夢うつつ | ナノ




私が学校行ってる間、幸村なにしてるんだろう。
暇だろうし、そこら辺をうろうろ散歩するのかな。
うわ、すぐ飽きるよよね。


「ねぇ、幸村?」
『何でござるか?』
「今日、一緒に学校行く?」
『え、よろしいのですか!?』
「敬語」
『あう……すまぬ』
「いいよ。で、一緒に行く?」
『い、行くでござる』
「分かった」


幸村ってば、昨日と一昨日あんだけタメ口の練習したのに、まだ癖が残ってるし。
いい加減なれて欲しいな。


「なまえ? なに一人でぶつぶつ言ってんの。早く食べないさい」
「あ、はーい」


うーん、お母さんとか他の人に見えてないから、不便だなぁ。
ちゃんと二人で喋ってるのに、独り言みたいに聞こえるんだし。

『すまぬ……』
「幸村は悪くないよ。家出てから喋ろっか?」
『うむ。某は外で待っておる』
「ん」


そう返事すれば、幸村は窓をすり抜けていった。
さっさと家を出るためにご飯をかきこんで、歯磨きした。

「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
  

家を出ると、幸村が自転車に座っていた。
 
「あ、自転車に座れるんだ」
『いや、座っているより、浮いている状態でござる』


某のような霊は物質に触れることは出来ぬので。と言ってふわりと自転車を降りた。
霊って不便だね、物に触れられないって結構大変じゃん。
まあ、霊には関係ないんだろうけど
 
「ふーん、じゃ行こっか」
『うむ』


自転車に跨り、普通のスピードで駅に向かうと幸村は飛んできた。
すごい、結構なスピードで走ってるのに幸村は浮いてるから余裕でついて来てる。


「疲れないの?」
『霊は疲労感を感じぬから大丈夫でござるよ』


涼しい顔して、私の隣を飛んでる。
うん。やっぱり霊は便利だよ。
空飛べるなんて羨ましい。

私だって飛びたいよ。
死にたくはないけど。


「ねぇ、幸村の家の近くの駅ってどこ?」
『この駅より二つ前でござる』
「そうなんだ」


ってことは、時間が合えばいつも私が乗ってる電車に乗ってるってことだよね。 
駐輪場に自転車を止めて、改札へ行くためにエスカレータに乗った。


結構私の家から近いんだ。
今までに会ったことあるかもしれないじゃん。

私は見たことないなぁ。

「ねぇ、幸村って電車で私のこと見たことある?」
『え、いや、見たことない、でござるよ……?』 


何をそんなにうろたえてんの?
なんか汗が見えるんだけど。

霊のくせになんで汗かいてんの。
てか、霊が汗かくとか聞いたことないよ。


なんか、隠してるっぽいけど。
まあ、誰でも触れて欲しくないことはあるし、いいか。


なんて思いながら、改札を通ってホームに下りたらちょうど電車が来た。


「うわ、超良いタイミング」
『あっ……!』
「ん?どうしたの?」
『あ、いや……友が乗っていたのでござる』
「そうなんだ。まあ乗っていてもおかしくないよね」


降りるの同じ駅だし。
方向だって一緒だし。


「仲良い友達だったの?」
『うむ。兄弟ともいえる一番仲の良い友でござる』
「そうなんだ。同じ高校?」
『そうでござる』
「どん……」

どんな人?って聞こうと思ったけど、周りの人が私を見てることに気付いた。
あ、やば……またやっちゃった。

幸村もそのことに気付いたのか、すまぬと小さく謝った。

周りの人は私は一人で喋ってるように聞こえるんだから気をつけないと。









結局、電車に乗ってる間は幸村も気を遣ったのか、消えていた。
学校に着いても、幸村の姿は現れなかった。

あれ?どうしちゃったんだろ。

別に消えるのは駅の間だけでよかったのに。
成績渡しで午前中授業だから、もう帰るのに。



「ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、分かった」
 
昇降口に向かう途中、友達に断ってから人気の少ない北階段に向かった。
友達には嘘付いたけど、良いよね。

 
 

「……幸村?」
『何用でござるか?』
「っ……!?」


北階段について小声で呼べばすうっと姿を現した。
軽く心臓が止まりそうになったけど、声を抑えることが出来た。

これが幸村と出会って身につけたスキル。


『す、すまぬ。脅かすつもりは……』
「別に良いよ結構慣れてきたし。それよりどこ行ってたの?」
『さっきまではなまえ殿の横にいたが、今は木に登っていたでござる』
「そうなんだ。ってか何で木に登ってたの?」

『いや、その……なまえ殿がトイレに行くと……』
「ああ、それでかぁ」


幸村はトイレまで着いてくるようなやつじゃないもんね。
他の変態な男だったら、女子更衣室か女子トイレにずっと隠れてるよ。絶対。
その点、幸村ってほんと男前だよ。


「ねえ、何で姿消してたの?」
『某が姿を見せていればまたなまえ殿は他の人間に変な目で見られるであろう』
「うんまあ、そうだろうけど」
『某のせいでなまえ殿を不快にさせるなど嫌でござる』
「別に良いのに」
『某が納得できぬ』


あはは、ほんと律儀っていうか、固いというか。
それが幸村の良いところなんだろうな。


『某は、明日から家で大人しく留守番しておる』
「そこまで神経質にならなくても良いって。それに授業聞いておかないと自分の身体に戻ったとき大変じゃん」

まあ、あと四日で終業式だけど。


『そうだが……なまえ殿はよいのか?』
「うん。いいよ」


そう言えば、幸村の顔が花が開いたように明るくなった。
わーすごい眩しい笑顔。

まるで…………って、え?


「うそ、え……ないないない」
『なまえ殿?』
「え、あ……何でもない。もう予鈴なるから教室行こ?」
「うむ!!」


見えた幻覚を振り払うように頭を左右に振って教室へ向かった。



(犬の耳と尻尾が見えたなんて、私疲れてるんだ)
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