玖 已己巳己





「また六本木で釣ろうったって、もう騙されないわよ!」


高専2日目の朝。
悶々と考えていてあまり眠れないまま半分寝惚けていた私の目を覚ましたのは、そんな野薔薇ちゃんの叫びだった。


「別にあの時も騙した訳じゃないよ?」

「どの口が。田舎者をおちょくるのも大概にしなさいよこの性悪教師。」


へらへらする五条先生と、一方でトゲトゲしてる野薔薇ちゃん。
その対比が極端だ。


「あの……?」

「釘崎が東京に来た日、六本木だっつって騙されていきなり討伐任務に連れてかれたんだよ。」


話がよく分からなくて首を傾げる私に気づいた伏黒くんが頬杖をついてこちらを見る。
なるほど、五条先生は基本的に色々無茶を言う人なんだな。


「ま、あの後結局六本木でビフテキ食ったから良いんだけどなー。」

「だからビフテキじゃなくてステーキっつってんでしょ」

「なんでだよ、ビフテキの方が美味そうじゃん!」


ビフテキ!ステーキ!と言い合う2人の言葉を遮るように、伏黒くんが口を開く。


「……それ、苗字も行くんですか。」


その言葉と同時に、みんなの視線が私の方に集まったのがわかった。
……そりゃあそうか。みんな私の術式の事とか知らないんだもんな。


「うん。むしろ名前が主役って感じ。
3人のポテンシャル諸々はあの時わかったけど、名前はまだ僕の知らないことだらけだし。」

「いや、あの……呪霊を祓うんですか?私が?」


いや待て。1人は厳しいぞ。
慌て出す私の肩を五条先生が優しく叩いた。


「心配しなくても、ちゃんと保護者付けるから大丈夫だよ。
ね、恵?」

「えっ、俺ですか。」

「不満?」

「いや、別にそういう訳じゃ……」

「じゃあけってーい。伊地知が連れて行ってくれるから、3人とも名前のフォローよろしくね。
僕は今からまた出張なので、またねー。」


なんか、私たちおもちゃにされてないか?
どこか楽しそうな表情のまま去っていった背中を見つめる。


「嵐みたいな人だな……」


ぼそりと呟くと、それが聞こえたのか虎杖くんがうんうんと頷いた。



「弾けりゃイェーって感じだよな。」

「それはわかんないわ。」

「釘崎なんか今日は言うこと全部いつにも増して鋭くない!?」

「私ステーキ派だから。」


仲良いなぁ、ほんと。
騒ぐ虎杖くんと野薔薇ちゃん、そして時々思わずと言ったようにツッコミを入れる伏黒くん。
等身大の高校生だ。

なんとなく会話の輪には入りきれず彼らの話しに耳を傾けていると、虎杖くんが突然ばっとこちらを向いた。



「苗字はステーキ派?ビフテキ派?」


いや……そもそもあんまステーキについて言及するタイミングないしわかんないけど。
まあ、強いていえば。


「……お肉派、っすかね……」


うわー、そう来たか!と頭を抱える虎杖くん。
可愛いこと言ってんじゃないわよ。と貶しているのか褒めているのかわからないことを呟く野薔薇ちゃん。

はぁ。と隣でため息をついた伏黒くんが、がたりと席を立った。


「なんでも良いだろ。さっさと行くぞ。」


2日目にして、早速の初任務。
緊張で痛む胸を押さえて、1番最後に私も席を立った。





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