細く長く、末永く
遠くで、鐘の音が聞こえる。
はふはふと蕎麦を啜りながら隣を見上げると、箸を咥えておんなじような顔をした恵が「ん?」と小さく首を傾げた。
「今年も生きてたね」
テレビに視線を戻して紅白をぼーっと眺めながら呟くと、彼がふっと小さく笑う。
「そうだな。」
「来年も、生きてるかな」
「さぁな。」
未来の事なんて、呪術師には分からない。
明日の事さえ分からないのに、来年の事なんて保証出来るはずがない。
「でも、どんな形になっても俺の心は名前の傍にいる。」
それでもなんだか、そんなことを言う恵がずっと私の隣にいてくれるって、そんな気がした。
今だけかもしれないけど。
「クサいね。」
「……いいだろ、年末くらい。」
肩に凭れかかってみたりする。
恵はもう一口蕎麦を啜った。
「浮かれてる?」
「そうかもな。」
彼の鼻が赤い。部屋が寒いからか、蕎麦が熱いからか分からないけど。
それを見てると、ふと目の前が暗くなった。
「……浮かれすぎ?」
「嫌か?」
「……嫌じゃない。」
「ならいい。」
柔らかい感覚が残る自分の唇を撫でてみる。
恥ずかしい。
誤魔化すみたいに時計に目をやると、まさに針たちが12に向かって集まるところだった。
ろく、ご、よん、さん……
心の中でカウントダウンしてみたり。
「おめでと、恵。」
「おめでとう、名前。
今年もよろしくお願いします。」
「お願いします。」
どちらからともなく、もう1回、唇が重なる。
それが深くなって、思わず彼のシャツの胸元を握ると、そのまま包み込むみたいにその手を取られた。
指が絡んで、もっと深くなる。
新年最初のキスは、出汁の味がした。