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ワードパレット
蜂蜜、溶ける、期待しないで



久しぶりに揃ったオフの日に、少し遅めの朝食を食べながら今日の予定を考えてる時だった。テレビに映し出されたバニラアイスの乗ったパンケーキに蜂蜜がたっぷりとろとろと掛けられている映像に目を奪われた。あったかいパンケーキの上に乗せられた冷たいアイスが少しずつ溶ける。そして、蜂蜜と混ざっていく様子に思わず喉がごくりと鳴る。

「てめェはどんだけ食い意地はってんだよ」

その様子を目の前で見ていた勝己が呆れたように鼻で笑った。確かに、片手にハムチーズトーストを持ったまま、パンケーキに喉を鳴らすとか我ながらヤバい。

「あのパンケーキ食べたいなぁ。一人で行ってこようかなぁ」
「あ゛? んで、一人で行こうとしてんだよ!!」
「えー? だって勝己甘いもん嫌いじゃん。それに大爆殺神ダイナマイトがパンケーキ屋さんデートで熱愛発覚とか、もともと少ない好感度だだ下がりじゃんか」
「少なくねぇわ!! てめェより上だわ!!」

確かに総合的なチャートの順位は勝己の方が圧倒的に上だけど、国民からの支持率は私より低いじゃんと心の中で悪態をつく。態度が悪いから支持は少ないけど、かっこいいと轟くんと揃って絶大な人気があるのは事実だ。パンケーキデートなんて私がダイナマイトのファンだったら、して欲しくない熱愛発覚の仕方トップ3には入るかも。轟くんなら全然有り。むしろ好感度さらに上がっちゃう。私がこんなに勝己の好感度のことを気にしてあげてるのに、当の本人は苛立たしげに指先でテーブルを叩いてる。凄いスピード。穴あきそう。

「えー勝己もそんなに食べたいのかぁ。 じゃあお店は諦めるから勝己が作ってよー」
「はァ!?」
「さすがの勝己にも、ふわっふわのパンケーキは無理かぁ……あー食べたかったなぁ……」
「ッざけんなよっ!! パンケーキだろうがァ、ホットケーキだろうがァ、ショートケーキだろぉーがァ!! 作れるに決まってんだろ!! 舐めてんのかァ!!」
「え、ショートケーキ!!」
「揺らいでんじゃねェよ!!」

勝己は「作り方通りにやれば、だいたいのもん作れんだろ」と才能マンらしい台詞を吐きながら寝室に置きっぱなしのスマホを取りに行った。それがなかなか一般人には難しいんだよ。確かに勝己は無理難題をふっかけても大抵のことは出来てしまう。だから、なかなか外でデート出来なくても私は充分楽しい。この間なんて、ドレスみたいな卵のオムライスを作ってくれたし。

「私、材料買ってくるから必要な物送っといてー!」
「だから、てめェはなんでさっきから一人で行こうとすんだよ!!」
「いやだって、スーパーデートで生クリーム買ってる勝己とか好感度下がっちゃうって……」
「さっきから人の好感度気にしてくれてるみてェだけどよぉ?」
「優しいよね私」
「んなんで落ちるもん、いらねぇーんだよっ!!」
「いや、大事だよ好感度。私達が円滑にヒーロー活動出来るのだって国民からの好感度があってこそだからね? あ、コーヒーおいしい。豆変えた?」
「……しょうゆ顔から貰ったんだよっ」
「さすが瀬呂くん」

この間うちで飲んだときに持ってきてくれたんだろう。瀬呂くんはさりげないお土産を選ぶのが上手で素直に尊敬する。

「そーゆう話じゃねぇーんだわ」
「ん?」

スマホを手にした勝己が戻ってきて乱暴に引いた椅子に腰掛ける。どうせ、自分の淹れ方が上手いからだとでも言うんだろう。テレビのチャンネルをかちゃかちゃ変えながら聞き流そうと思っていたのに。

「てめェとの関係が分かったところで、落ちるようなもんなんざいらねぇーって言ってんだよ」
「いや、だからさぁ」
「ゴチャゴチャ言ってねぇで俺と結婚しろやっ!!」
「……へ?」

聞き流せない単語が聞こえた気がして、思わず手を止める。この話の流れから結婚に行き着く意味が分からなくて、聞き間違いだと耳を疑った。今まで一度だって、勝己の口から結婚という単語が出てきたことはなかった。ヒーローはある意味人気稼業だ。だから特にこれといって期待しないでいたし、こだわりも特になかった。

「なんとか言えやァ!! アホ面晒してんじゃねェ!!」
「だって、そんな急に結婚なんて言われると思ってなかったし……」
「……1ミリも考えたことなかったんかよ」
「んー……どんな形でも、勝己の隣にいられたら幸せだなって思ってたから……特に……?」

そう言うと聞こえてきた長い溜め息のあとに盛大な舌打ち。ガタン!! とこれまた派手な音を立てて勝己は座ったばかりの椅子から立ち上がった。挙動がいちいち乱暴なんだよな……。

「おい、名前。早く準備しろや。食いに行くぞ」
「え、今食べたばっかりだから無理だって」
「店行く前に、役所寄ったり指輪見に行かなきゃなんねーだろっ!!」
「……どうしよ」
「あ゛?」
「胸いっぱいでパンケーキ食べられないかも」
「ハッ、言ってらァっ」

性急な展開に置いてかれつつも、役所だとか指輪って響きに少しずつ胸の真ん中がじんわりと熱を帯びていく。

後日、案の定パンケーキデートで熱愛発覚し、結婚を発表した大爆殺神ダイナマイトだったけれど意外なギャップがいいとウケ、好感度が爆上がりしたらしい。好感度ってよく分かんない。


ワードパレット by こん(@kon_desuuu)様




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