拾壱 刀光剣影
カサッ
カサカサッ
本能的に耳を塞ぎたくなる音が、部屋のあちこちから聞こえてくる。
目を凝らした先に見えたのは、手のひらほどの大きさにもならない白くて小さな呪霊の大群だった。
部屋の角にびっしりとひっついたそれらはまるで風に吹かれた白カビみたいにさわさわしながらこちらの様子を伺っている。
「苗字!」
「大丈夫!小さい低級の群れがいただけ。」
建物自体に気配が染み付いているのは、この大群が長い間ここに住み着いていたからだろう。
他には特に大きな呪力も感じないし、このくらいならさっさと片付けられそうだ。
良かった。昨晩は慣れないベッドであまり寝付けなかったから、早く帰って寝たい。
ぷち、と髪を1本抜いて、それに呪力を詰める。
ふっと息を吹きかけて飛ばしたそれはそのまま低級たちの元まで舞って床に落ちた。
「ネコダマシ。」
瞬間、それがバチバチっと音を立てて爆竹のように弾ける。
驚いた呪霊たちは逃げるようにカサカサと身を隠した。
数匹は小さい爆発に巻き込まれて燃え上がったが、ただの追い払い程度にしかなっていないだろう。
まあいいでしょ。
どちらにしてもこんな小さいのばかりだったら祓うほどでもない。
「苗字。」
私の元に降りてきた伏黒くんが、大丈夫だったか。と言いつつ私の肩に乗った木くずを払う。
目の前で灰になった仲間を憐れむように数匹の呪霊が小さく鳴いていた。
「うん、全然平気。むしろさっき強打したおしりがヤバいかも……」
「骨まで行ってないなら大丈夫だろ。」
「雑だなぁ。」
全くもう。なんて言ったその時。
ふと、異変に気がついた。
「……あれ?」
さっきまで染み付いていた建物の呪力が突然消えた。
ガタガタ、ガタガタ、
突然、地震の様な揺れが私たちを襲う。
待って、もしかして。
「苗字ッ!!!」
「うわっ!」
大きな轟音と共に目の前の壁がぶち破られるのを、間一髪伏黒くんに抱き止められてどうにかかわした。
「ご、ごめん、ありがとう!」
「礼なんて後でいい。それより、この気配……」
ごくり、と伏黒くんが焦ったように唾を飲む。
「これは染み付いた呪力なんかじゃない。
この建物にびっしり、ヤツらが詰まってんだ……!」
つうっと冷や汗が彼のこめかみを伝って落ちていくのを、すぐ近くで見ていた。