肆 青天霹靂
「へぇ、じゃあ名前は1ヶ月しかここに居ないのか。」
「親の都合って、京都にでも転校するってこと?」
「あー……いや、たぶん普通の学校に転校、かな……?
まだ分かんないんだ。」
「そう、何か複雑なのね。」
数時間の授業を終えて、休み時間。
次の英語の授業を終えたら今日は終わりだ。
普通の授業と呪術師としての勉強、そして任務まであるんだから、呪術師って大忙しだなぁ。
虎杖くんと釘崎さんが話しかけてくれる言葉に答えながら、漠然とそう思った。
ガラガラ、と教室の戸が開かれる。
気付けば授業が始まる時間。みんなと話してるとあっという間だ。
次の先生は、普段は窓をやっている補助教員。
その先生が教室に顔を覗かせて、いちばん近くに座っていた私と伏黒くんを見遣った。
「あー……伏黒、資料室から荷物持ってくるの手伝ってくれ。
案内ついでに苗字も連れてこい。」
「はい、分かりました。
苗字。行くぞ。」
「お、おっす。お世話になりまーす。」
先に行ってしまった先生を特に急いで追うでもなく、手元の小説を閉じた伏黒くんが立ち上がる。
私もそれにならって教室をあとにした。
第一印象は、「笑っていない奴」だった。
正確には、笑っているのは顔だけの奴、というところだろうか。
虎杖と釘崎とは楽しそうに話していたが、自分の将来や未来の話になると途端に言葉を詰まらせるのもどこか不自然だ。
そもそも嘘がつけない性格なんだろう。
それでも何かを必死に隠しているような様子が、正直気になって仕方がなかった。
「ここに資料室は3つある。
教科書や資料が置いてある文字通りの資料室と、訓練用の木刀だのサンドバッグだのが置いてある部屋、あとは余った机とか椅子とかが詰め込まれてる部屋の3つだ。
順番に第一、第二、第三資料室って名前がついてるが、基本的には第二しか使わないと思っていい。
今日みたいに第一を使ったりすることは稀だな。」
「なるほど……」
ありがとね。と笑った顔が何となく見ずらくて、思わず目をそらす。
それを気にする様子もなく、苗字は「広いなぁ……」なんて呑気に呟いた。
彼女が心から素直に笑ったら、その笑顔はどんなに綺麗だろう。
ふと、心に疑問が浮かんだ。
ああ。見てみたい、かもしれない。
そこまで考えて、はっとした。
何考えてるんだ、気持ち悪いだろ。
小さく頭を振って、ため息をつく。
もうここの階段を降りれば第一資料室だ。
すぐそこだ、と言いかけて、気付いた。
隣に、苗字が居ない。
「……苗字?」
ばっと振り返ると、そこには、頭を抱えて蹲る彼女の姿があった。