十二月のブーゲンビリア
タッタッタッタッ。ヒロコはセントラルシティの中を走り、これからウインターパーティーが始まるとされている会場へと向かっていた。
雪化粧で彩られた街の気温は低く、ヒロコの口から漏れる息は空気に溶ける前に白く濁る。そんな寒さの中でも、これから始まるパーティーを想像して高揚しているヒロコの頬には微かに赤みがさしていた。
純粋にウインターパーティーを楽しみにしているのはもちろんだが、それを一緒に過ごすと約束している恋人ーーダイゴにもうすぐ会えるから。職業柄、パシオで開催されるイベントのたびに警備に回ることが多いヒロコだが、その最後は毎回必ずダイゴと一緒に過ごしていた。そのひとときが、ヒロコにとって何よりも報酬になるのだ。
(あ、いた)
ダイゴのためだけに調合されたような髪の色は、遠目からでも目立つ。ウインターパーティー会場の片隅に生えている木の幹に背中を預けて、ポリゴンフォンに視線を落としているのは、間違いなくダイゴだ。ヒロコはすうっと冷たい空気を吸い込んだ。
「ダイ……」
ヒロコは大きな声で恋人の名前を呼ぼうとしたが、それは二人の間を吹き抜けた風がさらっていってしまった。ふ、と顔を上げたダイゴの表情に、ヒロコは目を奪われてしまったのだ。
真剣な表情でも、不機嫌な表情でもない。何の感情ものっていない、いうならば無の表情だ。一緒にいるときには見ることができないそれに、ヒロコの胸は不覚にも高鳴る。
なぜならーー。
「ヒロコちゃん!」
ーーヒロコと一緒にいるときのダイゴは、彼女への愛しさを隠さず表情に出してしまうからだ。
ヒロコを見付けた途端に、彼女への想いが滲み出てたダイゴの表情は柔らかく綻ぶ。感情の色がない表情にときめいた以上の、胸の高鳴りを覚えたヒロコの頬へと熱が集まっていく。それを悟られないように、黒いコートの襟元を整えるような仕草で頬を隠す。
「ごめん、待った?」
「全然。ウインターパーティーが始まるまで、会場周りの警備をしていたんだよね? お疲れ様」
「まあね。でも、ライヤーの人使いの荒さは今に始まったことでもないし、気にしてないわ。最近は見合うだけの報酬を渡してくれるし、それにみんなが楽しくパーティーを過ごすためだもの」
「……ふふ」
「どうしたの?」
「なんでもない。ヒロコちゃんのそういうところが、好きだなぁって思っただけだよ」
「……!」
ダイゴは表情だけではなく、言葉でもヒロコへ愛を伝えることを惜しまない。そのあまりにもストレートで大きいダイゴの愛情表現に、どれだけ一緒に過ごしていてもヒロコが慣れることはなく、隠しきれないくらいの熱ですぐに頬が恋色に染まる。
「わ、わぁ! 見て、ダイゴ! クリスマスツリーがすごく綺麗!」
ヒロコはわざとらしく話題を変えて、会場の中心にそびえ立っているクリスマスツリーを見上げた。今回のウインターパーティーのために、特別な装いをしたバディーズたちが飾り付けを行ったと宣伝されているツリーは、電飾以外にも花や木のみが飾られており、パーティーに参加しているバディーズたちを楽しませている。
しかし、ダイゴの視線はクリスマスツリーではなく、真横に向いていた。その髪と同じ色の瞳に映し出されているのは、ダイゴにとって最も美しいと思う存在だ。
(クリスマスツリーよりも、この雪景色よりも、何よりも、ヒロコちゃんが笑っている横顔のほうが、どんな宝石にも例えられないくらい輝いていて綺麗だよ)
思ったことをそのまま伝えても構わないが、ヒロコがキャパオーバーしてしまってはせっかくのウインターパーティーが楽しめなくなってしまう。これ以上の愛を囁くのは、二人きりになってからにしよう。二人で過ごすクリスマスの夜は、まだまだ始まったばかりなのだ。
2021.12.25
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純粋にウインターパーティーを楽しみにしているのはもちろんだが、それを一緒に過ごすと約束している恋人ーーダイゴにもうすぐ会えるから。職業柄、パシオで開催されるイベントのたびに警備に回ることが多いヒロコだが、その最後は毎回必ずダイゴと一緒に過ごしていた。そのひとときが、ヒロコにとって何よりも報酬になるのだ。
(あ、いた)
ダイゴのためだけに調合されたような髪の色は、遠目からでも目立つ。ウインターパーティー会場の片隅に生えている木の幹に背中を預けて、ポリゴンフォンに視線を落としているのは、間違いなくダイゴだ。ヒロコはすうっと冷たい空気を吸い込んだ。
「ダイ……」
ヒロコは大きな声で恋人の名前を呼ぼうとしたが、それは二人の間を吹き抜けた風がさらっていってしまった。ふ、と顔を上げたダイゴの表情に、ヒロコは目を奪われてしまったのだ。
真剣な表情でも、不機嫌な表情でもない。何の感情ものっていない、いうならば無の表情だ。一緒にいるときには見ることができないそれに、ヒロコの胸は不覚にも高鳴る。
なぜならーー。
「ヒロコちゃん!」
ーーヒロコと一緒にいるときのダイゴは、彼女への愛しさを隠さず表情に出してしまうからだ。
ヒロコを見付けた途端に、彼女への想いが滲み出てたダイゴの表情は柔らかく綻ぶ。感情の色がない表情にときめいた以上の、胸の高鳴りを覚えたヒロコの頬へと熱が集まっていく。それを悟られないように、黒いコートの襟元を整えるような仕草で頬を隠す。
「ごめん、待った?」
「全然。ウインターパーティーが始まるまで、会場周りの警備をしていたんだよね? お疲れ様」
「まあね。でも、ライヤーの人使いの荒さは今に始まったことでもないし、気にしてないわ。最近は見合うだけの報酬を渡してくれるし、それにみんなが楽しくパーティーを過ごすためだもの」
「……ふふ」
「どうしたの?」
「なんでもない。ヒロコちゃんのそういうところが、好きだなぁって思っただけだよ」
「……!」
ダイゴは表情だけではなく、言葉でもヒロコへ愛を伝えることを惜しまない。そのあまりにもストレートで大きいダイゴの愛情表現に、どれだけ一緒に過ごしていてもヒロコが慣れることはなく、隠しきれないくらいの熱ですぐに頬が恋色に染まる。
「わ、わぁ! 見て、ダイゴ! クリスマスツリーがすごく綺麗!」
ヒロコはわざとらしく話題を変えて、会場の中心にそびえ立っているクリスマスツリーを見上げた。今回のウインターパーティーのために、特別な装いをしたバディーズたちが飾り付けを行ったと宣伝されているツリーは、電飾以外にも花や木のみが飾られており、パーティーに参加しているバディーズたちを楽しませている。
しかし、ダイゴの視線はクリスマスツリーではなく、真横に向いていた。その髪と同じ色の瞳に映し出されているのは、ダイゴにとって最も美しいと思う存在だ。
(クリスマスツリーよりも、この雪景色よりも、何よりも、ヒロコちゃんが笑っている横顔のほうが、どんな宝石にも例えられないくらい輝いていて綺麗だよ)
思ったことをそのまま伝えても構わないが、ヒロコがキャパオーバーしてしまってはせっかくのウインターパーティーが楽しめなくなってしまう。これ以上の愛を囁くのは、二人きりになってからにしよう。二人で過ごすクリスマスの夜は、まだまだ始まったばかりなのだ。
2021.12.25