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「…教団に、帰って。クロス様のところには…あたしが行くし、っ…ノアはあたしが殺す。」
「それは無理よ」
「っ!」
「ヨリはノアを殺せないし、クロスには会えない」
妖しく笑う梓の姿がさら…、と砂のように風に乗って消える。
ハッと息を呑んだヨリは跳躍して翼を羽撃かせた。
「上さ!!」
「がはっ、…ぐ!!」
飛翔したヨリの真上から箒から飛び降りたような態勢で梓がヨリの背後を捉えた。
ドンッ!ガラ、ガラッ…
「翔ぶ力も殆ど残って無いのに無理に翔ぼうとするからよ」
「ヨリ…っ!!」
「おい…殺してねぇよな?」
「殺してないわ、ちゃんと意識もある」
屋根に墜落し崩れた屋根から瓦礫や小石が落下していく。
舞い上がった砂塵が晴れると翼の付け根に梓の片膝を押し付けられ両手を拘束されたヨリが辛うじて意識を保っていた。
「そいつを離しやがれ!!」
「何がしたいんさ!!ヨリを離せ!!」
「ヨリに交渉したいのに話を聞く気がないんですもの」
「交渉だと…?」
ぐっ、とヨリが苦しげに身をよじるが細腕の梓の見た目に反して拘束された腕はビクともしなかった。
「今からそう遠くないうちにヨリは覚醒める。
【異色のナンバーレス】と呼ばれるだけあってヨリは特殊なの。正確には『乙女のノア』がね。」
「!」
「覚醒めたヨリは組織から……『黄昏』から狙われる。」
「黄昏…って…」
「jr.なら名前くらい知っているでしょう?何故か表には出てくることのない大規模な過激派宗教団体『黄昏』。
ヨリの…『乙女』の存在を知れば世界中どこからでも奴らは来るし果てまで追い掛け回すかもしれない。
だから、ヨリ。
こちら側に来なさい」
「「「!」」」
ヨリ表情が強張るのを見つめながら梓は続けて口を開いた。
「エクソシストとは敵対する事になるけど、その代わり私達や千年公がエクソシストや『黄昏』からヨリを守るわ。方舟や家に篭っていたっていい。
悪い話じゃない。」
「……エクソシストを、裏切る…って…事…?」
「言い回しが気に入らないなら好きに解釈して構わないわ。
少なくとも今のままじゃ早死するだけよ、覚醒前で身体もボロボロなんだしね?」
「…!」
ヨリの瞳が一瞬揺れたのを見て梓は口端を吊り上げた。
「聞くなヨリ!」
「貴方達勘違いしないで。
覚醒前であるヨリは遅かれ早かれ覚醒める。
貴方達が信じる信じないは勝手だけど、いつか貴方達に刃を向けられた時に傷付くのはヨリだという事は理解なさいな」
「っ!!」
冷たく放った梓の言葉にラビが凍りついたように絶句する。
彼女がノアだと信じたくはない。
だが彼女の口から未だ一度も否定の言葉が無く、ましてやティキを『兄様』と呼び、仮にも『ノアだったとして』と答えている。
暗にそれが真実だと言っているようなものだった。
自分は傍観者だが、現在はあくまで記録の為にエクソシストでいる。
ヨリがノアだとすれば敵となる。
エクソシストの立場からすれば千年伯爵サイドにいるノアは倒すべき存在であり、相容れる事はない。
だが………
「ーーーあたしは、アンタ達の、仲間にはならない…!!」
「!」
「………………そう。なら、決裂ね」
引き攣った笑みでヨリは自分の上にのしかかる梓を睨みつけると、梓は暫く沈黙した後に初めから分かっていたかのようにあっさりと返した。
「ヨリのイノセンスも分けあって私達は破壊出来ない。
だから、ちょっと実験させてもらうわ」
「…俺そんな話聞いてねぇけど?」
「千年公から許可は取ったわ」
「ぁぐっ…!!」
ガッと拘束していた両腕を、背を踏みつけていた足で背中諸共押さえつける。
ティキの疑問に短く応えた梓は息を詰まらせて呻くヨリを余所にどこからか黒い液が入った注射器を取り出した。
「私、趣味は研究と実験で今はイノセンスに興味があるの」
「離せ…っ」
「私はアクマ達と違ってイノセンスで死ぬ事は無いけど、私がイノセンスを破壊する事も出来ない。
不可解な現象を起こすのに、手中に収めれば音沙汰も無く大人しくなる。
特に寄生型なんて適合者の中で普段はどんな感じなんでしょうね。
蠢いている?鼓動している?
適合者を選んでいるようだけどイノセンス自体に意思はあるのかしら?
そこで質問。
…ねぇヨリ、寄生型イノセンスを“破壊せずに不能にする”事が出来ると思う?」
「!」
何か言いたげな梓の意図に気付いたヨリは目を見開いた。
まずい、逃げろ、と煩わしい程脳裏の奥で警鐘が鳴っている。
「大丈夫だとは思うけど…死なないでね?ヨリ」
「やめ…!」
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