旦那の岡惚れ | ナノ




12 猪突猛進が俺の特徴





「では、某はこれで」
「おーお疲れー」
「お疲れ様です!」


部室から飛び出し、俺は校門に向かって走った。


今日は佐助の買い物に付き合うため、三十分発の電車に乗らねばならぬ。
お盆前最後の買い物だと言っておったから団子やアイスを買い置きせねば!


部活の疲れなど吹っ飛ばして駅まで全速力で走るぞ! と意気込んで、校門を出たとき、一人の女子がこちらに向かって歩いてきた。




「っ!」

あ、あの体系と髪の長さは……!


思わず、急ブレーキをかけて止まった。



「ひ、姫……!」



な、なぜ、学校に!?
私服でいらっしゃる故、学校に用事があるとは思えぬ。

で、では、一体なぜ……?


レジ袋を持っていらっしゃるから、どこか遣いにでも出ていらっしゃったのだろうか。



いや、それよりも早くここから退かねば!
姫は、俺の方へ歩いてきていらっしゃる。

このまま立ち止まっていては、姫と行き会ってしまうではないか。



……しかし俺は学校から駅へ向かわねばならぬ。そして姫は駅から学校へと向かっていらっしゃる。
すれ違うのは確実ではないか。

どうすればよいのだ。

姫と俺の間の道に曲がり角などない。
学校内に戻るか? しかし、俺ごときが姫を避けても良いのか?

……良いわけあるまい。



では、このまま姫の隣を通り過ぎるしか道はないではないか。



震える足を一歩一歩出した。


どんどん姫との距離が近くなっていく。
姫は、俺の存在に気付いておられるのだろうか。



俯いて、できるだけ端によって歩く。



この頃は写真でしか拝見できなかった姫が俺の近くに居る。
ああ、それだけで最高の贈り物だ。


そう思って居ると、視界に姫の足が映った。
ああ、もうこんなに近くに……。

それに、姫のおみ足が……!
そのように足を出してはいけませぬ! と注意したかったが、声が出るはずも無く通り過ぎようとした。


「あれ? 真田君?」
「っ! はははは、はひ!」



ああ、なぜ噛んでしまったのだ!
話しかけられずにそのまま通り過ぎると思っておったのにまさか、姫からお声がかかるとは……!

姫に呆れられてしまうやも知れぬ。
なぜ、はい。と言うだけで噛んでしまうのだ!



「あは、いきなり声かけたからびっくりした?」
「い、いえ! そのようなことは……!」


そう、首が取れるほど振ると、姫はそっか。と仰り笑顔になられた。
っ! 久しぶりにこのような笑顔が拝見できた!

写真の笑顔も良いが、やはり生の笑顔が一番だ。


「部活の帰り?」
「は、はい!」
「そっか、お疲れ」
「はは、はい!」



姫から労いの言葉を頂けるとは……!
このような言葉を貰えるのなら、俺は死ぬほど走っても構わぬ!




「あ、そうだ。運動の後には甘い物が良いんだよ」
「そ、そうでございますか」
「だから、チョコあげる」


手を取られ、小さな袋に包まれた一口サイズのチョコレートが乗せられた。


「え? あ……」
「さっき、コンビニで買ったんだよ」
「あ……う、いた、だいても……?」
「うん。これからも頑張ってねー」


じゃ、ばいばい。と姫は手を振り、俺の隣を通り過ぎた。



「あ、あ……姫から……」



労いの言葉だけでなく、贈り物や激励の言葉までも頂けたのか。


この前は、お詫びの印と言う事で飴をくださった。
しかし、今回は違う。


ただ純粋に、労わり、応援してくださったのだ。



ひ、姫が俺などに……。




俺はなんという幸せものなのだ。



湧き上がる歓喜に、堪らず俺は頂いたチョコレートを握り締めて走った。




「姫が、姫が……俺に……!」




電車の存在も忘れて、俺は家に着くまでの三駅分の帰路を駆け抜けた。



(貴女に少し近づけた気がした)

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