3/7 桜と菜の花の川沿い 編
春の香りが漂い始めた3月のはじまり。
暖かくなってきたからとクラウドに誘われて、私は今、彼の後ろで風を感じている。
「なんかさぁ、」
「ん?」
風音に負けないように少し張り上げた声を、クラウドは逃すまいとしてくれているのか、目線は前に向けたまま私の方に耳を傾けた。
「すっかり、当たり前になったよね」
「何がだ」
「んー?何がって、2人でお出掛け。」
「……そうかもな。」
ふっと前に意識を戻した彼に、小さく笑う。
「照れてる?もしかして。」
「何の話だ」
「すっとぼけちゃって。」
私のその言葉にクラウドは少し眉を顰めると、いきなりぐんっと少し速度を上げた。
「うわっ、」
咄嗟に彼の腰に回していた腕にぐっと力をいれる。
彼の背に当たった右耳が、嫌に熱い。
……熱い?なんでだ?
「余計なこと言ってると振り落とすぞ」
彼の言葉に、慌てて気を取り直す。
「何それ、ケチ!」
「うるさい、ケチ。」
再び声を張り上げた私に、クラウドは悪戯に笑った。
「……到着?」
「うん。」
ゆっくりとバイクが速度を落として、路肩に停まる。
彼が差し出してくれた手を取って、私はそれから降りた。
「……ナマエ、目を閉じていてくれないか。」
「目?いいけど……」
私の手を取ったままのクラウドに首を傾げるけど、とりあえず言われたまま目を閉じる。
開けてないな?と時々確認されつつ、手を引く彼の指先を頼りに私はクラウドを追った。
数分歩いただろうか。
肩をそっと押さえられて、歩みを止める。
「……開けていいぞ。」
彼の言葉に、私はゆっくりと瞼を上げた。
「わ……なに、これ……!!」
目の前には、いっぱいの菜の花の黄色と、そこを分け入るように流れる空色の小川。
陽の光を浴びてきらきら光るそれに、私は言葉を失った。
「綺麗だろ。」
彼の言葉に、こくこくと頷く。
うん、綺麗。
なんだかまるで……
「……クラウド、みたい。」
「えっ?」
「クラウドの髪と、瞳の色みたい。」
なんだか凄い発見をしてしまったような気になって、思わずクラウドを見上げる。
「……クラウド?」
そこで見上げた彼の表情は、すこし意外なものだった。
驚いたような。……どこか寂しいような。
その時、彼の右の瞳から、一筋つーっと雫が零れた。
「……っ、」
「クラウド、」
咄嗟に出た手が、クラウドの頬を拭う。
「クラウド、どうしたの?」
「……何でもない。」
私の手を離させて、クラウドが袖口でぐいっと頬を拭う。
……知られたくない事、なのだろうか。
そう思った途端、心の奥に広がるもやっとした何か。
彼を知りたい。
彼を支えたい。
今まで気付かないふりをしていた感情が目の前に現れて、私は心の中で苦笑いを零した。
そっか。
私、クラウドの事が好きだ。