special | ナノ

EPISODE.02

「孤爪くん孤爪くん」
「んー」
「あのね、この間ニュースな出来事があってね」
「…なに」
「実は、西野朱莉。後輩のお友達が出来ました!!!」

わーーい!!と叫びながら左頬の傍で両手を重ね盛大に拍手をする。孤爪くんはニュースという単語に一瞬ピクリと反応し、今までゲーム機に集中していた意識をこちらに向かせた。しかし、私の後輩のお友達という単語に目から光が消えて小さく息を吐く。

「芽衣子でしょ」

その名前と共に視線を私からゲーム機に移す。

「何で知って……はっ!?」
「……」
「そうだった!孤爪くん経由で知り合ったんだ!!」

そうだ。芽衣子ちゃんと引き合わせてくれたのは孤爪くんだ。委員会が一緒で消しゴムを貸したとか。私は孤爪くんと消しゴム、そして芽衣子ちゃんのお陰で可愛い可愛い芽衣子ちゃんとお友達になれたのだ。

「孤爪くん、ありがとね」
「?」
「芽衣子ちゃんと私を赤い糸で結んでくれて!キューピッド・孤爪くんのお陰だよ!」
「やめてそれ。あと、クロと夜久くんの前で同じこと言わないでね」
「?」

首を傾げる私に孤爪くんはもう一度「夜久くんには特に」と念を押された。そうか。芽衣子ちゃんが好きなお相手にこんなこと言ったら、夜久先輩は芽衣子ちゃんと私がって勘違いしちゃ……わないよ!でも夜久先輩ちょっと鈍感そうだ。自分への好意は特に気づかなそう…?

どうして念を押されたのか。それは数時間後に分かることになる。それにしても、

「ふふっ、可愛かったなあ。芽衣子ちゃん」
「どことなく似てるよね、二人」
「えっ!私と芽衣子ちゃんが!?う、嬉しいけど、似てる!?あんな可愛い子と?」
「……」
「こ、づめ…くん……視力悪いんだっけ…?」
「……」
「スミマセンデシタ」

信じられないと、おどおどあたふたしながら控えめに問うと風邪を引いてしまう程の冷たい目を向けられたため、瞬時に謝罪する。

だってあんな可愛くて元気で優しい、それでいて気配りも出来て頭の回転が速い、賢い子と似てるなんて考えられないじゃないか!未だ親友の言葉が信じられなくて首を傾げ唸っていると小さく「うるさいとこ、と好きな人への対応が」と呟かれた。え…?に、似てるかな…?夜久先輩のことを話す芽衣子ちゃんはとっても可愛らしい恋する女の子だから、そんな子と似てるって言われるとなんだか照れてしまう…!?でも、やっぱり、

「孤爪くん、やっぱり眼科行った方が…」
「……」
「すみませんでした!」








そして、昼休み。お弁当を食べ終え、最近ブームのゼリーの飲み物を買うため自動販売機にやって来た。

「あっ!芽衣子ちゃーん!!」
「!!朱莉先輩、こんにちは!」
「こんにちは!」

ガコンッという音と同時に近くのベンチに座って宙を眺める一つ下のお友達を見つけ声をかける。

「何見てるの?」
「あ、えーっと…」

飲み物を手に取ってからもう一つ同じものを購入し、私もベンチへ腰掛けた。ずっと気になっていた芽衣子ちゃんの視線の先。聞くと、珍しく気まずそうに濁す彼女に首を傾げながらゆっくりと見ていたであろう場所へと視線を移す。

「夜久先輩だ!」
「はぅッ…そうです夜久さんですここから丁度見えまして」

両サイドの髪で顔を隠すように下を俯いて一息で放つ芽衣子ちゃんは照れているみたい。

「か、かわっ!?」
「そうです夜久さんはかっこいいのに可愛いとこもあるイケメンな方なんです」
「あっ、夜久先輩!イケメンだよね!」
「はい」

目線を再び上に向け、ここから見える廊下の窓越しに同級生と楽しそうに話す夜久さんの行動一つも逃さないという感じで凝視しているのを横目に私をそちらに注目した。

芽衣子ちゃんとはあの日以来、メッセージのやりとりやこうやって直接お話してとても仲良くなった。
恋バナ以外にも夜久先輩について語ってくれる夜久さん講座はとても楽しいし、先輩の意外な一面も知れてドキドキしたりもする。夜久先輩とは私が一年生の時から知っているけれど、芽衣子ちゃんにしか見せないことが多々あり、これは両想いなんじゃないかと思う時も実はあって。実際に二人でいるところをあまり見たことがないからそれは分からないのだけれど。

それでも、好きな人の話をする芽衣子ちゃんは普段とはまた違った可愛らしさを出すものだから私の心臓はぎゅんぎゅんしまくりで。今も夜久先輩を見る瞳はキラキラしている。


「……あ」

そんな事を考えていると、隣の可愛い子の小さな呟きと共に夜久先輩の姿が見えなくなった。目に見えてシュンとしている姿にズキンと胸が痛む。や、夜久先輩っ!そこから動かないでくださいっ!ここから念を送っても既に遅く。先ほど買った飲み物を芽衣子ちゃんに渡すことしか出来なかった。

「いいんですか?」
「うん!私のオススメです!」
「へへ、ありがとうございます」
「う゛っ」

か、可愛い。可愛いどうしよう。どうしてこんな可愛いの?可愛いは前提で話を進めるけど、私の中で芽衣子ちゃんは夜久先輩のことが大好きなしっかりしている子っていうイメージがあって、でもたまにこういう妹属性が出てくるからそれに胸が苦しくなる。可愛いって罪だ。

「そういえば、黒尾さんとは最近どんな感じなんですか?」
「!?く、黒尾先輩!?ここ最近それはもうかっこいいのに色気が爆発してる、な感じです」
「それは毎日聞いてます!じゃなくて進展とか!」
「進展!?そんなのエロとイケを日々突き進んで展開してるよ!」
「もう!!!」

え、え…?「違う!違いますよ!」と叫ぶ芽衣子ちゃんに首を傾げると小さくふぅと息を吐かれる。なんかたまに孤爪くんに似てる時あるんだよなぁ。こんな呑気なことを考えている私は、芽衣子ちゃんが本当に聞きたかったことに気づけずにいた。


「最近の夜久先輩はどんな感じですか!?」

今度は私が質問をする。頻繁に連絡は取っているけど、生でもお聞きしたいのです!

「夜久さんは、夜久さんは……はあ、好き、夜久さん好きだ……」
「わあ!」

芽衣子ちゃん、爆発してる…!好きが爆発してる…。苦しそう!!夜久先輩とのあれこれを思い出してか、恋する乙女の顔をしていて、こっちがドキドキしちゃう。

「あ〜〜、芽衣子ちゃん可愛いよぉぉ」
「うわぁぁぁぁあ!!ちょっ、朱莉先輩やめっ!?」
「妹にしたい〜〜」

可愛い一つ下のお友達を抱きしめ相手の頬に自分の頬をくっつけ、スリスリする。ほっぺた柔らかい〜。既に芽衣子ちゃんの虜になっている私は後ろからやって来る足音に気づかなかった。

「西野。妹は駄目だぞ〜」
「!!」
「!?夜久さん…!!」

突然聞こえてきた夜久先輩の声に二人して肩を跳ねさせ驚く。さっきまで上の階で同級生とお話ししていた人がくると思わないじゃんか。「芽衣子は俺の妹だからな」と芽衣子ちゃんの頭をわしゃわしゃ撫でる夜久先輩に目を丸くする。……あ。孤爪くんが念を押した理由が分かったかもしれない。

「へへっ…あっ、夜久さんここ座ってください」
「ん?いいよ、お前が座ってな」
「っ〜、はい!」

撫でられている間、気持ち良さそうにふにゃりと笑う芽衣子ちゃんはハッとし、先輩に席を譲ろうと立ち上がる。しかし、夜久先輩はそれを断り、芽衣子ちゃんが頷いた後少し上げた腰を下ろすとふわりと微笑みを見せた。

え…。えっ!?こ、これは…!どう見ても、誰が見ても両想い、付き合う前の男女にしか見えない!でも夜久先輩、妹って言ってたし。…何故?だって佐藤先輩が私に向けてた表情とは違うし、…はっ!?まさか、無自覚??好きなの、気づいてない…??

「わ、私ちょっと用事があったんだった!忘れてました!ではまたです!!夜久先輩、芽衣子ちゃん!」
「えっ、はい!また!!」
「おー」

邪魔をしてはいけない。とっとと邪魔者は退散しようと、駆け足で離れる。その時後ろから「転ぶなよー」という声が聞こえてきたが、芽衣子ちゃんに話しかける声色とはかなり違う。

そして、チラリと仲良さげに話す二人に視線を移しながら、サッと物陰に隠れた。


「ちょっとだけ。ちょっとだけならいいよね」

夜久先輩が芽衣子ちゃんのことを好きなのはなんとなく感じられて、それが本当か確かめたく二人の様子をここから観察し始めることにした。

「妹って思ってる顔してないですよぉぉ、夜久せ「なーにしてんの?」…ぶっわっっっ!?」
「く、くくくく黒尾先輩!?」
「うん。なになに?」

小声でボソボソ呟いていたら、急に鼓膜を刺激したのは大好きな人の色気ボイス。大きな声で驚いてしまったため自分の手で口を塞ぐが、耳元で私に合わせて小声で話す黒尾先輩に心臓の音が聞こえてしまうのではないかというくらいバクバクいっている。

「あー…夜っ久んと芽衣子チャンね」

未だ何も発せないでいると私が見ていた先を辿って納得した先輩は再びこちらに視線を移して「あの子と仲良くなったんだっけ?」と聞いてくる。それに首を縦に動かすと共に、芽衣子ちゃんが名前で呼ばれていることにちょっと羨ましく思ってしまう。でも、名前で呼ばれたら失神するだろうからまだ呼ばないで欲しい!という葛藤がある。

「夜久先輩って私が思ってるより鈍感…?」
「……」
「そんなところも魅力の一つなんですけど!男らしくて素敵なんですけど!!でも、……無自覚って怖い」
「……」
「夜久先輩が芽衣子ちゃんのこと好きって傍から見れば分かるのにぃぃ…う、もどかしい。芽衣子ちゃん気づいてないですよね!?気づけそうなのに…!!芽衣子ちゃんも自分への好意は鈍感なのかもしれないですね!?」
「ハイ。ソウデスネ」

苦笑しながら目線は話題のあの二人へ向けられてる黒尾先輩は急に片言で返事をする。不思議に思い一瞬固まってしまうがある閃きが頭に過り、ぱんっと手を叩いた。それに今度は黒尾先輩がキョトンとしてこちらを見る。

「四人でダブルデートしませんか!?」
「ダブルデート?」
「はい!夜久先輩と芽衣子ちゃん、黒尾先輩と私でデート!!」

とっても楽しそうです!!目をキラキラさせて見上げると、丸くなった目がにやりと意地悪く弧を描いた。

「いいね。それ」
「作戦は"ドキドキラブラブ急接近!!"です!あの二人をとびっきりくっつかせよう作戦です!!」
「おー」
「私達はバレないようさりげなく実行するのです!!」
「りょーかい」

そうと決まれば二人に伝えなくては!!駆け足で数分前にいた場所へと戻ると、夜久先輩は「用事はどうした?大丈夫か?」と心配してくれる。芽衣子ちゃんは驚いてはいたが、理由を聞かれなかったから私がいなくなった理由を何となく察してくれたんだと思う。やっぱり凄い子!!好きっ!!


「みんなでダブルデートしましょう!!」
「は、え!?!?」
「デート?」

フーンと鼻から息を吐き出し、大きな声でそう告げると瞬時に理解した芽衣子ちゃんと首を傾げる夜久先輩。

「芽衣子。誰かとデートすんのか?」
「いえっ…!?え、違います!!私は夜久さん一筋で!!夜久さんが大好きなので!!!」
「ははっ、そうだったな」

ありがとな。と伝え、優しく頭にポンっと手を置くのを見て、絶対夜久先輩好きじゃないか!と心の中で叫ぶ。

「ダブルデートは夜っ久んと芽衣子チャン、俺と西野ちゃんでするんですぅ〜」

な?とこちらに目を向けて言う黒尾先輩の破壊力は抜群で。

「それなら別れて普通にデートした方がいいだろ」
「「なっ!?」」

なんて言う夜久先輩に芽衣子ちゃんと私は驚きの声を発してしまう。夜久先輩。男前なのか、乙女心が分かっていないだけなのか、私はよく分からなくなった。




しかし、後日。夜久先輩の言動に思わず求婚してしまった私に「芽衣子がいるからダメ」と歯を見せてニヒリと笑い、そこには余裕と色気が醸し出されていて、耐えられずその場に力無く倒れた。

芽衣子ちゃん、これが夜久先輩の色気ですか…?


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