拾肆 忙中有閑





「SEなんだ、伏黒くん。」


帰りの車で、苗字が唐突に呟いた。


「は?何の話だ。」

「スマホ。iPhoneSEでしょ?ボタンついてるし。」

「ああ、まあ……そうだな。」

「最新のに機種変しないの?ほら、この間14出たじゃん。」

「別に、スマホなんて使えりゃ何でもいいだろ。」


スマホの画面に視線を戻した俺に、釘崎がやれやれと言ったように口を開く。


「違うのよ、名前。
コイツは流行りに乗るのが負けだと思ってるタイプなの。」

「伏黒って割と頭固い逆張りマンだよなー。」


腹立つ虎杖の耳を引っ掴んだまま、「いててて!!」と騒ぐのを無視して俺は画面から視線を上げた。


「じゃあ、そういうお前らは何使ってんだよ。」

「あたしは13。14にするのはもうちょっと安くなってからでいいかなと思って。
でもやっぱりせっかく東京に来たし、いい写真いっぱい撮りたいから、お金貯まったら機種変しようかしら。」

「俺は12。機種変めんどいから。
携帯屋って意外と時間かかるから優先順位後回しにしちゃうんだよ。
苗字は?」


……そういえば、苗字が人前で誰かと連絡取ったりスマホいじってんの見たこと無いな。


「私は……アンドロイドでして……」

「うわぁ……」

「分かってるよ!分かってるけどそんな反応しなくても良くない!?」

「いや、だってアンドロイドってさ……
なんかこだわり強い人かじいちゃんばあちゃんしか使ってないイメージあるじゃん……」

「偏見がすごい!」

「そもそも、周りがiPhoneなのにアンドロイド使うメリットって無くない?
エアドロもできないでしょ、面倒じゃない。」



買えないの?と問いかける釘崎に、苗字がどこか気まずそうに目を逸らした。



「いや、あの……お金無くって……買えなかったんだよね、iPhone。」

「……突然責めづらくなったわね。」

「母ちゃんとかに頼めねぇの?
スマホ代くらいなら出してくれんじゃね?」



「あー……親は、ちょっと色々あって……頼りたくないっていうか……」

「名前、あんた……」


やっぱり、こいつは自分の話になると都合が悪そうな顔をする。
……あいつの"死刑宣告"のせいか?



その時、少し静まった教室の空気に割って入るように、突然俺のスマホが鳴った。



「もしもし、伏黒です。
伊地知さん。……はい。……わかりました。伝えます。」


この電話がこれからの俺たちを大きく変えることになるなんて、俺らはまだ知らない。



「虎杖、釘崎、苗字。
仕事が入った。緊急だ、すぐ出るぞ。」

「応。」









記録――2018年7月

西東京市 英集少年院
同・運動場上空


特級仮想怨霊(名称未定)

その呪胎を非術師数名の目視で確認。


緊急事態のため 高専一年4名が派遣され



内1名 意識不明





また、内1名 死亡





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