入道雲



「ヘイ!ヘイ!ヘイ!!プール日和だぜぇー!!!」
「うるさ」
「……」

日曜日の朝、少し遅く起きて共用スペースに行くとソファに腰掛けていた山田が人の顔を見るなり叫んだ。近くに座っていた相澤は聞こえないふりをしてタブレットでニュースを眺めている。無理無理、聞こえない訳ないじゃん。山田の声が聞こえない奴は病院行ったほうが良いレベルだよ。

「なぁ!名前!プール!」
「あんたと二人で?お断りします」
「お断りされたァ!!!俺からも願い下げだね!!!」
「は?腹立つ。寝てる間に、その腹立つ髭、片方だけ剃ってやるからな」
「ヒュー!随分と過激な夜這い!」

ゲラゲラとうるさく笑う山田を放っておいて無視を決め込む相澤の隣に腰をおろすとソファの後ろ、私達の真ん中に立った山田が相澤と私の肩に手を回す。

「なぁーって!」
「なに」
「ビニールプールと水鉄砲とスイカ買ってこようぜ!」
「だって相澤」
「俺に振るな」
「ちげーよ二人ともい!く!ん!だ!YO!ほら、車に乗った乗ったー!!」


肩を抱かれた勢いのまま山田の狭い車に押し込まれ、ホームセンターとスーパーをはしごしてお望みのビニールプールと水鉄砲、スイカとそしてビールを手に入れた。寮に帰ってきた私達は玄関前の階段の下にビニールプールを置き、ズボンの裾を捲った30歳の大人三人並んで階段に腰かけ足だけプールに突っ込んでいた。

「絶対、生徒に見られたくないんだけど」
「言うな」
「いーじゃん。俺たち今、最高に青春してるだろー!?」
「水鉄砲片手に、ウィンクすんな」

後ろに手をついてあーっと上を向く。日差しの強さと掌が触れているコンクリートの暑さに少し怯んだ。視界には晴れ渡る青空に見事な入道雲

「……」
「……」
「……」

きっと、今この瞬間、三人とも同じ事を考えていたと思う。

「……あいつも見てっかな」
「二人とも髭の生えたおっさんになっちゃって、泣いてるよきっと」
「……あいつもおっさんになってるだろ」
「そうだね……。なってるね」

今までもそうだったように、これからも幾度となく夏を迎えて、あの真っ白い大きな入道雲を見るたびに私達は
夏の太陽みたいなあの男の笑顔を思い出すのだろう。

「……よーし。山田、ビール」
「おっ、もう開けちゃう?」
「うん」
「ヒュー!!昼間っから飲む酒はギルティーの味がする!!」
「おいお前ら、酔う前にこのスイカどうにかしろよ」

感傷を流し込むように口を付けたビールはいつもより、少し苦かった。




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