろ帰らないと。」
「そう…寂しいけれど、仕方がないわね。玄関まで見送るわ」

寂しくて仕方がない、という風に眉を下げて言うと、フワリと笑って頭を撫でられた。顔が良いのは認めよう。だがしかし内面、というか本性を知ってしまっているせいでこれっぽっちもときめかない。それでも無理やり嬉しそうに笑って玄関まで見送る。外にはいつの間に来ていたのか、ジョースター家の馬車が止まっていた。頑張れば歩いて来られる距離なんだから歩いて帰れよ。

「それじゃあエルザ、また明日」
「ええ、待っているわ」

やっと解放される、と思っていた次の瞬間、キスをされた。ちなみに頬に、だ。これが唇だったら反射的に殴り飛ばしていただろう。思わず呆然としていると、その表情が気に入ったのか、ディオは何故か無駄なドヤ顔を披露してそのまま馬車へと乗り込んでいった。走り去っていく馬車の音に正気を取り戻し、部屋に戻ろうとすると、後ろに控えていた数人のメイドらに質問攻めにされた。恋話に盛り上がる女の子というものは非常に可愛らしくて大変結構なのだが、自分がその中心にされるとなると話は別である。適当に避けながらなんとか部屋へ戻れた。もう今日はこのまま寝よう。そうしよう。ベットに倒れこむと、本当に疲れていたのか瞼が下りてきた。おやすみなさい。


ちなみに、頬はきちんと消毒した。

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