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「ーーーーー炎羽、」
「あら」
「お?」
ドンッ!!
ヨリが短く唱えた言葉と同時に三人の中心から爆炎が巻き起こった。
ラビと神田も両腕を顔の前で交差させ、爆風に耐える。
「ヨリ!!」
「危ね…ヨリ大丈夫かー?」
「貴方に触られるのが嫌だったんじゃなくて?」
「え、つーかお前今日何か酷くね?俺何かした?」
「あれくらいの年頃の子は父親に反発するわ。私もあったもの。」
「いや俺父親じゃねぇから、兄貴だから。第一お前のヨリくらいの歳って何百年前だ「振り落とすわよ」すいませんっした」
渦巻く黒い爆風の中から逃れて無傷のティキが箒に横乗りしている梓の箒に掴まって現れた。
ティキと梓が隣の屋根に降り立つと爆発した箇所から一歩も動いていないボロボロのヨリがラビ達に背を向けてティキ達と対峙する。
「ヨリの兄さんって亡くなったんじゃあ…」
ティキの言葉を聞き、ヨリのいる建物から数件後ろでリナリーが言葉を失う。
口を挟む事はしないがブックマンを含めて皆が同じ反応だった。
「千年公に記憶を封じられてたんだよな?」
「…………」
「記憶を封じられてた…?」
「そ。俺らノアの一族は訳あって『乙女』の魂を受け継いでいるヨリを殺す事が出来無い。
…ま、俺は腹違いとはいえ妹だし殺したくなかったのも本音なんだけど。
ただヨリは昔俺がノアだというのを知ったから殺さないといけなかった。」
「!!」
「あの時はヨリが『乙女』だと知らなかったからなぁ。
千年公の話だと、前の『乙女』が魔術とやらを使ってヨリの魂が『乙女』だという事を隠したらしい。
だからヨリを殺す事が出来なかった。
その代わり兄貴(俺)が死んだと思い込ませて俺に関するヨリの記憶を千年公が封じる事で、事なきを得たんだが…最近になってヨリが『乙女』を受け継いでいると分かった。
千年公はヨリに施していた記憶の封印を解除したんだが、何かが引っ掛かってヨリの記憶がすぐ戻らなかったんだよ。」
「……だから、エクソシストにちょっかいを…掛けに来た、ロードがついでに、あたしに接触を図ったって所、かな…」
「正解」
パチパチと簡単な拍手を送られるもヨリは表情を変えずに俯いた。
「ヨリ…っ」
「ーーー今からでも、教団に帰って」
「えっ…?」
ローブを脱ぎ去り両手に針を逆手にして持ったヨリは肩越しにラビ達に告げる。
ヨリの長い髪に隠れてその表情を窺い知る事は出来なかった。
「クロス様の、元には、あたし一人で行く。
だから…貴方達は、教団に帰って。」
「な…」
「馬鹿かテメェ。何言ってやがる」
「神田も、何で此処にいるか…知らないけど、本来の任務は…ティエドール元帥の護衛でしょ…」
「つかお前、まだ覚醒してねぇけどノアなんだって。ナンバーレスだけど。
本来こっち側なの。」
面白そうに笑うティキを睨んでヨリは手中の針を握り締める。
「…だから?」
「は?いやいや、イノセンス使えねぇんだろ?お前だって自分がノアだって心当たりあるんじゃねぇの?」
「…仮にノアだったとしたら、何?
それが、今までのあたしを…否定する理由には、ならないでしょ。」
「…!」
「あたしがノアだろうがなんだろうが貴方が兄様だろうが、今までのあたしの信念や心のあり方まで否定させない…」
「!」
「それに、イノセンスは…まだ、使える」
「は?」
「ーーーイノセンス、発動」
自嘲気味に笑ったヨリの背中から純黒の翼が生えバサリと嘶くように一度だけ大きく羽撃いた。
「!!」
「っ!!…ゴホッ、ゴホッ!」
「ヨリ!?」
ズキッと翼の付け根がある背中に激痛が走る。
肩から背中に手を伸ばし、同時にせり上がってきた何かにヨリは口元を抑えて激しく咳き込んだ。
口を塞いでいた手の隙間からポタポタと赤い血が溢れる。
ヨリの様子に驚愕するラビの隣で神田が目を見開いた。
「っ馬鹿野郎今すぐ発動止めやがれ!!」
「ユウ?!」
「お前それ同時発動の時の症状だろうが!!死にてぇのか!!」
「!?」
怒鳴る神田にラビが振り返る。
2年間、教えてもらう事の無かった『同時発動の際の症状』。
ただ彼女と任務に行く度に『同時発動だけは絶対にさせるな』と何度も言われていた。
「そ、なんだ………ゴホッ…神田、教えて、くれなかったから…知らなかった、や。
でも…やめ、ない」
「ヨリ!!いい加減にしやがれ!!」
「ヨリ…!」
徐々に咳が治まってきたヨリは肩で息をしながら手の甲で口元を拭った。
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