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Feelings you love
 やっぱりこの人は強い。

「ボスゴドラ!もろはのずつき!」

 文字通りの石頭が相手ポケモンの懐に直撃した。対戦相手のミクリさんは、普段からダイゴさんと仲が良いけど、こういう真剣勝負の場ではお互いに手加減なしだ。

「サメハダー!」

 超重量級の頭突きを喰らったサメハダーは、目を回してバトルフィールドに横たわった。

「サメハダー戦闘不能!ボスゴドラの勝ち!よって勝者は、チャンピオン・ダイゴー!」

 お互い手持ちの3匹のポケモンをフルに戦わせた激戦だった。でも、ダイゴさんの方が1枚上手だった。ミクリさんは「相変わらず強いねキミは」とでも言いたげに両手を挙げた。

 そんなミクリさんに対して、ダイゴさんは「まぁね」と得意げな顔をして握手を求めていた。ミクリさんはそれに応えるように右手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。ポケモントレーナー、いや、リーグチャンピオン同士の握手は画になる。会場中のカメラが、最高のタイミングでその画を残そうと、一斉にフラッシュを焚いた。

 
 
 私は、イッシュ地方を旅するしがないポケモントレーナーだ。旅の途中で、珍しい石を探しに来ていたダイゴさんと出会い、事あるごとに彼は私の目の前に現れた。ジム戦の前にダイゴさんからくれたアドバイスのおかげでジムバッジをゲットできたり、どうやってポケモンを育てればいいかというアドバイスもたくさんもらったりする内に、自然とダイゴさんに惹かれていった。ダイゴさんがカッコイイ、ということも理由の1つなんだけど…。

 たくさん会ってたくさんお話した甲斐あって、私は今PWTの関係者専用の廊下を歩いている。「色んな場所に訪れて色んな人と話してnameちゃんの経験値になればいいなと思って」とダイゴさんが特別に招待してくれたのだ。実際にシンオウ地方チャンピオンのシロナさんや、イッシュ地方チャンピオンのアデクさんとお話することができた。私のポケモンを見て褒めてくれたり、アドバイスもしてもらった上に「役に立つといいな」とポケモンの道具まで頂いた…と言っても、『もりのヨウカン』と『ヒウンアイス』なんだけどね。

 ダイゴさんはどこかな、キョロキョロと辺りを探す。だけど、さっきのバトルで勝ったから取材を受けてるからかな?ダイゴさんはどこにも見当たらない。

「あ」

 視線が止まる。そのドアには『ダイゴ様控室』の札が掛かっていた。

(ここが…!)

 ドアの前に立っただけで心臓が早く動き始めた。ここにダイゴさんがいるかどうかもわからないのに。

 でも、勇気を出さないと何も始まらない。会わなきゃ何も始まらない。ぐっとドアノブを握って、重い扉を開けた。

「ノックもしないなんて、nameちゃんはあわてん坊だね」
「えっ!?」

 そういえばノックするのすっかり忘れていた!というか、ダイゴさん!?

 私の後ろでダイゴさんはにっこりと笑っていた。

「やぁ、来てくれたんだね」
「だだだダイゴさん!」
「そんなに緊張しなくてもいいじゃないか。さ、どうぞ」

 ギィとこの重い扉を軽々と押して開けてくれた。そういう所が改めてダイゴさんが大人の男の人なんだと思わせる。

「何か飲むかい?」
「あっ、えっ、い、いいです!ここダイゴさんの控室だし…」
「遠慮しなくてもいいよ。ちょうどお茶受けがあるみたいだし」
「あっ」

 この人はどこまで私の事…他人の事を見透かせるのだろう。もし深いところまで見透かせるのであれば、私のこの気持ちも…。って深読みしすぎ?でも、実際にそうだったら…。

「nameちゃん?」
「はっ、はい!」
「どうしたの?心ここにあらずって感じだけど…」
「だ、大丈夫です!」
「…そっか」

 ダイゴさんが私の気持ちに気付いてるから…こんなに優しくしてくれるの?こんなに気遣ってくれるの?こんなどこにでもいるようなトレーナーにあんなに親身になってくれるの?こんな特別な場所に招待してくれるの?

 ねぇ、どうなのダイゴさん…。あなたの気持ちが知りたい。

 でも、ダイゴさんはホウエンのチャンピオンであると同時に、ホウエン地方の大企業・デボンコーポレーションの御曹司。年も一回りくらい違ってて、あんなに整った容姿をしてるからきっと世のお姉さんたちにもモテてるんだろうな。こんな子どもの私でもカッコイイって思うのだから、きっと…。

 もし「好きです」って伝えたら、ダイゴさんはどう思うかな?冗談って思うかな?まだnameちゃんには早いよとか、ボクよりもいい人がいるよって言うのかな…?

「nameちゃん」
「は、はいっ!え…!?」

 ふわりと、ダイゴさんのにおいが鼻をくすぐった。ダイゴさんの大きい手で私の頭と背中が支えられて、私をぎゅっと抱きしめた。私は目の前で起こってることが信じられなくて、ダイゴさんの中で動けずにいた。

「これで、いいかな?」
「え?え…?」

 ダイゴさんの体温を感じる内に、これは夢じゃないんだと、これは現実で信じていいんだと思うと、目尻から熱いものが溢れだした。

「わかるよ、nameちゃんのことなんて。というよりも気付かない方が無理だね」
「えぇっ?」
「nameちゃんの気持ちとボクの気持ちが同じだと嬉しいな」

 と言ったダイゴさんの顔は、横で流れているインタビューのVTRよりも優しく、柔らかい笑顔だった。
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