7/7 星空の丘 編





7月7日、七夕の日。

その時期にしては珍しく晴れたその日、クラウドに誘われて私たちは人並みから離れた小高い丘までやって来た。

バイクのスタンドを下ろしたクラウドが、空を見上げて小さく頷く。

「ちゃんと見えるな。」

「うん、晴れて良かったね。」

「ああ。あいつらが会えるのも何年ぶりだろうな。」


あいつらって、彦星と織姫の事だろうか。
なんだか友達のことを話すみたいに言う彼がおかしくて、思わず小さく笑った。

私を振り返った彼が、私を見て柔らかく笑う。
思わず熱くなった顔を覚ますみたいに、芝生の上に腰を下ろして私も星空を見上げた。

隣に彼が歩み寄ってきて、肩が触れそうな距離に座る。


特別なものは、何も無い。
あるのは星空と私たちだけ。
風の音さえ消してしまいそうな静寂に包まれる空間が心地いい。


「ナマエ。あっち、よく見える。」

彼の指さした方向には、まるでシルクを広げたみたいに伸びる天の川。


「だったらあれが夏の大三角形ってやつ?」

「ああ、そうなるな。」


天の川の上に重なるように輝く3つの星を指差すと、クラウドが頷いた。



まるでプラネタリウムみたいに、星空がほんとうによく見える。
眩しくさえ感じるその星々に、思わず夢中になった。



……あ、なんか、くっつきたいかも。

ふと思い立って、クラウドの肩に寄り添ってみる。
暖かい風が私たちを撫でるみたいに流れて、心が落ち着いていく。




……待って、私いま何してる!!??

ぼーっと寄りかかっていた身体を慌てて起こしたを


「ご、ごめん!!」


するとその時、肩に彼の腕が回ってきて、もう一度私を彼に寄りかからせた。


「く、クラウド……?」


何も言わずに星を見上げる彼に、私もとりあえず再び見上げる。

あー……何この状況、顔あっつ……


どう動きようもなくて、彼に再び身体を預けた。




その時だった。


「あっ……!!」


目の前を、尾を引く流れ星が横切る。

あ、ね、願い事!!

咄嗟に思いついた願い事を、とりあえず1度、心の中で唱える。
3回なんて言い出したやつ誰だ、無理ゲーすぎるでしょ。
そもそも願い事なんて、こんなので叶うはずないんだけど。

それでもまあ、聞いて貰えないよりはマシだろうか。



「ねえ、今みた!?」

真横の彼を見上げると、「うん。」と、彼が笑う。


「願い事、ちゃんとしたか?」

「うん、3回もは言えなかったけどね。」

「何を願ったんだ」


私に尋ねる彼に、思わず言葉が詰まる。
言えないよ。そんな、本人に。


「あー……言えない。」

ひみつ。と呟いた私の髪を、肩を抱いていた手が梳くように撫でた。



「俺は、ナマエ。
あんたとずっと一緒にいたいって願った。」


「……えっ?」



彼の言葉に、比べ物にならないくらいの熱が顔に集まる。
喉が震えて、返事も出てこない。
もう、何言ってるの?そうやって茶化す余裕も無い。



「わ……私、も、」


絞り出した声は、弱々しく掠れていた。



「私も……クラウドと、ずっと一緒にいられたらって……そう、願った、」



うん。と頷いて、彼が私に優しく微笑みかける。

ぼろっと、涙が零れた。


「……ナマエ、なんで泣いてるんだ。」

「だ、だって……嬉しくて、」

「擦るな、腫れる。」


グリグリと乱暴に涙を拭った私の手を、クラウドが取る。

目が合って、強く、そっと、指が絡んだ。




「……すき、クラウド。」

その言葉を飲み込むように、彼の熱が私の唇に重なった。








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