Episode 26





「待って、待って待って待って!!!!」

「待たない。」

「死ぬって!ちょ、ほんとに!!」

「死なない。」


クラウドの腰に必死に抱きつく。
腹に響くバイクの音に負けないくらい、私は叫んだ。


ぐぐっと、バイクがやっと止まる。


「決着をつけてくる。」

クラウドが振り返って、そっと私をバイクから下ろした。


「うん、わかった。」

強く頷いた私に、クラウドが応えて頷く。


「絶対に迎えに来る、少し待っててくれ。」



クラウドは再びエンジンを吹かして、階段から飛ぶように降りていった。




下のフロアで、クラウドが神羅兵たちをなぎ倒して行く。

元々は展示用のバイクなんだから、びっくりしてるよ。こんな使い方されて。


そのまま彼はエアリスさんたちの前に止まった。


「クラウド……!」

エアリスさんが安心したように言う。
彼は、親指で私をくっと指さした。


「迎えに来たぞーーー!!」


大手でぶんぶん手を振ると、クラウドは満足そうに微笑んで、また兵をなぎ倒し始める。

瞬く間に、兵は半分もいなくなった。


「増援!こっちだ!!」

後ろから神羅兵の声。
咄嗟に走って、フロアの開けた広場に置かれた観葉植物に身を隠す。


そこの大きな窓の前にも、神羅兵がひとり。

もう、これじゃあ出ていけないし……!!


どうしよう、と思った瞬間、あのバイクの音が威嚇するように吠えた。

その方向を見ると、並んでその神羅兵を睨むクラウドのバイクとティファが運転する車。
それから、バイクは勢いをつけるようにぐっと回り出す。


そこから弾き出されるように投げられた彼の大剣は、その神羅兵の真横に突き刺さった。


「ひ……ひぃっ……!!」


神羅兵は腰を抜かして座り込む。
なんか……可哀想だな。



「ナマエ!」

私を呼ぶクラウド。
私は観葉植物の裏から飛び出して、クラウドの元へ走った。


「無事か。」

「うん、みんなも。
……出ていくの?みんな、ここから。」


行ってしまうのか。
悲しくなって、みんなを見つめる。

そして、ティファが小さく頷いた。


「ナマエも来るか。」

そう言って私に手を差し伸べられる、彼の右手。



……クラウドと、みんなと、一緒に…………






「ううん、行かない。」



私は、強く首を振った。


「私はまだ、ここでやることがあるから。」

街の人々を守るための兵器は、誰にでも作れるものじゃない。
そのために、私は今まで頑張ってきたんだ。

確かにきっかけはクラウドだった。
でも、今の私には、ちゃんと、夢がある。


「……だから、行けない。」


まっすぐ彼を見つめる私にクラウドは、分かった。と私の髪を撫でた。


その瞬間、気持ちが込み上げてきて、クラウドに抱きつく。
もう、簡単には会えなくなるんだ、この大好きな人と。

そっと背中に腕がまわって、私を優しく撫でた。


はっと思い出して、胸ポケットについたヘアピンを手に取る。
エアリスさんから貰った、大切なもの。
でも、なんだか私は、これを今クラウドに渡さなきゃ行けない気がした。

エアリスさんを振り返ると、彼女が優しく笑う。
まるで、なんでもお見通しみたいに。



笑い返して、そのヘアピンをクラウドの胸元につけた。


「……この花は、」

気がついた?
そうだよ。あの花だよ。


「花言葉。クラウドのこと、信じてるから。
ずっと。約束ね。」

笑いかける私を、クラウドがさらに強く抱き留める。


「ああ。こんな大切な約束、忘れたら承知しないぞ。」

「クラウドも。忘れたらぶん殴ってやる。」

「ふ、それは怖いな。」


耳元で笑う声が、響いて離れない。

それからゆっくり、その熱が離れていった。



「みんな……きっとまた会おうね。…気をつけて。」

頷くバレットと、笑うエアリスさん、泣きそうなティファ。
みんなの表情に、胸が熱くなる。

後ろに乗った赤いわんこは、よく分からないような顔をしてたけど。



クラウドが右のグリップを手前に捻って、バイクを鳴らす。


勢いをつけた彼のバイクと皆が乗った車は、窓から飛び出して、ハイウェイから夜の街に溶けて行った。





「……また会おう、みんな……絶対。約束だからね。」

心の中で、あの黄色い花がふわりと揺れた。








- ナノ -