もしも願いが叶うなら
なんとなく見ていた動物もののドラマ。
主人公の妹がワンコに尋ねたのは、
「もしも願いが1つ叶うなら、何をお願いする?」
そんな、よくある質問。
もしみんななら、何て答えるだろうか。
伏黒の答えはきっと、「姉を助けたい」って言うに違いない。
釘崎なら、「可愛いお洋服がたくさん欲しい」とかだろうか。
五条先生なら、「これからの僕のお願い全部叶えて欲しい」なんて言いそうだ。
隣に座る、大好きな彼。
テレビをぼーっと見つめるその横顔を見上げて、私は小さく唸った。
「うぅーん。」
「……えっ、なんで俺の顔見て悩んでんの?」
もしも願いが叶うなら。
そんな問に、悠仁は何て答えるんだろう。
いつも人のことを優先して、穏やかに笑ってて。
そんな強くて優しい彼にはそもそも、何か欲しいだとか自分のためにこうしたいとか、そういう気持ちはあるのだろうか。
「悠仁は優しいよね。」
脈絡の無い私の一言に、彼は首を傾げた。
「そう?名前の方が優しいと思うけどなー。」
いつもご飯作ってくれるし、俺のしょうもないギャグにも笑ってくれるし。
指を折りながら私のいい所を並べる彼は、やっぱり優しい。
言われて嫌なことじゃないし別にわざわざ止めたりはしないけど。
でも、いま悠仁の話してたんだけどな。
「はいはい、どうもありがとう。」
よしよしと髪を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じて私の手に擦り寄る。
まるで大型犬みたいな彼に、思わず笑いがこぼれた。
「ねえ。つまんない質問してもいい?」
「つまらんのに質問すんの?まあ別にいいけど。」
不思議そうに私を見つめる彼に、私はずっと疑問だったことをぶつけた。
「悠仁ってさ。欲とかあるの?」
瞬間、彼の目の色が変わった。
穏やかだった空気が、突然ぴんと張り詰める。
え、私なにかヤバいこと言ったか?
そう疑問に思っているうちに、私の両手は気付けば座っていたベッドに縫い付けられていた。
「えっ、ちょっ、悠仁?」
私を見下ろす彼の目がぎらりと光る。
まるで、そう。獣みたいな。
「あるよ、欲。俺には無いと思ってた?」
「いや、あの、」
「名前に合わせたいからできるだけ押し付けないようにしてるけどさ。
俺も男だから。」
額に降ってきたキスに、思わず目を瞑る。
そうすれば次は瞼に触れる彼の唇。
ヤバい。食われる。
今日着けてんのクソみたいな下着なのに。
そんなどうでもいい事の心配なんてしてる間もなく、私の手を掴んでいた彼の指がつぅっと手首から肘の方をなぞった。
あぁ、でも少し我慢して、今日は彼を受け入れようか。
いつも私に合わせてもらってばかりだし。
諦めて目を閉じた瞬間。
のしかかっていた重みが、一瞬でぱっと離れた。
「なんてなー。うそうそ。」
ごめんね、なんて私は嫌がってもいないのに謝った彼が、手を引いて私の身体を起こす。
「……すんのかと思った。」
「んー、でも名前あんま気乗りしてないっしょ?
俺べつに自己満したい訳じゃないし。」
また今度な。とからっと笑う彼。
その胸板に、思わず凭れる。
「出木杉くんかよ。」
「はは、何それ。違えよ。」
「できすぎだよ、あんた。」
その言葉に、私の髪を撫でながら彼が首を振った。
「俺、たぶん名前が思ってるほど綺麗じゃないよ。」
「そうなの?」
「おー。けっこう欲深いと思う。」
「どろどろ?」
「どろっどろ。」
だったら、悠仁はなんて答えるんだろう。
「ねえ、悠仁。
もしも願いが1つ叶うなら、何をお願いする?」
私の問に、今度はうぅーんと彼が唸る。
じっと見つめる私に、悠仁はハッとしたように顔を上げた。
「分かった。俺ね……」
彼の答えに、思わず吹き出す。
なぁんだ。そんなのお願いしなくていいじゃん。
彼の首に腕を回して抱きつくと、彼は満足そうに笑った。
「名前とずっと笑ってたい!!」
「……結局ぜんぜんテレビ見てなかったね。」
「たぶん伏黒が録画してる。」
「あぁー、してそう。」
じゃあもう寝ちゃおっか。
くすくすと笑う2人の声が、優しく静かに部屋にこだましていた。