エルザ | ナノ


▼ 4

「エルザのお母さんが作るお菓子はやっぱり美味しいね!」
「ありがとうジョジョ。でももう少し落ち着いて食べたらどう?お口の周りに沢山欠片が付いてるわ」

モシャモシャとお母様特製のアップルパイを頬張っているジョナサンの口の周りはこれでもか!と言うほど汚れていた。どんな食べ方したらここまで汚すことが可能なのか考えつつ紙ナフキンで口元を拭ってやる。

「んんんーー。…もう良いよエルザ、自分でできるから」
「普通は拭かないといけないほど汚すことはないって分かっているの?ジョースター卿はもちろん同い年の私やディオでも綺麗に食べられるのだからジョジョにだけできないなんてことはないはずよ」
「うっ」
「美味しく食べてくれるのは嬉しいことよ。でも美しく食べてもらえたらもっと嬉しいし、何より、一緒に食事する側も気分が良くなるの。分かるでしょう?今のあなたはできれば一緒に食事したくはないタイプの人よ」
「…頑張るよ」
「でも紅茶の飲み方は前に見たときより綺麗になっていたわ。ジョジョもやれば出来るのよ」

シュンとした様子で呟いたジョジョの頭を撫でながら一応フォローもいれておくことにする。
「本当?」
「もちろんよ」
「じゃあ食事のマナーもちゃんとできるようにするよ!」
「ええ、その意気よ、頑張ってね」

私達の会話の様子を見てディオが笑っているのに気が付いた。嫌な笑顔ではなく、普通にクスクスと笑っている。

「ディオ、どうしたの?」
「いや、エルザとジョジョは友人と言うより姉弟みたいだなと思ってね」
「確かにエルザちゃんは昔からジョジョの前を歩いてリードしていてくれたね」
「そうだったんですか?女性にエスコートさせるなんて褒められたことじゃあないぞジョジョ」
「で、でも、エルザは凄く頼りになるから、つい」
「本当の紳士を目指すならまずは私がいなくても一人で進めるようにならなくちゃね」
「うん。……そうだね」
「ほらまた、そうやってすぐに落ち込まないの。あなたにはやれるだけの力があるわ、大丈夫」
「うん」

甘やかしてはいけないが、厳しすぎても良くない。子育てとは難しいものだな。まあジョースター卿にお任せするか、私は所詮幼なじみであってジョナサンの母親ではないのだ。その後もマナーを指導しつつ会話を楽しみ、日が暮れて家の馬車が迎えに来る頃には紅茶もアップルパイもきれいになくなっていた。

「ではジョースター卿、迎えも来たようですから私はこれで失礼させていただきます。ジョジョ、ディオ、また今度ね」
「ああ、帰ったらお母さんに美味しいアップルパイをありがとうと伝えておいてくれるかな」
「分かりました。では」
「あ、待って、エルザ、これ、忘れてるよ」
「あらあら、ありがとうジョジョ」

ジョジョの持ってきてくれたアップルパイの入っていたカゴを受け取ってから馬車に乗り、ひらひらと手を振ると、ジョナサンとディオが振り返してくれた。馬車が方向を変え、二人が見えなくなってから、姿勢を崩し、大きなため息を吐く。

「だぁーーーりぃ」
『表裏激しすぎだぜエルザちゃん。ついさっきまではお嬢様してたのに』
「だって疲れたんですもーん。あー帰って寝よう。そうしよう」
『ディオ君は案外普通だったね』
「ええまあ読み通りというかこちらの思惑通り私のことをとるに足りない間抜けな貴族のお嬢様とでも認識してくれていたら万々歳ってとこですかねー。ちょっと一回会っただけじゃあアイツも私を判断しきれないでしょうから何回か会っとく必要がある、か、も」
『でも面倒くさいんでしょ?』
「当たりー。ま、今日みたいにお母様が遊びに行かせようとするかもしれないし、アイツの方から来るかもしれないし、面倒だからといって避けてばかりはいられませんよ。…あれ?」

話しながらなんとなくカゴの中を覗いてみると、底に敷いてある紙とは別に小さな二つ折りの紙が中に入れられていた。こんなのあったっけなー。と思いながら開いてみると、何度か見たことのあるジョジョの字で、明日の昼に、近くの川の橋で待っていると書いていた。

「んー?何の用だろ」
『ディオ君のイジメに関する相談とかじゃない?』
「あー、ありそう。わざわざこんな紙に書いて寄越したのもディオが側にいたからか。なる程ね」
『行くの?』
「もちろん。さ、家に着くまで寝ようかな」
『おやすみー』

行儀は悪いが、靴を脱ぎ、三角座りをして膝に頭を埋める形をとって眠りにつく。以前壁に頭を預けて眠り、激しく頭を打ちつけ、たんこぶができたことがあるためである。中々この体勢は寝やすくていい感じだ、ということを最近発見したのだ。



『エルザちゃん、着いたぜ。おーい、おーいってば』
「んん」
「エルザ様、到着致しましたよ」
「んー。あー。ありがとうございます」
「いえいえ、お疲れのご様子ですが、お気をつけてお降り下さい」
「はい」

カゴを持ち、馬車を降りる。ちょっと寝たお陰で結構スッキリした気がするな。明日、どうしようかなー。

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