Loud out!





「あ、名前じゃん。やっほー。
相変わらずシケた面してんね。更年期?」


「は?ぶっ飛ばすか?
あんたこそ私に突っかかるの好きね。思春期?」



私を肘でどつく巨人……もとい五条悟の肩を殴る。
あっちからちょっかいを出してきたくせに、奴は私の言葉に大人気なくべぇっと舌を出した。


ほんと、腹が立つ。
せっかくの良い顔と高い身長を無下にするガキみたいな性格。
自分が最強であるという、異常であり過剰じゃない自信。
いつもヘラヘラしたその態度。


そして、1番腹が立つのは……

私がそんなどうしようも無い男に恋をしているという事だ。

何が面倒かって、今更自分の気持ちなんて、面と向かって素直に言えないことだ。
現に私は、チャンスは腐るほどあるのに見事に全部逃している。



「はぁ……ほんっと……」


何でこう、上手くいかないんだ。
深くため息をつくと、右隣の彼が嘲笑うようにふっと笑った。


「ため息は幸運が逃げるよ。
元から大して持ってないんだから大事にしないと。」


「あんたがいなければこんなに悩むことも無いんですけどね。」



お陰様で、もう若くないのに面倒な恋に悩みっぱなしだっつの。

やれやれと首を振った私に、「あっ、そうだ。」と彼が思い出したように呟く。

敢えて無視していると、つんつんとその長い指が私の二の腕をつついた。


「どうしたのって言って。」

「なんでよ。」

「いーから!」

「はぁ……どうしたの。」


よく喋るそいつに、言われた通り聞き返す。
普通巨人はそんなに喋らないんですけど。
奇行種か?……奇行種か。


「いや、実は名前も好きそうなカフェ見つけてさ。
今からどうせ暇でしょ?一緒に来てよ。」



文句を垂れる私の腕を引いて、彼はずんずん歩き出した。






「うわぁ……悟、ほんとにそれ食べんの?」


「コーヒーよりよっぽど美味しいよ。名前もいる?」


「勘弁して。そのパフェ見てるだけで胸焼けがする。」



目の前のコーヒーを啜りながら、ジト目で彼がつつくパフェを見つめる私。
正直コーヒーは、オススメされるほど美味しくはない。


私がコーヒーを1口残したところで、悟はぺろりとそれを平らげた。


ほんと、掃除機か、あんたの胃は。



頬杖をつきながらぼーっと私を見つめる彼を横目に、最後の1口に口をつけた。
その時だった。



「ねぇ、名前。
恋人になってあげてもいいよ。」


「ぶっ、」



思わず悟に向かって吹き出したコーヒーが、彼の手前で落ちる。
うわ、きったな!なんて言う悟に構う間もなく、とりあえず手元の紙ナプキンでテーブルの上のそいつらを押さえた。


「なっ、今、えっ、何て、」


「だから、名前が恋人になって欲しいなら、僕がなってあげてもいいかなって思って。」




口元を拭って、取り敢えず落ち着いたテーブルのコーヒーを拭き取る。


「待って。何か変なもの食ったの?」

「食ってないよ。」


またへらへらと笑うそいつを、ため息をついて見上げる。
はあ、なるほど。
だったらこんな中途半端、許してやるか。

ふん、と鼻で笑って首を傾げてみせる。



「何?そんなしょうもない言葉で私が靡くとでも?」

「靡かないの?案外面倒だな。」

「あんたの方がよっぽどね。
で、口説くなら真面目に言ってみなさいよ。」

「僕はそう易々と本気出さないんです。」

「え?じゃあ逃げんの?」

「は?」

「逃げんの?って言ってんの。」

「別に逃げてるわけじゃないでしょ。」

「私は別にいいけど。
まともに告白もできない意気地無しって事は黙っといてあげる。」



ぶち。

ついに、悟がキレる音が聞こえた気がした。


「ああもう、分かった!分かったよ!言えばいいんだろ!」


がたんと席から立ち上がって私を見つめた彼が、人目もはばからず大声で叫ぶ。






「好きです、僕と付き合ってください!!!」





その後、喫茶店が妙な雰囲気に包まれたのは、言うまでもない。





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