短編 | ナノ
予定調和
マンションのエントランスに理乃は居なかった。
まさかと思い、足を速める。
自室の前まで来ると、やっとその姿が見えた。
「そこじゃ身体冷えるだろ」
扉を背に体育座りをしている理乃。
俺が声をかけると、理乃は立ち上がった。
「これで次からは忘れません」
そんな事を笑顔で言ってくる。
笑顔で言われると叱れない。
それを天然でやってるから性質が悪い。
俺は理乃の頬に手を添える。
何時間前からこうしていたんだか。
その頬はとても冷えている。
「緑川さん…?」
帰り道で考えていた計画は全部中止だ。
コイツにはいつも計画を狂わされる。
理乃中心の計画にさせられる。
「それも悪くないんだけどな」
「はい?」
理乃の頬から手を離す。
「何でもない。もうこんなことするなよ」
頭を撫でてやると、理乃は嬉しそうに笑った。
→ヒロイン視点