12/7 黄昏時の故郷 編
景色もすっかり冬の顔になった12月。
私は暖房の効いた部屋でティファとふたり飲んでいた。
水をコップ一杯汲みに行って、ティファの目の前にそっと置く。
ありがと。と笑ったティファが、思い出したように声を上げた。
「あっ、」
「……どうしたの?」
「クラウドの話、聞いた?」
「ううん、何かあったの?」
真剣な面持ちのティファ。
でも何も心当たりがない私は、彼女の言葉に首を傾げた。
そんな様子の私に、実はね。と、彼女が口を開く。
「クラウドが故郷に帰るんだけど、ナマエにもついて行ってほしくて。」
え、ただの帰省に?
そんなの、私が行ったら迷惑じゃない?
「それ私おじゃま虫になっちゃうでしょ。
ほら、クラウドも家族との時間とかあるだろうし。」
クラウドのふるさとがどんな所かは知らないけど、家族団欒の時間は邪魔すべきじゃない。
そう思っていた私に、ティファは首を振った。
「ううん、それは大丈夫。
お願い。クラウドと一緒に行って欲しいの。」
まっすぐ私を見つめて、彼女が私に頷く。
そして、ぼそっと呟いた言葉に、私は再び首を傾げた。
「それに……探し物も見つかるかもしれないから。」
「……ごめんね、なんか邪魔しちゃって。」
彼の腰に手を回して、バイクの後ろから彼に声をかける。
結局、一緒に来てしまった。
「いいや、いいんだ。」
小さく頷く彼。
申し訳なくて少し握った私の手を、彼の手のひらがぽんぽんと撫でた。
あ、なんだか今の恋人みたい。
……って、何考えてるんだ!!
ぶんぶんと首を振って、邪な考えを頭から追い出す。
いかんいかん。
そんな事を考えているうちに、私たちを乗せたバイクはゆっくりと止まった。
「……着いたぞ。」
先にバイクを降りたクラウドが私に手を差し出してくれて、素直にその手をとる。
よいしょ。と降りると、そこには穏やかで小さな街並みが広がっていた。
真ん中には給水塔。そして、家々はそれを囲むように並んでいる。
それだけ。
でも、なんだかそれだけでとても落ち着く。
……なんだか、この場所を知っている気がする。
そんな事を考えて、思わず自分に苦笑いが零れた。
いやいやいや、知ってる訳無いでしょ。
始めてくるのに。何言ってんだ。
そういえば、とクラウドの方に目を向ける。
彼は、ただじっと給水塔を見つめていた。
落ちていく夕日が照らす彼の横顔。
綺麗な金の髪が、太陽を反射して美しい。
月みたい、なんて思う。
そのまま見つめていると、彼の瞳がゆっくりとこっちを向いた。
「着いてきてくれ。」
「え、あ。うん。」
懐かしむようにゆっくりと歩みを進めるクラウド。
その背中を追いながら、やっぱり心の中では何かが引っかかり続けていた。
何か懐かしい。
知っている気がする。
……初めて来たはずなのに。
キョロキョロ見回しながら歩いていると、目の前のクラウドが突然足を止めた。
目の前に視線を向ける。
……ああ、そうだったのか。
ゆっくりと、クラウドが跪く。
目の前には、花が添えられた2人分のお墓。
「俺の両親だ。」
クラウドはそう呟いて、もともと添えてあったお花をとって同じものを添える。
ゆっくり近付いて、彼の隣に私も跪いた。
何も言わずに、ゆっくり目を閉じる。
「他に来る人もいないんだ。
だからこうして、時々俺が会いに来る。」
隣を見ると、目を伏せて祈りを捧げているクラウド。
それからゆっくりと瞼が上がって、彼は私の手を引いて立ち上がった。
それからは、2人で彼の故郷を見て回った。
小さい頃にクラウドがよく登った木だとか、走り回った広場だとか、私の知らないクラウドの話がたくさん出てくる。
嬉しい。
確かに、そう思った。
私が知らなかった彼の一面を知れて嬉しい。
でも、なんで嬉しいのか、私にはいまいちぴんと来なかった。
帰りのバイク。
行きよりも距離が近くなった気がして、私の心臓はいつもより少し大きく音を立てていた気がした。