塩対応作戦 : 五条の場合 前編
「お前ほんっとアホだよなぁ。」
ゲラゲラと笑いながら、彼……五条悟は地面に突っ伏した私を指さした。
「お前こそ可愛い彼女にソレは無しでしょうが……!!」
確かに、接近戦を鍛えてくれとは頼んだ。
しかし世界中を探してどこに自分の彼女を片手でぶん投げた挙句指さして笑う彼氏がいるだろうか。
しかも授業中だぞ。コラ。
「名前がいつまで経っても上達しないのが悪いだろ。」
「いつまで経ってもって……まだ10分そこらしか経ってないですけど。」
膝についたグラウンドの砂を払う。
悟から差し出された手は無視して、私は自力で立ち上がった。
誰が借りるか。自分をぶん投げた手なんか。
むすっとした私を見た夏油がやれやれとため息を着く。
ちょうど自分の訓練も一区切りついたのか、私の肩の土埃を払いながら口を開いた。
「悟。ちょっと女の子に手荒過ぎないか?
そういうのは段階的に鍛えてあげないと名前のためにならないよ。」
「そういう一般論はコイツには通じねぇの。
弱っちぃんだからさっさと強くなってもらわないと困んだよ。」
はぁ?
何言ってんだこの男は。
ぶちっと、頭の血管が切れたような感覚を覚える。
ちょうど授業が終わった瞬間、私は悟を睨みつけた。
「あんたに頼んだのが間違いだったわ。
弱いだの何だの好き勝手言いやがって。
付き合ってるから優しく特別扱いしろなんてこれっぽっちも思ってないけど、ここまで遠慮なく言われる私の気持ちにもなってみろっつの!」
「はっ?名前、」
「帰るわ。」
言うだけ言って、踵を返す。
彼らに背を向けて私はずんずんと寮へと歩いていった。
「ま、待てよ。」
焦った声と共に、私の強く握った拳を彼が掴む。
なんだよ。今更謝られても困りますけど。
「聞いてた?帰るの、私。」
睨むように振り返ると、少し高いところに蒼い視線。
それがきょろきょろと彷徨うのにもまた腹が立って、私はその腕を振りほどいた。
「悪いけど今あんたとは冷静に話せそうにないから。
また明日な、悟。」
呆気なく離された手の温もりが、いっそう私を苛立たせた。
部屋のベッドに、制服のまま飛び込む。
汗もかいてるしお風呂に入った方がいいんだろうけど、そんな気にはなれなかった。
確かに私は弱いけど。
悟に比べて能力も無いし、呪術師としてはまだまだだけど。
それでも、私なりに必死に足掻いてるんだ。
それなのに、あんな言い方されて。
こんなの、いくら精神がタフな私でも打ちのめされるに決まってる。
泣きそうになったけど泣いたら負けな気がして、私は誤魔化すように読みかけの小説を開いた。