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21 消し飛んだ記憶


眩しい光で目が覚めた。




「……んー……、ん?」


布団とは違う包まれた感覚。

いつもの温かさと違って、いつもより苦しい。


身を捩ると綺麗なさらさらの髪。
私より大きな身体。




「さ、すけ、さん……?」


え、うそ。
なんで?


ってか、佐助さん、服着てない。

下はタオルケットを被ってるから分かんないけど、上は確実に服着てない。
だって、鍛えられた胸板がすぐそこに見えてる。



「……え、なんで……え、あ、え?」



思わず起き上がると私に掛かってたタオルケットがするりと落ちた。


肌に直接触れる外気に下を向いた。




私の身体を見て思考が停止した。




「え、っ…………っ、ええええええ!?」



思わず叫んだ後、頭痛と吐き気がしてもう一度ベッドに沈んだ。




な、んで、はだか……。

それにだるいし、腰も痛い。


「おえ、きもち、わる……」


この感覚、前にお酒飲んだ時といっしょだ。
どうしてこんな事になったのか経緯を思い出したいけど、考えれば吐き気がする。

うーうーと、唸っていると佐助さんが動いた。



「ん」



やば、起こしちゃった?
……まだ私の気持ちが整理できてないのに。

何で私が裸なのか理解できてないのに。



頭痛のする頭で必死で考える。



佐助さんも私も裸って、考えられるのは一つしかない。



……男女の過ちだ。



「なまえ、ちゃん?」
「っ!」



いきなりの佐助さんの声に肩が震えた。


返事が出来なくて、タオルケットを頭まで被った。
ど、どうしよう。
佐助さんの顔見れない。



私の記憶がない内に、佐助さんとそんな事があったなんて。



昨日の記憶が全くない。


だって、だって、昨日、私は北河先輩の、送別会で。
佐助さんとなんか会う予定なんて、なかったのに。



どうして、こんなことに、なって……。



なんでだろう、怖い。
この前、佐助さんにお持ち帰りされたときと状況はあんまり変わらないはずなのに。


服を着てるか着てないかの違いだけなのに。





なんだか、こわい。





「なまえちゃん、怒ってる?」
「っ、い、え……」
「こわい?」
「だ、大丈夫です……」




佐助さんに嫌な思いをさせたくなくて、必死で嘘をつく。


いやだ、何れこうなる事はちゃんと分かってたのに。
佐助さんとはこういうことをしてもいいって思ってたのに。

いざこうなると、怖い。
しかも、記憶無いなんて。




「ごめん」



佐助さんが本当に申し訳なさそうに謝った途端、佐助さんが私をタオルケットごと抱き締めた。


「嫌いになった?」
「な、なって、ないです。ただ……」
「ただ?」
「ただ、少しびっくりして……全く記憶なくて……」



怖かったけど、佐助さんの体温を感じて少し落ち着いた。
そうだ、焦ってもなんの事実も確認出来ない。

どうせ頭痛と吐き気がしてまともに思考が働かないし。
倦怠感もあるし、正直何にも考えたくない。




「お酒、入ってたもんね」
「……っ、やっぱり、お酒飲んだんですか……」



でも、なんで?
昨日の送別会ではウーロン茶しか飲んでないはず。


すると、佐助さんの抱き締める力が少し弱まった。



「送別会で何があったか分かんないけど飲んじゃったらしいよ」
「そ、そうなんですか」
「そんで、いろいろあって、今日の朝を迎えたわけ」
「い、いろいろって、そこが一番重要じゃないですか!」



思わず、タオルケットから顔を出して突っ込んだ。



あ、と思ったときにはもう遅く、佐助さんと目が合った。
うわ、佐助さんの顔、今はあんまり見たくないのに。



けど、佐助さんが抱き締めてくれたお蔭か、今は恐怖より羞恥の方が勝ってる。


だって、佐助さんの顔近いし。
無理無理、心臓止まる。



顔をもう一度タオルケットで覆おうと思ったけど佐助さんにもう一度きつく抱き締められてそれは叶わなかった。




「やっと、顔見せてくれた」




佐助さんの顔がキスするときみたいに近くなった。

綻んだ顔は無邪気な子供のようで、思わず無理矢理にでも離れる事を忘れてしまった。
ああ、鼻と鼻とがぶつかりそう。



「嫌われたら、どうしようかと思った」



綻んでいた顔は不安そうに眉が下がっていて、少し震えてた。
こつん、とおでこ同士がぶつかって視線が交わった。


ああ、佐助さんの体温低いからなんだか気持ちいい。



「佐助さ……」
「ちょっと待って」
「え?」



私が佐助さんを嫌うはずがないじゃないですか、と言おうとすれば佐助さんに遮られた。



今度の佐助さんは、おろおろと焦っている。
私のおでこと佐助さんのおでこに手を当ててる。



「なまえちゃん、体温計どこ」
「へ? 体温計、ですか?」
「うん、なまえちゃんのおでこ熱い」
「ほ、本当ですか」



眉間に皺を寄せた佐助さんにそう言われて、とりあえず体温計の置いてある場所を教えた。
すぐさま起き上がった佐助さんを見て、思わず目ん玉が飛び出るかと思った。



「っ、さ、ささっさ佐助さん!!」
「なに?」
「ず、ず、ズボン穿いてください!!」
「え、パンツ穿いてるじゃん」
「ちゃ、ちゃんとズボンも穿いてないとだめです!!」
「照れてんの? なまえちゃん、かーわいー」
「ち、違います!!」



赤い顔を見られたら絶対にもっとからかわれるから、タオルケットに隠れた。


トランクスならまだしも、ボクサーパンツなんて……!
似合ってるけど! すごい似合ってるけど!
パンツのモデルの仕事でも来るんじゃないかってくらい似合ってるけど!

こんなのだめ!
恥ずかしくて死ぬ!




「なまえちゃんは、裸なのにねー」
「っ!!」


そ、そうだ、まだ佐助さんに昨日のこと教えてもらってない。
いや、予想は出来るんだけど。


なんで送別会にいてた私が、佐助さんと一緒に朝を迎えてるのかとか。


ごまかされたからハッキリしてない。




「ま、さっきのいろいろ、は熱が下がってから教えてあげるよ」
「絶対、ですからね……」
「約束するから、まずは体温測ってね」
「……はーい」



佐助さんから体温計を受け取って脇に挟んだ。




「寒くない?」
「少し、寒いです……」
「ああ、裸だしね」
「言わないで下さい!」
「ほんとのことなのにー。あ、俺様が着替えさせてあげようか?」
「け、結構です!!」
「あは、遠慮しなくてもいいのにー」
「え、遠慮なんて……っ、ごほっ」


なんだか喉に違和を感じて思わず咳が出た。


「ちょ、大丈夫?」
「ごほ、だ、大丈夫です」



心配そうに覗き込んでくる佐助さんに咳をしながら返事をすると、体温測定終了の音が鳴った。

体温計を見ると、佐助さんに言うのが気がねした。



「どうだった?」
「え、っと……」
「なに?」




「は、八度一分、です」
「ちょ、完全に熱あるじゃん!!」


早く服着ないと!! と佐助さんが慌てた。



そこら辺にあった服を取ってくれた。

そのまま私に渡してくれればタオルケットで隠しながら着替えられたのに、焦った佐助さんはそんなこと考えつかないのか、私を覆ってたタオルケットを引き剥がした。



もちろん、私はまだ全裸な訳で。





「なっ!?」
「あ、ごめ……」






「っ、い、いやああああ!! 返して!!」






すぐさまタオルケットを奪い取って亀のように隠れた。





「あは、いいもん見ちゃった」




(そう言った佐助さんを引っぱたきたくなった)
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