参 無憂無風





「ほい、名前。これ。ここに名前書いて。」


ぽいっと渡されたチョークを握る。
上手く力が入らないけど、とりあえず名前を書けと言われたので恐る恐る黒板に書き込んだ。


「はいっ!ということで、今日から君たちのクラスメイトになる苗字 名前さんでーっす!
名前、自己紹介して!」


軽く背中を押されて、思わず肩が強ばる。
第一印象だ、第一印象……
あれ、第一印象って私が部屋に入ってきてすぐの事では?
そしたらもう手遅れ?



「あっ、えっと、苗字です!
少しだけここでお世話になります、よろしくお願いします……!」


ぐちゃぐちゃになった頭でとりあえず口から出した挨拶が、あまりに当たり障り無さすぎて呆れる。
同時に複数のことが出来ない、いわゆる不器用女。

1ギャグくらいかませば良かったか?

……いや、地獄になる気がする。
あっぶな。不器用で良かったかもしれない。


はいみんな拍手!と手を叩いた五条先生を無視して、短髪の男の子ががたりと立ち上がった。


「おぉ!オレ虎杖悠仁!よろしく!」

「お、おぉ、よろしく……!」


勢いに呑まれそうになっていると、その隣の女の子がふっと笑う。
ボブが似合う可愛い子だ。

笑顔も綺麗。きっと穏やかで優しい人なんだろう。


「釘崎野薔薇よ。2番目の女子ね。仲良くしようじゃない、新入り。」

「つってもお前だっておととい来たばっかだろ?
大して変わんねぇじゃん。」

「分かってねえな虎杖。こういうのは序列が大事なのよ。」



……人を見かけで判断してはいけないって、道徳の授業で散々習ったな。



「はいはい、名前がびっくりしてるからその辺にしときなね。
じゃあそこ、名前は恵の隣に。」

「あっ、はい!」


あっちだよ。と指をさされてそちらを見ると、寡黙そうな暗い髪の男の子がちらっとこちらを見た。

……いや、寡黙そうとか決めつけたらいけない。
元気なタイプの子かもしれないんだから、気をつけて、気をつけて……



そっと隣の椅子に座ると、頬杖をついたその子が私を見つめた。


「……伏黒恵。誰もあんたを食ったりはしねえよ、肩の力抜け。」

「緊張してたの、バレてた……?」

「"してた" ?
未だに "してる" の間違いじゃないか。」


首を傾げて見せた彼に、思わず笑いがこぼれる。
全部バレバレじゃん。
初対面でこんだけ見透かされるなんて、彼が凄いのか、私が相当チョロいのか。


「そうかも。よろしくね、伏黒くん。」


同じように首を傾げて見せると、綺麗なその瞳が一瞬柔らかく細められた。


「……あぁ。」


不安でいっぱいだった転入初日。
少しでも気を抜けば、楽しいクラスになってしまいそうです。





- ナノ -