桃色の衝撃
ドアの隙間から顔を出して、彼を覗くのは私の日課だった。
「……いた、」
いつも通りソファに腰掛けて本を眺める悟の横顔を、じいっと見つめる。
ほんと……綺麗な顔。
目を覚ました時に隣にいなければ、だいたい彼はああして本を読んでる。
文を追って上下する蒼い瞳と、揺れる長いまつ毛。
高い鼻や小さく揺れる前髪さえ、整いすぎていると言ってもいいほど綺麗だった。
ほんと、ああして静かにしていれば、ただの綺麗な人なのにな。
ページをめくる指先の繊細さと紙が擦れる音に、ドキドキする。
……まあ読んでる本っつっても今週のジャンプなんだけど。
「名前。なぁーにしてんの。」
不意に、その瞳がふっと上がった。
慌ててドアを閉める。
でもその直前にそのドアは押さえられて、ぐいっと開かれれば、ドアと一緒につんのめった私の身体を彼の腕が包んだ。
「本当に名前は僕の顔が好きだね。
いつもいつもそうやってさ。
まあ、どれだけ見つめてても飽きないとは思うけど?」
ふふんと鼻で笑った彼から、思わず目をそらす。
……今、ぜったい顔赤いし。
「だって……綺麗だから。見てたいし!」
「その割には、近付くといつも目逸らしちゃうよね。」
その細長い指が、私の顎を掬う。
そのまま顔を上げさせられて、自ずと私の視線が彼のそれと交わった。
やばい、溶けそう。
見つめあっていると、彼の顔がゆっくりと傾く。
そのままだんだんと距離が近付いて、吐息が絡んで……
それから熱が重なる直前に、私は彼の鼻を咄嗟に摘んだ。
「んぐ、」
「その……まだ、歯も磨いてない、」
私が途切れ途切れ呟いた言い訳に、彼はふふんと笑って私を抱き締める。
「……早くしないと、我慢できないかも。」
……えっ?
呟いた彼を見上げようと腕の中でもがく。
そんな事言うなんて、信じられない。
いつも余裕ぶって、必死なのは私だけなのに。
ってかどんなにもがいても顔見せてくれないんだけど!?
「今は、顔見るの無し。」
「どうして?」
「いつもよりちょっとだけ、カッコ悪いから。」
そう言って髪を撫でる悟の手を取って、ゆっくりと彼を見上げる。
「……私は好きだよ。今の顔も。」
薄く桃色に色付いた頬にキスを落とすと、「ばーか。」と彼が、今度は唇を重ねた。