毒入りホットレモネード(主カギ)
2018/01/15



「あの人先輩のこと見てましたよね」
というのが、最近のカギPの口癖だった。行きつけのカフェのオープンテラス、いちばん端のテーブルからあたりをきょろきょろ見回してみると、道路を挟んで反対側にクラスメイトの女の子がいた。買い物帰りだろうか、紙袋を手に提げた彼女と目が合ったのでとりあえずひらひらと手を振っておいた。カギPは少しむっとしたような面持ちでスティックシュガーの袋を破いている。さらさらと溢れる真っ白な砂糖が、カップの中で湯気を立てるコーヒーの中に沈んでいく。
「あの人が見てる」彼が言う時、実際に僕のことを見ている誰かは必ず存在しているので所謂妄想というやつではないのだけど、では僕と一緒の時は常に周囲からの視線に目を光らせているのかと思うと、それはそれで少しげんなりしてしまう。独占欲丸出しだ。
「あのね、あれただのクラスメイトだから」
別にやましいことなど何もないはずなのに、言葉はなんでか言い訳めいた響きを持ってしまう。カギPはスプーンでかちゃかちゃとコーヒーをかき混ぜ始めた。
「先輩は誰にでも愛想がいいから勘違いされるんです」
「別に出先で見かけて手振るくらい普通でしょ」
「普通なんですか?」
「僕の中ではね」
「……」
君はやらないの?それともそもそも友達とかいないの?そう尋ねてみようとしてやめた。一度彼の機嫌を損ねてしまうと、持ち直すまでになかなか骨が折れることは学習済みだ。
「ともかく、今僕がちゃんと見てるのは君だけだから、あんまり心配しなくていいよ」
疲れるでしょう、と問いかけると、カギPはカップに口をつけたままでやや遠慮がちに頷いた。なんだけっこう可愛いところあるじゃん、なんて思っていたらテーブルの下でそっと伸ばした脚を僕の脚に絡めてきた。わお、大胆。

(周りがみんな、自分の獲物を横取りしようとするハイエナにでも見えてるんだろうな)

だったら誰の目も声も届かないようなところに僕を閉じ込めてしまうのが何より合理的なはずだけど、それをしないということはやっぱり「違う」のだろう。いくつもの選択肢がある中で、僕が僕の意志でカギPただひとりを選んだ、という事実が、彼の自尊心とか優越感を満たすエサになっているのだ。きっと。
「で、今日このあとのご予定は?」
「……先輩のお好きなように」
すす、と靴越しの爪先で足首を撫でるとカギPは花の綻ぶように笑って見せた。僕はそれを、ただとても綺麗だと思っていた。


comment (0)


prev | next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -