エルザ | ナノ


▼ 53

ぼんやりと、意識が覚醒していく。目の前には肌色が広がっていた。

「ああ、そっか」

最後の方は良く覚えていないがとてもがっつかれたのは覚えている。私を閉じ込めている腕の中で身じろぎすると、腰というか股関節が悲鳴をあげた。重い腕をくぐって身体をお越して見下ろすと、犯人はすやすやと気持ち良さそうに眠っている。

「この野郎……」

いつもは起こされる側になることが殆どだから、こうして寝顔をじっくりと見たことはなかったが、それが今日とは忌々しい。なーにが優しくするだバカめ。恨み言を呟きながら頬をつねってやるが、それでも目覚める様子はない。何だかバカバカしくなってきて、溜め息を1つ吐いてシャワー室へ向かった。
どうやら最低限は綺麗にしてくれているようだが……寝ている間に色々触られていると思うとどうにも微妙な気持ちになる。そこには触れないのが暗黙のルールというやつか。

「ま、良いか。禊さーん」
『やあ、呼んだかい?せっかく空気を読んでお留守番してたのに』
「ちょっと虚数大嘘憑き(ノンフィクション)使いたくて」

離れたところにいてもどうやらすぐに来れるらしい。現れた禊さんにそう言うと、小首を傾げていたが、ちらりと私の腹部を見てから納得したように頷いた。

『……ああ、なるほど。でも良いのかい?』
「良いんです。倫理的な問題とか、産まれないことだとかよりも私の子どもになる方が可哀想ですよ」
『ふーん。まあ、エルザちゃんが良いなら良いんだけどね』

そう言って禊さんがスゥーっと私の中へと姿を消す。不便なことに禊さんが外にいる状態では虚数大嘘憑き(ノンフィクション)は使えないのだ。スッと下腹部に手を伸ばし、ディオに出されたものをなかったことにする。複雑な気持ちになるが、仕方ない……仕方ない。

『ホントに?』
「ホントに……私は、悪くないです。ほら、後はもう良いんで、帰ってください」
『はいはい。全くエルザちゃんは先輩遣いが荒いんだから。精々ディオ君とイチャイチャするといいよ。そして僕を避妊に使うと良いさ。ああ、別に責めてるつもりはないんだぜ?何たって僕はエルザちゃんのスタンドだからね、思う存分使って良いんだ』
「……スミマセン」
『何で謝るのさ、エルザちゃんは悪くないんだろう?まあ、謝りたいなら謝ったっていいけどね、何となくの謝罪でも僕は受け入れるぜ』
「何だか久し振りに禊さんに心折られそう」
『あはは、別に僕はそんなつもりはないよ。僕は確かに球磨川禊の姿をしているけど、球磨川禊である前にエルザちゃんのスタンドで、君の精神そのものだ、だから君を一番責めているのは君自身。まあ気楽に行きなよ。そろそろディオ君も目を覚ます頃だし、お邪魔虫は退散するよ』

勝手に言いたいことだけ言って、こちらが何かを言う前にさっさと何処かへ行ってしまった。つまりあれは球磨川禊本人ではないということだろうか。まあ考えればそうだろうけど、じゃああれは何?どこか気味の悪い疑問は残るが、取り敢えず身体をサッと流してシャワーから出て服を纏う。
身体の痛みやら疲れはなかったことにしなかったので、起きたばかりなのに疲れがとれていない。フラフラとベットへと戻ると、ディオはまだ寝ていた。目を覚ます頃じゃあなかったのか。

「こんなに呑気な奴だったっけ?」

首を傾げながらも2度寝したい欲が勝ってベッドに横になろうとして、シーツの汚れに気が付いた。こんなところに寝たらまたシャワーを浴びないといけない。さっきの今で嫌々ながら禊さんを呼んでなかったことにする。そして洗いましたよーというカモフラージュに、新しいシーツを引っ張り出してきて、シャワーで濡らして適当に干しておく。よし。寝よう。ああ、でもお腹すいたな。ディオを起こしてご飯を作らせて、出来たら起こしてもらうとするか。

「ディオ」

多少横暴かもしれないがそれくらい許されるだろう。ゆさゆさと肩を掴んで揺らすが、呻くだけで目は開かない。そう言えばさっきつねっても起きなかったな。段々と呑気な寝顔に腹が立ってきて、鼻をつまんで、口を覆う。大サービスで手ではなく唇で、だ。ややあって飛び起きたディオに全体重をかけて再びベッドへ押し倒し、マウントをとってニッコリと朝の挨拶をする。

「おはよう。ディオ・ブランドー君?良い朝だーね?」
「エルザ……」

ディオは視線を巡らせ、私が服を着ているということと、シーツが綺麗になっていることから色々と状況の悪さを察したのか口の端をひきつらせている。

「おやおやおや。顔色が悪いぜ?よーく寝てたのになぁ?おかしいねー?ディオ君」
「エルザ、すまない。無茶をさせたと思っている」

昨日の行為のことで私が怒っているとでも思っているんだろうか、青い顔をして謝るディオは珍しくて笑いそうになる。ちっとも怒ってはいないが、もう少しからかっても良いだろうか。だってディオ本人が怒られて仕方ないと思っているみたいだし。

「ふーん?まあ、そうだよな、優しくするって言ったのにな」
「ああ、本当に悪かった」
「身体中痛いんだぜ?どこのケダモノのせいだろうな」
「……すまない」

いつもお説教される側だがお説教できるのはとても楽しい。ああ、本当に性格が悪い。歪んでいるが、とても申し訳なさそうなディオの顔に何だかゾクゾクしてしまう。何だか変な扉を開けてしまいそうなので、これ以上はやめておこう。

「んっふふ」
「エルザ?」
「めっちゃ反省してるのホントうける」
「なっ!俺は本気で」

けらけら笑っていると、身体を起こしたディオに体勢を崩して後ろにこけそうになって支えられる。それでも笑い続けているとベッドに転がされて覆い被さられる。

「あはは、怒ってる?何でディオが怒ってんの?怒ってたの私だぜ?」

笑うのをやめてそう言うとぐっと言葉を詰まらせてばつの悪そうな顔をするもんだからまた笑えてきた。

「ふふふ。嘘嘘。最初っから怒ってなんてないぜ」
「何だと?」
「だって、受け入れるって覚悟したのは私なんだし、それに今までおあずけさせてたのだって私だろ?そりゃあ優しくするなんて嘘じゃあねえかこの野郎くらいは思ったけど、怒るほどじゃあないな……んふ、なのに、ちょっといじめただけであんなに……ふふ、顔色悪くして……ふはっ!ダメだ笑える」

ひー!とお腹を押さえて笑っていると安堵したような溜め息を吐いて、ディオが上から退いた。

「嫌われるかと思った」
「あっははは!……は?」

ベッドに座り込んだままボソリと呟かれた言葉に、笑いが引っ込む。身体を起こして聞き返すと、そのままポツポツと話し始めた。

「自分でもやりすぎたと思っていたんだ。あんなにセックスに抵抗のあったエルザのことだから、2度とシない、別れる、くらいは言われるものだと思っていた」
「それで?」
「別れるくらいならもうシない……つもりだった」

まさかの発言に目を瞬かせる。と同時に、何故だか胸が温かくなるような心地を覚えた。ディオが何だか可愛く見えてくる。眼科に行った方が良いだろうか。

「へー。じゃあもうシなくて良いわけ?」
「……シたい」
「何だそりゃ。まあ、じゃあ良かったな、寛大なエルザちゃんに感謝しろよ。次はない。ってことにしておいた方がディオも次こそはホントに優しくしてくれるよな?」
「ああ」
「そ、じゃあそう言うことで」

真剣な顔をして頷くディオに笑いを堪えながら、大事なことをまだ言っていなかったことに気付く。

「ところで、今私はとてもお腹が空いているのですが」
「ああ、すぐに用意する」
「ん。お願い。シャワー浴びて着替えてからで良いから」

話が一段落したところで消えていた眠気が戻ってきた。くあっとあくびをすると、ベッドから降り、立ち上がったディオに頭を撫でられる。

「できたら起こす。もう少し寝ていて良いぞ」
「最初っからそのつもりだってーの」
「そうか」

緩く笑うディオに笑い返して、ベッドに横になり、身支度を整えて下へ降りていくディオを見送ってから目を閉じた。下から聞こえるトントンと何かを切る音を聞きながら二度寝するなんて、なんて……ああ、そうか、私は今幸せなのかもしれない。今更ながらにそんな事に気が付いて、口の端からふ、と息を漏らす。もう少しすればディオも人間を辞める頃だろう。この旅行が終わったら、今後のことについて考えなくちゃあな。

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