special | ナノ

EPISODE.01

ころん、と。制服のポケットに入れていたチョコレートを食べようとしたら、それでない何かが床に落ちた。掴めずに手からこぼれてしまったらしい。拾い上げるべく、屈んで床へ視線を落とす。そして、落ちたものを見て、動揺した。

「わっ……やば、研磨くんの消しゴム……!」

そうだ、私お昼に委員会で集まった時、研磨くんから消しゴム借りて、そしたら研磨くんが委員会途中でバレー部の合宿ミーティングに急遽行かなきゃいけなくなって……そのまま返せなかったんだ。放課後である現在まで、研磨くんからなんの連絡もなかったということは、二年生の午後は体育か音楽か、消しゴムを使う座学科目ではなかったのかもしれない。けど、私このまま帰ったら、明日になればまた忘れる気がする。

もしそうなった場合、研磨くんに睨まれながら「人のもの借りたらちゃんと返して」とか言われるかも……?嫌だなあああ……!いやド正論なんだけども……私がちゃんと返せてないのがいけないんだけども、でも、タイミング悪かったじゃん?いやいやそうやって言い訳して、巡り巡って夜久さんの耳に入り「芽衣子、借りパクは人として良くない」って叱られたら、しばらく立ち直れないよ。夜久さんだってやってそうなのに。黒尾さんの漫画とか借りっぱなしにしてそうなのに。

「ハッ!こうしちゃおれん……!」

悶々とした空想を、パチン!と弾いて、そそくさと研磨くんにメッセージを送る。この時間なら、まだ部活始まってないよね。いつも部室で駄弁ってる時間だよね。知ってるよ、夜久さんの大まかなタイムスケジュール把握済みですから。

【研磨くん、ごめんなさい!借りていた消しゴムの存在を思い出したので返しに行っていいですか!】

早打ちののち、送信を押した。ふっ。我ながらあざとい仕掛けをする。これが了承された場合、私は合法的に男バレの部室に入ることができる。つまり夜久さんに会える。内容はちょっとあれだけど、お昼に借りて放課後に返却なら、ついうっかりみたいな印象になるはず。まだ可愛いはず。あ、返信きた。

【今からロードワークだから受け取る時間ない。教室に置いといて】
【教室?!二年生の教室に行けって言うの?!】
【三年のとこ たまに行ってるでしょ】
【でも、教室置いといたらなくなっちゃうかもしれないよ?】
【夜久くんに会いたいだけでしょ】
【そう!だけど、ちゃんと返さなきゃとも思ってるよ!】
【消しゴムくらいコンビニで買うし。あげる】
【孤爪くんって書いてある消しゴムは要らないよ!!】
【じゃあやっぱり教室に持って行って】

「ええええ……」

数回のやり取りで、私が夜久さんに会える確率がほぼゼロになり、落胆の溜め息が出る。じゃなくて。問題はそこじゃない。二年生の教室行くの?私?「おう芽衣子」って言ってくれるような相手が誰も居ないのに?つらい。二年の先輩、ほとんど知り合い居ないし……いっそ明日にするか?絶対忘れないように油性ペンで手のひらに書いとけば、流石の私でも朝イチで研磨くんのとこ行くんじゃない?でも手のひらに研磨くんって書くのは恥ずかしいか。脈ナシ兄貴の夜久さんに「研磨が好きなの?」なんて誤解されても困るし。

うだうだしていると、研磨くんからもうひとつメッセージが届く。

【消しゴムに名前書いた本人が待ってるから、その子に渡しておいて】

なんてこった。私はこれから見知らぬネコならぬ、見知らぬ誰かに消しゴムを届ける羽目になってしまった。これは、二年生棟の訪問、不可避。チーン、頭の中でおりんが鳴ったところで、私は腹を括る。仕方ない、自分が色々ガサツなのがいけなかった。勉強代としてこの試練を受けよう。そうして、ポケットの中に消しゴムを入れ、食べ損ねたチョコレートをようやく口にぽいと投げて。教室から一歩、出動した。








二年三組の表札を見て、ごくり、生唾を飲み込む。怖くない怖くない。なんにも悪いことしにきてないし。一年生だけど、たまには先輩に用事ありますし。中学まで刷り込まれた体育会系の上下関係が頭をよぎり、胃がほんの少しだけ痛む。心底嫌な先輩、というものは居なかったけど、先輩という存在は、やっぱりずっと先輩で。後輩はいつも「ちわっす!」と言うような存在だ。いや別にいじめられたことは無かったけども。彼ら彼女らには、威厳、という表現が正しいかもしれない。……やっぱやだなあああ!「一年のくせになんの用?」みたいな放課後女子が溜まり場にしてたらどうしよううううう……

なんて、やっていると、外から微かに、本当に小さく男子バレー部のロードワークで使われる掛け声が聞こえた。二年教室内の窓が開いているのかもしれない。ふと、夜久さんの声が風に乗って私の耳に届いた気がした。「ファイト」。その声は、強くて、かっこいい。空耳かも知れんけど。

でも、行くんだ。二の足を踏んでいても仕方ないのだ。行くしかねえ。はよ行け。気合を入れ、失礼します、と一言告げて、少しだけ開いていた二年三組の扉をがらりと開放する。そこには、たった一人。窓を全開にしながら、長い髪を風になびかせながら、外の世界を眺めている人がいた。声をかける前に、彼女は無言で振り向く。その首には、孤爪という看板がぶら下がっていた。……何事?

彼女は私を見るなり「あっ!!」と、どでかい声を発した。それから、ずんずん近付いてきてガシリと両手を掴まれる。

「芽衣子ちゃん!!!」
「はひっ、」
「芽衣子ちゃんなんだ!当たった!待ってました!」
「ひぇ」
「孤爪くんがね、芽衣子のことよろしくって電話で、ちっっっっっっちゃい声で私にお願いしてくれたの!!!」
「は、はあ……研磨くんが、」
「すご?!孤爪くんのこと、研磨くんって呼んでるんだね?!」

私も呼ぼうかな、ケンマクン!いいね!親友って感じ!ハッ…?!でも、黒尾先輩より先に孤爪くんを名前で呼んじゃったら罪深さで消滅するかもしれない!黒尾先輩!私、黒尾先輩のこと名前で呼べるまで孤爪くんのことは孤爪くん、いやむしろ一生孤爪くんでもいいかもしれない?!

「よく分かんなくなっちゃった」
「…………」

あ、嵐……!なんだこの人、全然お喋り止まんない。賑やかなマシンガントークに、私は戸惑うばかりである。しかし、それより気になるのは、首に下がっている、孤爪くんという手作り感満載の看板。ネームプレートと呼ぶべきか?

「あの、それ……」
「うん?ああこれ!孤爪くんです!!」
「えと……?研磨くんに、なりきってたんですか?」
「ままままさか烏滸がましいよお!!」
「エッ、スイマセン」
「そうじゃなくて、芽衣子ちゃんと仲良しな孤爪くんの看板を背負ってたら、私と芽衣子ちゃんも仲良しになれる気がして」

ちょっと何を言っているのかよく分からんけど、この先輩は私のことを歓迎してくれているらしい。少なくとも、今まで考えていた先輩という威厳の塊のような存在ではなさそうだ。仲良く……なれるのかな。研磨くんみたいに、上下関係のない対応をしてくれるってことかな。それなら、きちんと挨拶はしたいよね。

「あの、私、千堂芽衣子です。一年三組です。せ、先輩のお名前は……?」
「せんっ!!!ぱ!!!!!!?」
「っ?!ひいい?!」

掴まれていた両手をがばりと離され(投げられ?)、彼女はごろんごろん転げた。床を転がって、ドガッと音を立てて、先輩は教室の壁に激突した。わっ私なにか、まずい事言ったか?!慌てて駆け寄ると、先輩はぷるぷる震えながら片手を力なく上げ、宙に泳がせていた。瀕死のモンスターみたい。

「ちょ、大丈夫ですか……」
「芽衣子ちゃん、あのね、私の命はもう永くない…一生の頼みが……」
「しっ死なないでください?!頼みでもなんでも聞きますから!!」
「っかい……」
「え?」
「もっかい、先輩って、呼んで」
「…………」

何だこの人。涎垂れてるし。
かわいい顔して、ド変態か?







「取り乱してお恥ずかしい。二年三組西野朱莉です。孤爪くんの親友(仮)やってます」
「さっきも言いましたが、千堂芽衣子です。か、肩書きは特に……です」
「あらら、ご丁寧にどうもどうも」
「いえっこちらこそ」

西野先輩は深深と頭を下げてくるので、つられて私も同じ角度かそれ以上に下げる。すると、それに気付いたらしい先輩は私より深く頭を下げてくる。いや、ここは後輩として私のほうがへりくだらないと。

「っ、すみませ、あまり下がらないでいただきたく……!」
「芽衣子ちゃんこそ……!私もう下がんない体が折りたたみになっちゃう」
「先輩は下がんなくていいんですが?!」

不毛なやりとりにストップを掛け、目的であった消しゴムを彼女の手のひらに置く。「懐かしいなぁ!これ随分前に書いたのに。孤爪くん、消しゴムの持ちがよい!」なんて言って朗らかに笑んでいる。めちゃくちゃ良い人そう。にしても、研磨くんって、女の子と絡むんだな。意外過ぎる。女子と絶対会話しなさそうなのに。……え、あれ、もしかして、この方と研磨くんって、ただならぬ仲なの?だから、消しゴムに名前書いても研磨くんは怒りもしないで……?

「あの……先輩って、実は研磨くんの彼女、とかだったりするんですか……?」
「どえっ、えっ?!?!誰が?!???!」
「せっ先輩が!」
「誰の?、!、!!!」
「け、研磨、くんの」
「ケンマクン!!!!!いいえ!!!!!」
「あっ……はあ、そうなんです……か」
「もしや?!!そういう芽衣子ちゃんは孤爪くんの彼女さん??!」
「まっ、さか!違います私は夜久さんが好きでっ……あッ!」

しまった、なんか変な流れに乗せられて自分の好きな人を暴露してしまった!さっき会ったばかりなのに、好きな人を公開してどうするんだ。西野先輩は、きょとんとしてから、長めのストレートなまつ毛をぱちぱちさせながらハテナを浮かべた。ついでに顔もハテナ丸出しで、挙げ句「ハテ」とも口に出している。素直な人だな。

「やく?やくって、バレー部の夜久先輩?」
「あっ、え、ぅ……」
「あのお世話好きで優しくてお母さんみたいなのに男前〜!な、夜久先輩?」
「なんで知ってるんですか!そうですその夜久さんです!!!」
「夜久先輩が好きなの?」
「はい!!!アッ!!!いやっ、その、……」
「かァァァわいいねえ芽衣子ちゃん!!チューしちゃう!!!」
「んぎゃああああ?!」

抱きつかれ、唇を狙われるので必死に阻止する。それはだめ!私のファーストキスは夜久さんの為に取っておくんだから!心の中で抗議して、先輩といえど顔面を手のひらで抑え込む。すみません先輩。「つれないよぅ……」と言いながら、しずしずと引っ込む西野先輩は、カタン、音を立てて自分の席らしいところに座った。

「芽衣子ちゃんも座って」
「ええ……私もう戻ります」
「やだ!!!!!!」
「……じゃあ、何かするんですか?」
「お話しよ?」

そう言った先輩が不意に向けてくる視線は、まるくて、純朴だった。さっきまでと全然印象が違うことに、少々驚いてしまう。透き通るような瞳の色に、ちょっとだけ興味が湧く。まあいいか。今日は特に用事ないし。先輩が私のことを、なんか良く思ってくれているかもしれないのは普通に嬉しいし。

議題は?と尋ねれば、先輩は「恋バナ!」と鼻息を荒くしたので、それなら先手必勝と言わんばかりに私は彼女より先に質問を飛ばした。

「西野先輩は、誰が好きなんですか?」
「バレー部のエロい人」
「は?」
「孕まされた」
「せっ、先輩もうお子さんが居るの?!ていうかそんなケダモノが男バレに?!?!」
「いや想像妊娠」
「……」
「でも本当に気をつけてね。あの人がニヤって笑うだけで吐き気は催すから」
「それ好きって言えるんですか……?ちなみに誰ですか?」
「えー、じゃあ物真似します!」
「なんで?!まあ、分かりました。当てます」
「芽衣子ちゃんノリがいい!結婚しよ!」
「夜久さんしか受け付けないのですみません。相手が気になるので早くしてください」
「冷たさがちょっと孤爪くんみたいでイイ!じゃあ行くよ〜!」

孤爪の看板を首に下げたまま(ちょっと存在忘れてた)、西野先輩はなぜか上履きを脱いで椅子の上に立った。座ったまま見上げていると、ちょっと斜めに体を傾けてから、「ァァ゛、ンン゛ッ!」と咳払いをする。声のチューニングするとか、本格的だな。

「こんなところでなにしてんの、お嬢さん」
「……黒尾さんだ」
「正解!!!すごい!エスパーだ!!」
「そんなキザたらしい台詞を、その高さから吐く人は黒尾さんしか知りません」
「吐くよね?!エロすぎて吐くよね?!」
「その吐くじゃないです。でも……夜久さんのほうが色気ありますし」
「え?!そうなの?!芽衣子ちゃんは夜久先輩とそんなに進んでる……?!」
「ちっ違いますよ!」
「チューした?押し倒した?」
「出来るわけないでしょうに!!先輩はしたんですか?!」
「佐藤先輩は押し倒した」
「誰?!」
「前好きだった人」

ストッ。椅子から垂直に着地を決めて両手を上げ「十点満点!」と高らかに宣言した西野先輩は、何事も無かったかのようにまた椅子に座り直した。自由人か。先輩は、少し懐かしそうな目をしながら、佐藤先輩とやらの話を続けてくれる。

「かっこよかったんだぁ」
「そうなんですね」
「でも私、妹みたいに思われてて、そのまま彼女できちゃって失恋しちゃった」
「え…………え?」
「失恋しちゃった」
「そこじゃないです、え?妹?え?妹ポジションの末路ってそこなんですか?!嘘だ……そんなの……そんな……無慈悲な……」
「どっどどっ、どうしたの芽衣子ちゃん!?涙目だよ!」
「っ、ぐぅ…、〜!」

思ってもみなかった経験談に、心が抉られる。なんてこった、妹を極めるとやはり彼女を作られて「おめでとうございます」って言わなきゃいけないコースに乗ってしまうんだ。つらい、自分に置き換えた脳内変換が余裕過ぎてリアルに涙出てきた。悲しみをグッと堪えていると、西野先輩が私を見つめ、心配そうに眉尻を下げてくれている。

「話聞くから……もし、もしも私でよかったら、聞かせて?」

そんな声は、どことなく心地よくて。ぽつりぽつり、私は夜久さんの妹続行中である現状の幸福と、愚痴と、不安を西野先輩に零した。先輩は思ったよりも聞き上手で(とはいえすぐに口を挟んでくるのでお喋りに変わりはない)、あれよあれよと言う間に私の話は根掘り葉掘りレベルで聞き出される。誘導尋問より怖いかもしれない。彼女のペースに、はまってしまっているんだろうと、分かっていても、お喋りが楽しくて。ついつい、夜久さんにまつわる恋の話以外の、色んなことをも話してしまった。







「わぁ!もう下校時間だね」
「ウワッ本当だ!外、夕焼けがすごいです」

気付けば何時間経過していたのか。そろそろ帰らなきゃ、と二人でようやく席を立つ。

「ありがとうございます。西野先輩」
「なにが?」
「話、聞いてくれたので」
「私が聞きたくて聞いたんだよ!なのにお礼が言えるなんて、芽衣子ちゃんは偉いね」
「そんな……西野先輩こそ、優しいです」
「ううん!全然!あ、そうだ。ひとつ、芽衣子ちゃんにお願いあります」
「なんでしょう?」

先輩は、なにやら両手で顔を覆いながら、その隙間から、小さく言葉を発する。

「……あのね……朱莉、って呼んで」
「えっ」
「孤爪くんだけ、研磨くんって呼ばれてるの、ちょっっとだけ羨ましいなって……私も芽衣子ちゃんに、名前で呼ばれたい……今日会ったばかりだけど……いいなって…、」

そう言った西野先輩は、しゅるしゅると小さくなり、頬と耳を真っ赤に染めてしまった。

何この人、可愛いんですけど……?!さっきまであんなにハイテンションでフルスロットルで、言動すべてがド変態だと思ってたのに。こんな、素の部分であろう表情が、ふんわり柔らかい乙女とは。不意打ちのあまり、女子といえどときめきに胸がくるしむ。私の友達の中には居ないタイプの人ゆえに、耐性がない。これは、女子力という名の技?それとも無自覚?いずれにしろ黒尾さん、近いうちにギャップにしぬのでは?

「ウグゥっ、」
「ごめんねごめんね困らせた?!烏滸がましかった?!」
「いえ、なんか……世のギャップ萌えというものを直に浴びており……黒尾さんの命を心配した次第です」
「黒尾先輩死ぬの?!?!!!!待ってて先輩、今から人工呼吸……!!」
「いいですから黒尾さんしなないから放っておいて!ええ、じゃあ、朱莉先輩……あの、メルアド教えてください」
「ぉうふ……」

先輩から変な声が出た。そして、無言でケータイが差し出される。お互いに操作をして、アドレスを相互受信した。「とっ、友達てことでいい?!友達グループに追加していい!?」なんて律儀に言ってくるので、私はひとしきり笑ってから、いいですよと答えた。あんなにグイグイくるのに、グループ追加は許可取るんだ。おもしろい。

「ありがとうございます。二年女子の友達、先輩が初めてです。へへ」
「芽衣子ちゃ…、やっぱりチューしよ今ここでチューしよう」
「だ!!!め!!!です!!!お互いのためにも!せめて一緒に帰るとかにしましょう!」
「いいの??!!!好き!!!!」
「あーーーー頬っぺにもチューしないでくださいまだ夜久さんにもされてないいいいい」

スキンシップが大好きで。声がでかくて。動作もでかくて。先輩と呼ぶようなタイプには思えないのに、あの時の瞳はすごく寛大だった。自由で、広い。なんか、海みたいな人だと思った。恥ずかしいから言わないけど。







それ以来、西野先輩もとい朱莉先輩は、ことあるごとにメールをくれるようになった。

【さっき黒尾先輩居た。吐きそう】

「ブフッ!」
「芽衣子?何ケータイ見て笑ってんの」
「ぎゃあ夜久さん!(噴き出してるの見られた…!)そんな、ふらりと一年教室に来たりして……!予告ください!」
「わはは。なんでだよ、いつでも歓迎してくんねーの」
「当然ウェルカムですけども!」
「……メール、彼氏から?」
「居ません」
「じゃあ好きな奴か」
「だーから!私は夜久さんが好きなんですけど?!」
「あっはは。そうだったな、ありがとな」
「もう……」

夜久さんは、わしわしと頭を撫でてくる。今日はなんだか撫で方が雑だ。なにかに動揺しているように見える。髪の毛がくしゃくしゃになってしまう。

「で?結局誰とメール?」
「二年の先輩です。研磨くんの親友、朱莉先輩」
「研磨の?……ああ西野!ふは、まじか。お前ら知り合いなのか」
「先日色々ありまして」
「そういや、ちょっと似てるところあるよな。世話焼きたくなる」
「?!!や、夜久さん、私以外に妹をお作りに……?!」
「……いや?俺はお前で手一杯だよ」

含みがあるような、無いような。なんとも言えない表情で笑う夜久さんは、今日も私に甘いのである。





後日〜黒尾さん〜

「おや芽衣子チャン」
「ああ、黒尾さん。どうも」
「先日は西野ちゃんがお世話になったみたいで」
「西野ちゃん……?あ、朱莉先輩のことですか」
「……キミさぁ」
「はい?」
「コミュニケーション能力高いって言われナイ?」
「いえ特には。まあ苦手でもないですが」
「……得意であってほしかった」
「は?」
「まあ男と女だし?性別の壁は越えられないって感じ?ボクに何か問題があるってことじゃあないわけだろうし?」
「何言ってんですか」
「衛輔」
「…………なんですかいきなり」
「って俺が呼んだら、やっぱり眉間に皺寄るよな」
「だからー!何が言いたいんですかあ?!」
「眉間に皺寄せたいって話」
「はあ〜?…………ああ、え?ああ、なるほど。へえ、ふうん」
「芽衣子チャンってさあ、意外と察しが良いよね」
「まあ、そこそこ自負あります。黒尾さんは、意外と本命に苦戦するタチなんですね。うだうだしてると横から攫われますよ」
「ンー?」
「朱莉先輩、底無しに優しいし。暴走してるように見えて、実はかわいいですから」
「んまあ随分生意気言う後輩だこと〜」
「アドバイスのつもりなんですけど……」
「夜久にもアドバイスしとこっか?可愛い妹チャン、彼氏募集中だってグフォッ」
「余計なことしないでください!!!」

「芽衣子ちゃー!……はっ?、!?!!!!黒尾先輩!!!!!!ぎゃああああなんでお腹抑えてるのエロッ」
「「どこが?!」」
「おーい、うるせーよ。五組の教室まで響いて……あれ、芽衣子?西野も。なにしてんの。黒尾がなんかやらかした?ごめんな、バカだよな」
「夜っ久んこの状況見てその台詞はオカシイ」
「ねえねえ夜久先輩。こないだ芽衣子ちゃんが、黒尾先輩より夜久先輩のほうが色っぽいって言ってたんですけど、具体的に何を」
「朱莉せんぱあああああああい?!!!」

世界を賑やかに彩ってくれる先輩が、またひとり増えました。


To Be Continued...


prev | next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -