Shooting Star
星がうるさい、2人きりの夜。
流れ星でも見えそうだ。
それでもカーテンを閉めてのんびり映画なんか見て、「ちっとも面白くないね」なんていいながら私と彼は唇を重ねた。
「なんか、あんたのキス、甘い。」
「さっきチョコ食べたからじゃない?
美味しいよ。名前も食べなよ。」
チョコを勧めながら、その手が服の中に這入ってくる。
その指が脇腹をなぞって、思わず声が漏れた。
「ん……食べさせる気無いでしょ。」
「あ、バレた?」
「バレた?じゃないっつの。」
「でもねー、これはマジでオススメ。
特に低血糖症なそこのあなた!」
「いや、違いますけど。」
はぁ。とため息をついた彼の指が、また動き出す。
身体中を愛撫する指先が感覚を煽って仕方がない。
「まったく、冷たいなぁ名前は。」
「そんな、とこが……っ、良いクセに。」
「まぁねえ。」
いつもこうだ。
私が彼を好いてて、それを知ってるくせに、彼は一歩も私を踏み込ませてはくれない。
「いい物件だよね。」
「最ッ低。」
不機嫌に眉を顰める私には目もくれず、彼がベッドの横の引き出しを片手でまさぐった。
「まだゴムある?」
「自分で持って来てない訳?」
「どうせ名前ん家ならあるかなーと思って。」
「じゃあ聞くなっつの。」
「あるんだ。」
「誰かさんが持ってこないだろうなと思って。」
苛立ちながら投げつけるように手渡すと、あっという間に私はベッドに押し倒された。
「名前ってさ、彼氏いないの?」
風呂も浴びて、再びベッドの隣に収まった彼が無神経に尋ねる。
いる訳無いでしょ。
どうせ、それも知ってるくせに。
「居たらあんたと二度と会わなくて良いのにね。」
「よく言うよ、好きなくせに。僕とのセックス。」
「うっざ。」
嫌味ったらしく言ってやれば、彼の指が首筋をなぞった。
その手を振り払って背を向ける。
「言葉遣い悪い女の子はモテないよ。」
くすくす笑いながら、彼が私を後ろから抱きしめた。
気に食わない。
何より、こんな男に惚れてしまった自分が。
こんなクソみたいな関係、断ち切ってしまうべきなのは分かっているけど。
それでも、彼への気持ちが身を引いてくれる気配はこれっぽっちも無い。
「……ねえ、悟。私さ、」
「あっ、ごめん。僕もう行かなきゃ!
明日から出張なんだよねぇ。
仙台!お土産何かいる?
喜久福には寄る予定だけど。」
私の言葉をわざとらしく遮って、彼の体温が呆気なく離れていく。
いつも、こうだ。
それ以上私が前に進めないことを、この男は知っている。
「……勝手にして。」
「そ?じゃあイチオシ買ってくるから楽しみにしててよ。」
ため息みたいに呟いた私に、彼がついに背を向けた。
「じゃあねー、また後日!」
ふたつの蒼い流れ星が、白い尾を引いて消えていく。
そうして1人になって、彼と絡み合ったベッドの中で空が白んで行くのを見た。
願いなんて聞いてくれない、あの光を思いながら目を閉じる。
2月の末、外はまだ寒い。