4/7 甘いイチゴ狩り 編
「イチゴ狩りの季節ですよ、クラウドくん。」
「……何なんだ、いきなり。」
新しい季節の始まり。
私は怪訝な顔をするクラウドの鼻先に雑誌を突きつけた。
ページには、"春はやっぱりイチゴ狩り!"と、妙にポップな字体ででかでかと書かれている。
……少し前までの私なら、きっと何気なく見逃しちゃってたんだろうな。
でも、今は明確な理由がある。
クラウドを、デートに誘いたい。
……いや、付き合ってはいないんだけど。
というかガッツリ友達判定食らってそうではあるんだけど。
でも、やっぱり好きな人とは一緒にいたい。
先月、私は彼への恋心を自覚した。
それから、正直かなり吹っ切れていて、隙を見つけては彼をお出かけに誘って、あわよくば。なんて気持ちを抱えながら過ごしてきた。
砕ける結果になったとしても、いつか当たってみようなんて決意を胸に抱えながら。
「これ。」
バイクに跨ったクラウドが、私にひとつヘルメットを差し出す。
可愛い模様がついた、一回り小さいヘルメット。
「……これ、クラウドの?」
受け取って首を傾げる私に、彼はため息をついて呆れたように答える。
「そんな訳ないだろ。ナマエのだ。」
「えっ……私専用?」
「乗らないのか。乗るならさっさと被ってくれ。」
ああ、うん!と、慌ててヘルメットを被って彼の後ろに飛び乗る。
バイクが音を立てて走り出して、私は右手でヘルメットに触れた。
……私専用だって。
思わず緩んだ口元を隠すように、私はそれを深く被り直した。
「おぉぉぉ……宝の山だ……」
ビニールハウスの中。
春でもまだ寒い風を隔てたそこは、赤い宝石でいっぱいだった。
「これ、全部食べていいんですか!!??」
私の言葉に、農家の人は笑って、「元を取って帰ってね。」なんて手を振ってくれた。
隣を見ると、小さいバスケットを持つクラウド。
似合わない。
可愛い。
でも弄ったらいじけそうなので、私は意気揚々、その宝の山に足を踏み入れた。
「おぉ……いっぱい取れた……」
持ち帰り用のプラスチックのケースに詰まったイチゴに、思わず感嘆の声が零れる。
クラウドのとあわせて2つ。
これはまだまだ楽しめそうだ。
「楽しそうだったな、ナマエ。」
「うん!クラウドは?」
「ああ、楽しかった。」
彼の返答に、ふふんと鼻で笑う。
「来てよかったでしょ。
ねえ、帰る前にもう一つだけ食べてもいい?」
バイクにもたれ掛かるクラウドに問いかけると、彼がこくんと頷く。
それを見て、私はケースを開けると1粒口に放り込んだ。
「んんー……甘ぁ、」
その時、思わず天を仰いだ私の横から、すっと腕が伸びてきた。
それはそのまま私のケースから1粒いちごを盗んでいく。
「あっ、クラウド!私の!」
「ふ、知ってる。」
彼はいたずらに笑うと、それを口に放った。
もぐ、と噛んで、しばらくするとそれが喉に流れていく。
そして彼は指先に残った果汁を舐めると、バイクに跨った。
……うっわ……好き。
ぽかんとしたままの私の手を引いて、クラウドが笑う。
「帰るぞ。ティファにも分けてやるんだろ。」
「あ、う、うん!」
急いで後ろに跨って、彼の腰に手を回す。
まだバクバクと音を立てる心臓を誤魔化すみたいに、
私は少し、ばれないように彼の背中に寄り添った。