溶けかけ弔くん



数日前から何だかエアコンの調子が悪く、騙し騙し使っていた所、気温35度の猛暑日にタイミング悪くうんともすんとも言わなくなってしまった。不運としか言いようがない。

「あ゛ー。あーつーい!」
「……言うなよ、余計に暑くなる」

さっきまで私と同じように「業者はまだか」「暑い暑い、黒霧なんとかしろ」「おい、誰かどっかからエアコン盗んでこい」と騒いでいたくせにそんな元気もなくなってしまったようでカウンターにだらっと突っ伏して、どこかぼーっとしている弔くん。

「おーい、弔くん」

目の前で手をフリフリかざしてみても反応がない。大変だ、このままじゃ弔くんが溶けてしまう。それだけはなんとかして避けねば!!

手始めにまず、長く伸びた前髪が暑そうだったのでそのふわふわな細くて柔い髪の毛に触れ、恐る恐る様子を伺いつつ前髪をちょこんと結ぶ。あ、よかった怒ってない。ふぅと一つ息を吐いて、勢いで、首にかかり暑そうな後ろの髪も結んだ。

「……かわいい。はっ!」

思わず漏れてしまった言葉に慌てて両手で口をふさぎ、弔くんを見るがどうやらまだ溶けかけているみたいで全く気にしていない様子だった。

次に黒霧さんに借りたボウル2つに氷水を作る。それを弔くんの足元に持っていき真っ赤な靴とスニーカーソックスを脱がせ、ズボンの裾をそっと捲り、むき出しになった白い足を水の中に沈めた。ぽこんと突き出た踝が氷とぶつかる。私がやることを黙って見ていた弔くんだったけれど、さすがに氷水に入れた瞬間はかすかに「ひっ」と声を漏らした。

「気持ち?」
「……冷たい」
「わがままだなぁ」

少し生気が戻ってきたみたいでぎろりと睨まれてしまう。それでもまだ溶けかかっている。大丈夫だ。怒られない。

最後の仕上げに冷凍庫から取り出したアイスキャンディーの包みをがさごそと外し、だらしなく半開きになっていた口に突っ込んだ。

「ほい、ほまへな」
「え?なに?」

されるがままのその様子がおかしくてケラケラと笑っていたらお気に召さなかったようで、ぐっと顎を掴まれて、自分の口から取り出したアイスキャンディーをそのまま私がしたように突っ込まれてしまった。

「ありがとなァ?やりたい放題好きにやってくれて。おかげで元気になったよ。御礼に」

煩わしそうに髪の毛を結んでいたゴムを取り、ぽいっとその辺に投げニタァっと楽しそうに笑う。

「いいこと、してやるよ。なァ?」

嫌な予感がした次の瞬間には既にふわりと体が宙に浮き、
ぺたりぺたりと濡れたままの足音が響く。

「ちょ、まだエアコン直ってないからやめよって!本当に溶けちゃうよ!?」
「うるさい。知らない。終わる頃には直ってるだろ」
「え、業者来るの明日って言ってたよ?」
「うん」

「今度は名前が溶ける番だな」とうっすらと汗で額に張り付いた前髪に触れた指先はいつもより少し、しっとりとしていた。




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