HERO 前編
子供の頃思い描いていたヒーローって、もっと大仰なものだった。
例えば腰のベルトで変身して、仲間たちとパンチで悪役をやっつけるような。
そうやって地球の平和を守って、みんなから賞賛されるような。
そんなヒーローが私を守ってくれたら、どんなに心強いだろうって、昔からずっと思ってた。
あれから10年。
年月が経って気がついたのは、本当のピンチにそんなヒーローなんて都合よく現れてくれないってこと。
そして……
「はぁ……終わらん……全くおわらーーん!!!」
戦わなきゃいけない相手は、悪役なんて単純なものじゃないってこと。
「あ、名前。また始末書書いてんの?」
「またって言うなや、私だって書きたくて書いとるんじゃねえっての。」
「違うのか」
「違うわ。失礼な。」
1人必死にペンを動かす私の手元を、虎杖が覗き込む。
その後ろで伏黒がポケットに手を突っ込んだまま呆れた顔をした。
「懲りねえな。って思っとるだろそこの黒髪ツンツン男。」
「思ってる。」
「あ、黒髪ツンツンは否定しねぇのな。」
嘆く私と、ため息をつく伏黒。そしてツッコむ虎杖。
まぁまぁ。と私を宥める虎杖に、ブスくれた顔を隠さず手元のペンをくるっと回した。
「あんまそうやって人に冷たくしてっと、女にモテないよ。」
「お前に媚びて何になるんだ」
「もう、邪魔すんなら帰ってもらってもよろしいかしら!!」
思わず手を止めて顔を上げる。
興味なさげに私の手元を見下ろす伏黒の手前で、机の前にしゃがんだ虎杖が心配そうに私を見上げて髪を撫でた。
「名前、昨日何時に寝た?」
「えっ、昨日?うーん……書類と勉強で、たぶん4時には寝たかな。」
まだ自分の呪力に振り回されっぱなしの私は、何かと出力や力加減を見誤ってあれこれぶっ壊しては始末書を記入する毎日。
おかげで1年の誰よりも始末書のフォーマットに詳しい。
「……じゃあな、虎杖。苗字。
先に部屋帰る。」
「あ、じゃあね。また明日。」
「じゃあな伏黒。」
何だか所在なさげに去っていく伏黒の背中を見つめて、頭の上に乗った虎杖の手のひらのことを思い出した。
あー、気ぃ使わせちゃったかな。
さて、続きを。
そう思った瞬間、立ち上がった虎杖。
私からペンを取り上げると、その手をとって今度は私を立ち上がらせた。
「ねぇ、名前。」
「な、なに?」
「ちょっと、息抜きしに行こ!」