夢うつつ | ナノ




『なまえ殿っ! 遊びに……』
「ひいっ! び、びっくりしたぁ」
『あ、わわわっ!? ももも、申し訳ございませぬ!!』



手を開いたから持っていたジーパンがぼとりと下に落ちた。


そして、なぜか赤くなった幽霊さんは慌てて窓の外に出た。
いきなり窓をすり抜けてくんなって言っとかないと。
ここに来るたび驚かされちゃ、寿命が縮む。


『は、破廉恥ぃ……』

 
何が破廉恥だ、なにが。
この幽霊さんはなに言ってるか不明だよ。 


「もう驚かないから入って良いよ」
『きき着替えは終わられましたか!?』
「あ、まだ」
『そそそそれでは入ることはできませぬ!』

 
うろたえ過ぎでしょ。
つか、別に幽霊なんだから着替えシーンを見られてもなんとも思わないんだけど。 


それに思春期の男子だったら、見たいってのが普通じゃない?
……まぁ、私の身体には思春期でも興味を示さないかもしれないけど。


「別に着替えぐらいで……」
『そ、某は嫁入り前の女子の着替えを覗くような不躾な輩ではございませぬ!!』


古いよ。考え方が古い。
いつの時代だよ。

まぁ、それだけ純情ってわけか。
これで赤くなって出てった理由がわかった。

 
ぱっぱと着替えを済まして、幽霊さんを呼んだ。
いつまでも外にほっぽり出すわけには行かないし。


「着替え終わったから入ってきなよ」
『ま、真でございますか……?』
「嘘付いてどうすんの」


どんだけ着替えシーン見せたいんだよ。
私は恥女なんかじゃない。


『し、失礼致します……』
「ふはっ……! 顔トマトみたいになってる!」

やば、すっごい赤い!
どんだけ照れてんの。


『そ、そんなに笑わないで下され』
「あははっ、ごめんごめん」


あー涙出てきた。
幽霊でも顔赤くなったりするんだ。

呪い殺すとか恨みを晴らす事しか考えてないと思ってたのに。
赤くなるのは、血がついてるときだけなんてイメージ持ってたのに。
印象がかなり違う。

良いほうの印象で良かったよ。


「で、何するの?」
『そ、某は親交を深めとうございます』
「ふーん、まぁそうだよね。早く自分の身体に戻らなくちゃいけないんだし」


そう言えば、この幽霊さんはなんで幽体離脱の状態になったんだろう。
事故だってことは聞いたけど、詳しいことは聞いてない。


「ねぇ、幽霊さん」
「幸村と呼んでくだされ」
「じゃあ幸村はなんで幽体離脱しちゃったわけ?」



ベッドに腰掛けながら聞けば、幽霊さんも床に座った。

『そ、それは……理由が恥ずかしいものでございますが……』
「ん? 別に良いけど?」


なに? 女の裸を見て卒倒したら頭打って、魂が出てきたとか?
そんな理由だったら爆笑してやる。


『その……子供がボールを追いかけ、国道に飛び出して車に轢かれそうになるのを助けようと……』
「え、それで自分を犠牲に子供を救ったの?」

『はい。本当は自分も助かるつもりだったのですが、子供を助けるのが精一杯で、某は車に轢かれて魂が出てきてしまいました』
「国道だったらかなりスピード出てたんじゃないの? 即死じゃなかったの?」


よく植物人間になるだけで済んだよ。
本当だったらすぐにお陀仏になるはずなのに。

『車が某たちに早めに気付いていたのか、急ブレーキを踏んで減速した上にサッカーの練習試合で荷物が多かったので』
「それがクッションになったってこと?」
『そうでございます』
「奇跡だね」


こんなことってあるんだ。
私だったら絶対即死だろうな。
まぁ、まず子供を助けられる根性も運動神経もないし。
もし、助けに入ったとしても二人仲良くお陀仏ってとこだよ。

 
命を懸けて知らない子供を助けるなんて格好良い。
こんな漫画みたいな出来事が現実に起こるなんて信じられない。

 
「幸村ってすごいね。格好良いよ」
『なっ!?』
「うわ、超真っ赤。幸村って照れ屋なんだ」
『お、女子にそのようなこと言われれば誰でも照れてしまいます……』
「軽く受け流せば良いのに」
『で、出来ませぬ……』


素直で正直な子なんだ。
それでこそスポーツマンだよ。


「あ、そうだ。サッカー部だったんだよね?」
『はい』
「もしかしてエースだったとか?」
『はい。恥ずかしながらやっております』


エースとか一番上手い人しかなれないんじゃないの?
すごいじゃん。
サッカー上手なんだ。

幽霊だけど筋肉とかもついてるの見えるし、サッカー一筋ってことが分かるよ。


「どこの高校?」
『婆沙羅高校でございます。なまえ殿の高校から近いでございましょう?』
「ホントだ。同じ駅じゃん」


ってか、なんで私の高校知ってるんだろ?
まぁ、幽霊だし。私に姿を現す前にいろいろ調べたかもしれないし。 
じゃ、私のこと何でも知ってんのかな。


「私のことって結構調べた?」
『え、あ……まぁ』
「そっかー。どこまで知ってんの?」
『某と同い年ということや高校、誕生日や家族構成などを……』


幽霊って結構便利なんだ。
姿を消したら何でもし放題だしね。




「ねぇ、同い年なんだったら、タメ口でいいよ?」
「え、しかし……」
「敬語ってさ、距離あるみたいだから嫌なんだけど」
「う……では努力致します」
「それ敬語」
「あ、えっと、努力致す」
「うーん、それも敬語っぽいけど良いか。これからタメで話せるように頑張ってね」
「は……う、うむ」

 
あ、今くせではいって言おうとした。
まぁ、これから頑張ってくれれば良いか。

なんか敬語だったら仲良くなれそうにないし。

なんて思っていると、下から声がした。


「なまえー! 昼ごはん食べにきなさーい!」
「あ、お母さんだ。じゃ私食べに行って来る」
「分かり申した。某は外で待っております」
「うん。じゃぁまた後で」
「うむ」


ご飯食べ終わったら自己紹介みたいなの続けよ?とだけ告げて私は部屋を出た。
信頼しあうためにはお互いのことを知らないといけないしね。
私の紹介することも考えとかないと。



(君と仲良くなりたいから)
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