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22 ただ今看病中




「ごほっ、ごほっ……あ"ー……」



頭痛、吐き気、倦怠感に加えてのどの痛みや悪寒も出てきた。





「なまえちゃん、大丈夫?」
「うー……大丈夫です」
「いやいや、嘘つかないでよ」
「私より佐助さん、今日仕事は……?」
「あー今日は夕方からだし、後一、二時間くらいはいてられるよ」
「そうなんですか。大変ですね……」



休日にも仕事に出なきゃいけないなんて。
全然休めてないんじゃ。



「大変だけど、それ相応のお給料貰ってるからねえ。文句は言えないよ」
「そう、ですよね……」




佐助さんは私の給料の何倍も貰ってるんだから、文句言えないよね。
あーあ。
仕事休んで、なんて子供みたいなこと言えないよね。
我慢しないと。


一人暮らし始めて風邪引いたの初めてだから、なんだか心細いけど、仕方ない。




「俺様いないと、寂しい?」




にっこりと私の頭を撫でながらそういった佐助さんに、思わず素直に頷いた。


うわ、何やってんだろ、自分。
寂しいって知らせても佐助さんを困らせるだけなのに。




「……お酒入ったり、風邪引いたりすると、なまえちゃんは素直になるの?」
「忘れてください、今の」



恥ずかしい。
馬鹿だ、私。


恥ずかしくて、鼻のところまで佐助さんが出してくれた毛布を被った。

あ、フワフワで気持ちいい。




「いやいやいや、忘れられないでしょ。そんな可愛いの」
「可愛くなんてないです」
「そんな拗ねたように言われても無駄だって。余計可愛い。ちゅーしていい?」
「だめです」
「なんでー? 早く治るおまじないなのにー」
「佐助さんに、風邪移ったら大変じゃないですか」




私と違って佐助さんは忙しいのに。
しかも、たかが風邪だけど、されど風邪だ。
意外と辛かったりする。
こんな思いわざわざ佐助さんがする理由なんてないし。




「ああ、もう」

「え?」




佐助さんの呆れたような声が聞こえたと思ったときにはもう遅くて、鼻まで被った布団が剥がされた。



寒い、と感じた瞬間に唇が温かくなった。
ちゅ、とリップ音を立てて離れたあと数秒見詰め合って今度はおでこに熱を感じた。




「さ、佐助さんっ……ちょ」



おでこの次は右頬、その次は左頬とキスの雨が降ってくる。




「さ、すけさ……っ」




最後には唇に熱く深いキス。




「あ……ん、ちゅ……ふっ」
「なまえちゃん……」



離れた唇がもう一度近付いてきた。





「だ、だめです、ってば」
「だめじゃない」
「か、かぜ移りますよ……って、んんっ、やっ……」



危ない、これ。
頭ぼーっとしてきた。
流されちゃだめだ。




「っ、はぁ……」
「なまえちゃんの風邪なら大歓迎」
「ば、馬鹿じゃないんですか」
「俺様、なまえちゃん馬鹿だし」




うわ、その言葉、前にも聞いたことあるんだけど。




「なまえちゃん……」




「さ、佐助さん! まった!」
「……ふむっ」





もう一度キスをしてこようとした佐助さんの唇を掌で押さえた。
な、なんか本気で大変なことになりそうだったんだけど。




「お、落ち着いてください、私、一応病人ですよ」
「……え」
「え、ってなんですか。え、って」
「だって、俺様なんだか変な気分になってきた」
「や、やめてください! ま、まだ私の中ではそういうことは未経験っていう設定なんですから!」




馬乗りになろうとする佐助さんの肩を必死で押す。
やばいやばい。
なんだか、佐助さんの視線が熱っぽく感じるんだけど。
私はまだいろいろと整理ついてないのに。





「……あ、そっか。記憶無いんだったね。忘れてた」
「そ、そうなんです! げほっ、げほっ、だから落ち着いて!」
「ごめんね叫ばして。喉痛い?」
「す、少し……」




正気に戻った佐助さんはベッドから降りて私の頭の近くに座った。
私の頭を撫でてから首を触った。


おでこには冷えピタ張ってるから首で確認したんだろうな。
佐助さんの手、冷たくて気持ちいい。




「うーん、さっきよりも熱上がってるね」
「そう、ですか?」
「うん。もしかしてなまえちゃんも変な気分になってきた?」
「なっ、なってません!! ごほっ」
「冗談だって。喉痛いんだったら叫ばないの」
「だ、誰のせいですか……」



こんな時にもからかわなくったっていいのに。
ほんと、意地が悪いなあ。



むかつくから寝返り打って佐助さんから顔を逸らそうとしたけど、だるかったのでやめた。
うわ、佐助さんの言うとおり、本当に熱上がってきたかもしれない。





「この調子じゃ、相談するのは今度だね」
「そう、だん?」


少し残念そうに眉を下げた佐助さん。





「あーごめん。気にしないで。今は風邪治すのに集中して」
「気になるじゃないですか。言ってくださいよ」
「いいよいいよ。気にしないで」
「そんなこと言われたら気になりますって。考えすぎて余計に熱上がったらどうするんですか」




気になる。
佐助さんが私に相談なんて珍しすぎる。
ってか、初めてじゃない?



うわ、余計に知りたい。




「教えてくださいよ」

「……もう、そんな顔されちゃ、断れないじゃん」



そんな顔、ってどんな顔?
そんなに変な顔してたかな、私。


うわ、やだ、キモかったかな。



ぺたぺた自分の顔を触っていると、佐助さんがその手を取ってそのまま佐助さんの両手に包まれた。




「あのね、俺様に映画の話が来てるんだ」

「え!? す、すごいじゃないですか! げほっ」
「はいはい、落ち着いて。大きな声出さないの」
「……はーい。で、何でそんなすごい話を相談するんですか?」
「受けようか迷ってて」





何でそんなすごい話を迷う必要があるわけ?
映画の出演なんて人生に何回もあるもんじゃないのに。
名誉なことだよ。




「なんで、迷ってるんですか?」
「いや、あのさ……」




なぜか言葉を濁して眉間に皺を寄せた佐助さん。
私の手を握る力も強くなった。



ただならない雰囲気になんか私も不安になってきた。






「……濡れ場、あるんだ」



(佐助さんの言っている意味が、一瞬よく分からなかった)
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