『現実だとお分かりいただけましたか』 「あ、あああのっ! 私を呪っても全然楽しくないですよ!?」 『いや……その……』 「私根性ないですし、すぐ死んじゃうんで! おおお願いですから、成仏してくださいっ……!」 『ど、土下座など止めてくだされ!あと某はまだ死んではおりませぬ!』 この幽霊、まだ死んでることに気付いてないんだ。 この前の某怖い話で死んだことに気付いてないお化けがいるって言ってた。 無意識に私にとり憑いて、殺すつもりだ……! 『そ、某は真田幸村と申します。貴殿に頼みたいことがあり、お伺いさせていただきました』 「かか身体を乗っ取るつもりですか……!?」 『違います! その……某を助けていただきたいのです!!』 「た、助ける?」 『はい。某は事故で植物人間状態になっております』 植物人間? ってことはこの人はまだ生きてるってこと? この人、生きてるの? いやいや、ただ植物人間って思い込んでるだけかも……。 『信じてもらえていないようでございますな……』 「え、いやっ……」 正直に答えたら、呪い殺される……? うわぁ……言えない。 『指輪が赤く光っているでござろう?これが肉体と魂を繋ぐ鎖でございます』 「肉体と魂……?」 『うむ。この光が消えたときが肉体と魂が完全に離れた、所謂死んだという証になるのです』 「光っている時は生きてるの?」 こくりと頷いた幽霊さん。 これって、本当のこと? 嘘だとは思えないし……。 こんな怪しく光る宝石なんて見たことない。 それに宝石が光源になってるなんて……。 『某は今平たく言えば、幽体離脱の状態』 「え、幽体離脱だったら、自分の身体に戻ればいいんじゃ……」 『それが、出来ぬのです……』 出来ない……? 普通に自分の身体の中に入れば良いんじゃないの? 『某が自分の身体に戻るためには、力を持った人間が必要なのです』 「もしかして……」 『はい。貴殿がその力を持った人間』 「そんな……」 私が力を持ってる? 全然腕立てとか出来ないんだけど。 『貴殿は某を救う力を持っておられます』 「だから、助けてほしいの?」 『はい』 「断ったら?」 『了承していただけるまでここに留まるつもりです』 拒否権はないってことか……。 OK出すまで化けてでられても困るし。 まぁ、呪い殺されないなら協力しても良いよね。 さっさとやって、私の前から消えてもらおう。 そして、いつもの平和を取り戻すんだ。 「じゃあ、何すれば良いの?」 こういうのって、やっぱりなんか魔王的なもの倒すの? 私勇者役? そんなの無理だって、私力なんてないし。 『某と仲良くしていただきたいのです!』 「は?」 『必要なのは、生霊と力の持った人間が心の底から信頼しあい、息がぴったり合うこと。それが出来た後は貴殿が某の肉体に触れて頂ければ良いのです』 「それだけ?」 『甘く見られておられますが、それが難しいのです』 「なんで?」 別に魔王とか倒すほど大変じゃないでしょ。 信頼すれば良いだけじゃん。 『人間同士でも心の底から信頼することは難しい。それを生きているとはいえ幽霊と人間が心を通わせるなどは至難のこと。特に貴殿のような幽霊嫌いではいくら半分某が生きているとはいえ、難しいでございましょう』 「あ、そっか……」 信頼出来る人と出会えることは少ない。 もしかしたら一生会えない事もあるかもしれない。 生きてる人間同士でも難しいのに、幽霊なんて人間とは種類が違うし私が苦手なものなのに信頼しあうなんて……ちょっと無理かも。 「じゃあ、霊が怖くなくて力を持ってる人にすれば良いんじゃ」 『そ、それが……』 そうすれば私から離れる上に霊が怖くない人の方がより効率的に信頼しあえるだろうし。 良心でそういえば、少し悲しそうというか困ったように唸った。 『力持つ人は、一億人に一人と言われております』 「はぁ? 一億人に一人って日本に一人か二人しかいないってこと!?」 『その通りです。某は外国語があまり得意ではない故外国には行けませぬ。それに日本にいたもう一人のお方も先日お亡くなりになられました』 うわぁ……。 もう私しかいないじゃん。 「……分かった。仲良くするよ」 『本当でございますか! ではよろしく頼みまする、なまえ殿!』 手を差し出されたので、握手をしようとすると、すり抜けた。 「あ」 『あ』 すり抜けたとき手に感じたのは夏にもかかわらず冷たい冷気だった。 (そういえば幽霊だったんだ) [戻る] ×
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