scandal!! | ナノ


20 まだまだ若いんです



ちょうど佐助さんの声聞きたいと思ってたからよかったー。



「お、おい、みょうじで……!」


「もっしもーし! 佐助さんですかあ?」
『……なまえちゃん? テンション高くない?』
「えーそんなことないですよー、あはは」



笑ってると、佐助さんが電話の向こうで戸惑っているように感じた。




『ちょ、まじ? 嘘でしょ? 俺様と約束したもんね?」
「あははー意味わかんないー」



なんで佐助さん、焦ってるんだろ。
約束とかわかんない。


『お酒、飲んだの……?』
「うんー飲んだ飲んだー」
『っ、約束したじゃん! 俺様以外の前でお酒飲まないって!』
「ええーしたっけえ?」
『したじゃん! ……って、酔ってるなまえちゃんに言っても仕方ないか』


携帯の奥から溜息が聞こえた。

佐助さんの声格好いいー。



「佐助さんー好きー」
『うん。普通に嬉しいけどなまえちゃん、今どこに居るの?』
「石田部長の車ー」



そう教えたあげたけど、佐助さんはなんにも言ってくれなかった。
あれ? なんで?
急におなか痛くなっちゃった?



「佐助さん?」
『石田、部長の、くるま?』
「うん、そーですよ」
『……っ!? 代わって! 今すぐ!!』
「はーい。あはは」



何焦ってるんだろ。
焦ってる佐助さんも格好いいなあ。


あー面白い。




「ぶちょー」
「なんだ」
「佐助さんがぶちょーと話したいんだってさー」
「……運転中だ」
「あはは、佐助さん、運転中だから無理だってー」
『っざっけんな!! 路肩にでも止めて出やがれ!』
「ですってー」


わざわざ話さなくても、携帯から十分石田部長に聞こえてたみたい。



あはは、佐助さんかなり怒ってるー。
なんでこんなにイライラしてんだろ?

仕事でなんかあったのかな。




「チッ」



石田部長は舌打ちしてから溜息ついて、路肩に車を寄せた。




「貸せ」


携帯を奪い取った石田部長はそのまま耳に近づけた。



「もしもし」
『っあんた! なまえちゃんに触れてみろ! この世で一番苦しい死に方させてやる!』


石田部長は携帯を耳から話した。

「……うるさい」
「あははー私にも十分聞こえたよー」
『おい! 聞いてんの!?』
「聞いている」
『今すぐなまえちゃんを車から降ろせ!』
「とのことだ。みょうじこの車から降りたいか」



携帯を向けられた。



「あははー降りたくないー。歩いて帰るのやだー」

『ちょ、なまえちゃん!?』
「みょうじがそう言ってるからな、送っていく。心配するなアパートの前で降ろす」
『待て! お……』



佐助さん、なんか言ってたのに切っちゃった。
悪いなー石田部長。
人の話は最後まで聞かなきゃなんないのに。



ぽいっと携帯をほられて受け取った。



「佐助さん怒ってましたねー」
「そうだな」



それだけ言って、石田部長は車を発進させた。



佐助さん怒ってたけど、ま、いっか。
こういう時もあるよねー。







+++++





うーん、佐助さんから電話こないなあ。
さっきから三十分くらい経つのにー。


仕方ないかあ。





「あははー」
「また意味もなく笑っているのか」
「だってーなんか面白いー」
「意味が分からん。それより、貴様のアパートはこの辺か」
「あーこの建物いつも見てるー」
「じゃあ、この辺だな」



窓の外の流れる景色を見て自分のアパートを探す。
この辺だこの辺だ。

もうすぐ我が家につくよー。
待っててねマイホーム。







「あーこのアパートだ」
「ちっ、早く言え」


急ブレーキを踏んだからか身体が前のめりになった。

やば、今の感覚超楽しい。




「あは、ご迷惑おかけしましたー」
「全くだ。早く降りろ」
「えーなんでですかー?」
「後ろの車が今にも追突してきそうだからな」
「え?」


振り向くと、ヘッドライトが燦々と輝いていて眩しかった。
あれ、この車かなり近くない?



「この車、五分前からずっとつけてきている。どうせお前の男だろう」


なんでこの車って分かったんだろう。
私がどんな車に乗ってるか知らないはずなのに。
佐助さんってすごーい。


「早く降りろ」
「はーい。ありがとーございましたー」


お礼だけ言って車を降りると、石田部長が去っていって、その代わりに後ろに止まっていた車が私の目の前まで移動してきた。
窓が開くとしかめっ面した佐助さんが運転席に座ってた。



「あーやっぱり佐助さんだったんだー」
「車止めてくるから先に家に入ってて」
「はーい!」


右手を上げて大きな声で返事したのに佐助さんは無視して車を動かした。
うーん。怖いなあ。


電話でも怒ってたけどここまで怒ってるなんてなあ。



佐助さんの車を眺めながら階段を上り、部屋の中に入った。
階段で何回も躓いたけど何とか家に帰れたよー。
うえー疲れたー。
眠いー。


適当に靴を脱いでベッドに飛び込むと、ドアの開く音が聞こえた。




「何してんの」

「うへへー寝るのー」


枕を抱き締めながらそう言うとベッドが今以上に沈んだ。


「へ?」
「それ、もしかしてあの石田がいてもするの?」


何で佐助さんが私に跨ってるの?
眉間にしわ寄ってるし。


なんて思って居ると、枕を抱き締めていた腕は佐助さんに掴まれて、ベッドに押さえつけられた。



「さす、け、さん……?」
「ほんと、危機感足らないよなまえちゃんは」
「あ……え……?」
「こういうことだよ」
「んむっ……」


なんで、きすされてんの?


あれ?




「ん、ちゅ……ふっ……っ、ん……はっ、さ、すけさん……どこ、触って……」


深いキスと拘束から開放されたかと思うと胸になんだか違和感を感じた。



「一歩間違えれば、石田にこんな事されてたかもしれないんだよ」



佐助さん、安心したような悲しそうな顔してる。
なんだか、複雑そう。



「やだ」
「でしょ」
「佐助さん以外に触られたくない。佐助さんしかだめ」


悲しそうな佐助さんを何とかしてあげたくて、そう言うと目を見開いた。



「ちょ、こんな本音……」
「佐助さん?」


顔、赤くない?
佐助さん、もしかして酔ってるの?



「あ、のさ、俺様ならなまえちゃんに触っていいの?」
「うん。だって、佐助さんのこと大好きだもん」
「っ……! 酔ってるからって、それ反則っしょ」



苦しいのか、私の上に倒れこんできた佐助さん。
私の顔の横に佐助さんの顔があるからよく見えない。
首曲げたくても、佐助さんが重くて曲げられないし。





「佐助さん、苦しいの?」
「うん……ある意味苦しい。主に下半身……」
「え?」



何で、下が苦しいの?
足でも痛いの?



「なまえちゃん、もっと触っていい?」
「うん。ずっと触ってていいよ?」
「…………くっ!」




酔ってて記憶無いときには流石に……。
けど、なまえちゃんはいいって言ってるし。
けど、明日起きた時、なまえちゃんにばれたら怒られるよなあ。
怒られるどころか、嫌われる。
けど、俺様も限界点突破しそうだし。
けど、なまえちゃんを悲しませたくないし。
ってか、こんな時に盛ってる俺様、最低?
うわ、もしかしたらなまえちゃんにぶん殴られる?
いや、ぶん殴られるのは良いんだけど、佐助さんなんてだいっ嫌い! もう別れる! なんて言われたら自殺ものだ。




なんて、ぶつぶつ言ってる声が聞こえる。
半分以上は何言ってるかわかんないんだ。


それより……。




「佐助さん、触らないの?」
「っ! ……もう、むり」
「へ? なに?」
「もう、我慢できない……ごめんね、なまえちゃん」
「うん?」




起き上がった佐助さんはなんだか、怖い目をしていた。



怖い目だけど、怖くなくて、なんとなく、シマウマの気持ちが分かってしまった。



(ベッドがもっと沈んだような気がした)
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