落ちる唇、染まる唇




「私が」

いつもはしない華奢なチェーンのネックレスをつけるのに手間取っていると、いつの間にか後ろに立っていた維さんの指がそっと金具をつまんだ。少しして聞こえた「出来たぞ」という声に顔を上げ、目の前の鏡を覗き込むと、普段より濃いめのリップにダウンスタイルにした髪型、耳元と首元もアクセサリーで着飾った
見慣れない私がそこにいた。
数年に一度開催される雄英高校の同窓会。といっても普段、現場で顔を合わせているプロヒーローばかりだから一般的な同窓会とは少し違うかもしれない。けれど、コスチュームを脱いでいつもよりお洒落した格好で顔を合わせるのは妙な緊張感があった。

「変じゃないですか……?」
「そんな訳ないだろう。だが、そうだな少し露出が多いな」

ノースリーブワンピースから覗く私の二の腕に視線を落としてから、そう言って維さんの姿が、鏡の中からいなくなる。少しして戻ってきた維さんの手には自分が愛用しているオニガシマジーンズのデニムジャケットが握られていた。

「これを羽織っていきなさい。今日はカジュアルな場だろう? このぐらいの装いでも問題ない」
「やっぱり、目立ってましたかこの前の……」

先日、火災現場の救助にあたった際に負った火傷の跡が肩から背中にかけて残っていた。そこまでは大きくないけれど、ノースリーブの袖口から見えていたのかもしれない。維さんの気遣いに感謝しつつ、肩にそっと掛けてもらったジャケットからは維さんの匂いがした。

「いや、私の取るに足らない独占欲だ」
「え?」
「名前の肌を他の男どもに晒してやる必要はないだろう」

鏡越しに視線がぶつかる。静かに揺るがない。けれどその奥に孕まれた熱に、カァっと肌が熱くなる。私より大人で、いつも余裕のある維さんが見せた独占欲。それは、私の胸の真ん中を甘く締め上げた。そんな心配なんて必要ないのに。甘い空気でいっぱいになった身体を落ち着かせるように、小さく息を吐き出す。

「……でも」
「ん?」
「────私の心はきちんと維さんに縫い付けられているので大丈夫ですよ」

そう言って、小指を掲げてみせると維さんは驚いたように目を見開いて、そして前髪を二、三度撫で付け「困ったな」と小さく呟いた。

「そんなことを言われたら、本格的に行かせたくなくなるだろう」

少しの苛立ちと焦りを含んだ声と共に唇がうなじに落とされる。意外と聞き分けの悪いところがかわいいなと思いながら、くるりと振り向いて長い首に腕を回した。

「ちゃんとまっすぐ帰ってきますから」
「当然だ」
「ふふ」
「……キスはしてくれないのか」
「リップ、落ちちゃう」
「それぐらい塗り直す時間の余裕はあるだろう」

じっと見つめたまま、強請るように鼻先が押し付けられる。

「ワガママですね」
「これから大事な彼女を狼どもの群れに送り出さねばならないんだ。これぐらいは許されるべきだ」
「好きじゃないですか、狼」
「それとこれとは別の話だろう」

そう言って、先に唇を重ねたのは焦れた維さんの方だった。この後、なかなか離してくれない唇に慌ててリップを塗り直すことになったのは言うまでもない。











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