いよいよ明日は私の学校の学園祭。
私nameが入ってる軽音楽部はもちろんステージに立つ。しかもこの学校の学園祭は少し変わってて、1番集客のいい部活やクラスは表彰されて、来年の学園祭でお店を1番いい場所に出せたり、ステージの順番をよくしてもらったり、第1位には校長先生からの奨励金がもらえるの。うちの校長、学園祭だけが生き甲斐みたい。
去年の私たちはと言うと…。お世辞にもあまりいい成績とは言えない。
だから、今年こそってみんなで張り切って、練習は去年以上にがんばって、ステージの演出も演劇部の私の友達に協力してもらって、チラシだって美術部の友達に…。と、枚挙に暇がない。
部活のステージ準備は終わったんだけど、同じ部活のクラスメートから「部活だけで終わると思うなよ」って、暗にクラスの準備を手伝いに来いって呼び出されちゃった。そりゃあ、部活も大事だけどクラスも大切…だもんね。
「来てやったわよ!」
「おせーよバーカ」
クラスの出し物はゲームセンターもどき。輪投げとかストラックアウトとかやらせて景品ゲットっていうアレ。
「なによ!準備なんてもうとっくにできてるじゃない!」
「…見てわかんねーのか」
「は?」
長身・金髪・イケメンと3拍子揃ったクラスメートの名前はデンジ。彼の隣にあるのはストラックアウトの的。
「これが壊れたんだよ」
「なにそれ。そんなのデンジだけでやった方がいいんじゃないの」
成績はダメ、運動もダメ。だけど、なぜか物理の成績だけはいいという…。だから部活のメカニックを買って出てるんだ。
「うるせー。明日の打ち合わせとかもしたいんだよ」
「……あっそ。じゃあ何すればいい?」
「…歌ってくれ」
「へ?」
「それ聞きながらイメトレする」
「…わかったわよ」
そう、私とデンジは同じバンドメンバーだ。私はメインボーカル、デンジはドラム。
今回歌うのは有名なシンガーソングライターの曲で、歌詞はまさに学生生活そのものな感じ。歌詞に『放課後』とか『同じ駅』とかあるから。私も大好きなシンガーソングライターだし、この曲に決まった時はテンションが壊れるくらい嬉しくて、誰よりも上手く歌ってやる!って決めたんだ。
色とりどりに装飾された教室を見まわりながら歌った。いつも殺風景な教室だけど、こんな賑やかな教室だったら毎日の授業が楽しくなるだろうなー。でも毎日こんな感じだったら飽きちゃうかな?だからシンプルイズベストなんて言葉があるのかな?
「……もっと大きな声で歌えよ」
「イヤよ。明日声が出なくなったらイヤだもん」
「よく聞こえねーよ」
「うるさいわね!歌ってあげてるだけありがたいと思いなさいよ!」
「そういう意味じゃねーよ」
しゃがみこんで作業していたデンジの足元には、修理し終わった的があった。ってことは、私が歌ってたほんの1、2分で直し終わったのかしら?全く手先『は』凄く器用なんだからデンジは…。
「え?」
おもむろに立ち上がったデンジは私に近づいてきた。
「ちょ、ちょっと、何よ…」
段々と追いつめられた私をドンっと受け止めたのは壁だった。
「デンジ、何よ…!?」
「ったく、やっぱりnameはバカだ」
「バカって何よバカって!」
「うるさい」
デンジの右腕がドンっと私の頭を横切った。
そして、唇に唇の感触。ぷにっとしてて、温かくて…。
一瞬何が起こったかわからなかった。
「あ、nameちゃん。ここにいたんだね」
ガラっと扉が開くと、そこには同じくクラスメートでバンドメンバーのダイゴがいた。
成績よし、運動よし、顔よしで、デンジとは似て非なる人。だけど石が好きという変なところもある。
「アレ?何してるのデンジくん」
「ど、どうしてここに…!」
「廊下を歩いてたらnameちゃんの声が聞こえたから、最後にイメージトレーニングがしたくてね。彼女に歌ってもらいたかったんだ」
「!」
ダイゴがどんどん私たちに近づいてきた。
「でも、デンジくんに先を越されたから、なんか釈然としないなぁ」
「は?」
心底嫌そうな顔をするデンジを無視して、ダイゴは私の目の前に来た。
「!」
「!?」
ダイゴの整った顔が、私のすぐ目の前に。そして唇には柔らかくて優しい感触。
「デンジくんの練習ってこういうことだろう?」
「なっ」
「これでnameちゃんと少しはシンクロできるのかな?」
ちょ、ちょ、ちょ…。ちょっと待ってよーーーーーーーーー!
「2人のっ…バカーっ!!」
気がつくと私は走っていた。教室を飛び出して、とにかく2人から離れたくて、走り続けた。
生徒指導の先生からお決まりの「廊下は走るな!」っていう怒鳴り声も聞こえないふり。
デンジのバカ!ダイゴのバカ!もう2人ともバカ!大バカよ!何考えてんのよ!明日は本番なのに!本当にバカ!バカバカバカ!あんなことされたら明日ちゃんと歌えないじゃない!明日はがんばろうってみんなで言ったのに!こんなんじゃバンドが変な雰囲気になるじゃない!他のメンバーに申し訳ないよ!せっかく!せっかく今までみんなでがんばってきたのに…!
でも…デンジのキスはちょっと荒っぽかったけどスリルがあってドキドキしちゃった。ダイゴのキスは優しくて甘くてドキドキしちゃった。
「はぁ…はぁ…」
走り疲れて立ち止まる。無意識のうちに部室に来てしまったみたいだ。
「……」
ふと、唇に指を当てた。
あたし、ほんの数分前に2人の男の人からキス…されたんだ。
嫌いじゃない、2人のことは嫌いじゃない。だけど、2人には…申し訳ない気持ちでいっぱい。
だって、私の今の恋人は、このギターとマイクなんだから。
放課後の天使
(オマエにだけは!)
(絶対負けないよ)